FNSドキュメンタリー大賞
ある日突然、村にパソコンがやって来た!
パソコン普及率日本一
日本中の注目を集めた村挙げての電脳化計画
過疎・高齢化の山田村始まって以来の騒動記

第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『電脳村の火星人 〜山田村6年目の夏物語〜』 (制作 富山テレビ)

<10月10日(水)深夜27:10〜28:05>
 富山県の中部に位置する山田村。駅もコンビニも無い、これといった特産物も無い、日本のどこにでもあるような山奥の村。しかし、ただ一つ違ったことがありました。それは村中の各家庭にパソコンがあることです…。
 山田村は5年前の夏、当時の国土庁の地域交流拠点施設モデル事業の採択をうけ、村中の家庭に無料でパソコンを配布する電脳化計画を立てた。各家庭に配られたのは、1台35万円のテレビ電話付きパソコンセット。総額3億6千万円をかけた、村始まって以来の一大プロジェクトだった。高齢化が進むこの村で、ほとんどの人はパソコンを見るのも触るのも、もちろん初めての経験。
 突然、家にやって来た不思議な白い箱。どうやら村を変えてくれるらしい。一体、何が起こるのか?ほとんどの村人にはさっぱり分からなかったが、パソコンにかける期待は高まった。
 ネットを通じて村中の家庭に成人式の様子が生中継され、趣味の写経をキーボードで打ち込むお年寄りも現れた。村のホームページも登場し、一軒一軒の家がアイディアを凝らしたデジタルタウンで、新しい形のコミュニケーションの誕生した。何かが変わる。そんなムードが、村中を包みこんだ。
パソコン普及率日本一。村挙げての電脳化計画は日本中の注目を集めた。
が、しかし…。
 村はいつしか「電脳村」と呼ばれることが重荷に感じるようになっていた…。

 こんな導入部で始まるのが10月10日(水)放送の第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『電脳村の火星人 〜山田村6年目の夏物語〜』(制作 富山テレビ)だ。
 取材のきっかけについて富山テレビの前谷喜光ディレクターは、
「山田村は過疎と高齢化という大変厳しい様々な問題を抱えています。農業従事者の大半は60歳以上の高齢者のため、年々段々畑は歯抜け状態となっています。さらに、米価格の低迷と国の減反政策が追い討ちをかけ、人口はとうとうピーク時の半分の2000人を切ってしまいました。ITバブルがはじけて、IT不況といわれる今日。電脳・山田村の話は、日本のどこにでもあるのではないでしょうか。過疎と高齢化に悩み、村おこしに躍起になっている村はITという夢に飛びつく。ハードは揃えたけれども、ネット上に流す肝心のソフトが育たない。いつしか夢は色あせていくという構図です。そんなことが、この取材のきっかけでした。そして、これは番組になると手応えを感じたのはある村人との出会いでした」と語る。

 山田村で、未だにITへの夢を諦めない一人の男がいた。村の電脳化の仕掛け人、倉田勇雄さん(48)。山田村で生まれた倉田さんは、石川県の大手機械設計事務所に就職。独立後、高齢になった両親の面倒を見るため村に戻り、機械設計の仕事を続けていた。
 パソコンとインターネットを使えば、田舎でも都会でも変わらない仕事ができる、と言う倉田さんは、5年前の電脳化計画でも中心人物として活躍。講習会のボランティア講師を務めるなど、パソコンの可能性を訴える活動を続けてきた。
 村の主な産業は、なんといっても農業だ。ITで農業を活性化できないか…。
 そんな夢を追う倉田さんは、ITを駆使した農業の活性化にも取り組んでいる。山の斜面に段々畑が広がる山田村は、気温の差が大きく、美味しいお米を作るのに適した土地だが、実に900メートルに及ぶ標高差は、高齢化が進む農家とって、とても大きなハンデになっている。平地の何倍も負担がかかる段々畑での農作業。そのハンデを克服するため、倉田さんはITを使った遠隔農業に取り組んでいる。畑に足を運ばなくても、離れたところから農作物の管理ができる遠隔農業システムは、完成すれば、村の大きな武器になるという。
 私費を投じながら、たった一人で夢を追い続ける倉田さんは、村人の理解を超える行動から、いつしか「火星人」と呼ばれるようになっていた。
 夢を訴え続ける倉田さんは、21世紀を迎えた今年の夏、村の将来を賭けたある計画を実行に移すことを決心した。それは、過疎と高齢化に悩む村を救うきっかけになる、大きな可能性を秘めたビッグイベント…。
 その計画とは、光ファイバーを使って、最先端のブロードバンドを村人に体験させる、その名も「光ファイバー祭」。多くの情報をやりとりする遠隔農業を成功させるには、村中の畑に光ファイバー網を作る必要がある。その第一歩として、光ファイバーの威力を体感してもらい、もう一度ITへの関心を呼び戻そうというものだった。
村のハンデを克服する遠隔農業の実現には、光ファイバーが絶対に不可欠と言う倉田さんはある日、集会に集まった村人たちに祭りの計画を打ち明ける。
 しかし、それは、またしても村人の想像を超え理解されず、その実現には、いくつもの壁が立ちはだかる。そして実行に移すことで、さらに波紋が広がっていく…。

「結局パソコンでは何も変わらない、描いていた夢の世界にはならない、という現実を前にパソコンから離れてしまった村人。これに対しいまだにITの可能性を信じて、その夢を追い続ける倉田さん。この両者の意識の差が開き、倉田さんは村の中でどんどんドンキホーテ化していく、浮いていく、というストーリーが展開していきます。
 そして、両者の意識の乖離が決定的な形で現れます。祭りの準備会を開くため、倉田さんはめぼしい人たちに全員電話を入れボランティア参加を呼びかけますが、結局、誰一人として応じませんでした」
(前谷ディレクター)

 ドンキホーテになりながらも村の可能性を信じて精力的に動いていた倉田さんですら、ついに諦めようとしてしまう、というところに意外な「救世主的人物」が現れ、番組はクライマックスを迎える。果たして、この人物とは…?

 取材を終えた前谷ディレクターはこう語る
「山田村の電脳化計画も若者の流出を止めることはできませんでした。しかし、そのことが村にはITが不要、年寄りにパソコンは無駄と、短絡的に結び付けられないと思います。21世紀、何が正しいのか、ひょっとして倉田さんのように山村に価値を見出そうとした者が幸福になれるのかもしれないのです。ただ言えるのは夢を忘れず前向きに何かをすること、そんなことが人生の価値を決めるのかもしれないのです。番組のエンディングでは村に再出発へのエールを送りたいと思います」
 さあ、山田村始まって以来の騒動はどのような結末を迎えたのか?


<番組タイトル> 第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『電脳村の火星人 〜山田村6年目の夏物語〜』
<放送日時> 10月10日(水)深夜27:10〜28:05
<スタッフ> ナレーション : 銀河万丈
構    成 : 鍵谷真二
ディレクター : 前谷喜光
プロデューサー : 中西 修
<制 作> 富山テレビ

2001年9月27日発行「パブペパNo.01-329」 フジテレビ広報部