FNSドキュメンタリー大賞
剪定・ゴミ出し・机の修理、そして花壇の手入れ…学校を守りつつ、こどもたちの心を癒すという役割も担ってきた「用務員」さん
しかし今、その存在は“人減らし”という波に攫われようとしている


第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『こちら用務員室 〜教育現場の忘れ物〜』 (制作 テレビ静岡)

<10月3日(水)深夜26:40〜27:35>
 その昔、“小使いさん”と呼ばれた用務員は住み込みだったため、必ず学校にいてくれた。親が仕事で帰りが遅かったりすると、よく用務員さんの家に行き、先生に話せない悩みを聞いてもらったものだ。しかし今は、経費削減から、住み込みの用務員は殆どなくなり、他県では、派遣会社に仕事を依頼したり、全く用務員を配置しない自治体も出てきている。
 無人の学校に入り、門や校舎のカギを開け、やかんで湯を沸かしゴミを回収する。雑用に見えるが、用務員はこどもたちの心の支えになってくれた。用務員がいてくれれば、学校の窓ガラスがバリバリ割れる事件はここまで増えなかったのではないか?その存在は今、どう変化しているのだろうか?
 テレビ静岡の橋本真理子ディレクターは、「今回このテーマを選んだのは、小学校の用務員さんに再会したことがきっかけでした。一人っ子の私は、帰っても両親が仕事で留守のため、よく用務員さんの家に遊びに行き、たわいない話をしたり、お菓子を貰ったり、時には宿題を教えてもらったりしました。私の出身地は田舎だったため、まだ用務員さんは家族で住み込んでいました。あれから20年。私の記憶の中から、用務員さんとの思い出が薄れようとしていた矢先、用務員さんが私のことを覚えていて、声をかけてくれたのです!この時、今、用務員さんはどうしているのだろうか?と疑問を持ち取材に入りました」と話す。

 静岡市立城北小学校に開校から勤務する佐々木健治(ささき・けんじ)さん(54歳:用務員暦26年のベテラン)と、相棒の杉山敏郎(すぎやま・としろう)さん(50歳:6年前、給食センターの調理員から用務員に転向した)の2人。
 剪定・ゴミ出し・机の修理…仕事は多種多様で、先生やこどもから依頼があればすぐに飛んで行く。本来、用務員は、「縁の下の力持ち」という存在で、記憶に残っている人は少ないのが一般的だが、この2人を知る子供は多い。そして、教師も「用務員室に来れば、本当のこどもの姿が分かる」と話す。
 佐々木さんと杉山さんのいる用務員室には、多くのこどもたちが遊びに来る。卒業生が置いていったハムスターは女の子の人気の的だ。わいわい騒ぎ、佐々木さんに抱きついては帰るこどももいる。2人は先生と違って怒らない。こどもたちにとって用務員室という空間は、居心地のいい場所だった。佐々木さんは言う。
「こどもたちも鬱憤がたまることがある。だからあまり怒れない…」と。
 用務員室には、ただ遊びに来るこどもばかりではない。不登校気味のこども、転校してきたばかりでクラスになじめないこどもも来る。佐々木さん・杉山さんは、その子が1年生の時から見ていて、どんな風に成長し、どんな性格なのかよく知っているため、クラスを抜け出してしまった場合は、用務員室で預かっている。先生も、無理矢理クラスに帰そうとはせず、気分が落ち着いたら帰ってくればいいと考えている。


 しかし、今用務員は、削減される方向にある。行政は財政難から、仕事が単調と見られている用務員・清掃員・給食調理員といった現業労働者(市の職員)を、経費の安い民間委託に切り替えようとしているのだ。確かに、佐々木さん・杉山さんのように、必死でこどもと関わろうとしている用務員ばかりではない。このままでいけば知らない間に、用務員は将来、いなくなるかもしれない。浜松市職員組合が行った市民アンケートでは、3割の市民が、用務員や給食調理員を民間委託にすべきと答えている。その理由は税金の無駄遣いだから。用務員が消えていく…。用務員が背中で伝えてきた「物の大切さ」は誰が今後教えていくのだろうか?授業だけでそれが伝わるのだろうか?
 佐々木さん・杉山さんも、「人減らし」の危機感は十分肌で感じていた。このままではいけない…2人は、必死にこどもと、そして先生と関わり、自分たちが生きる場所を探している。授業の手助けはできないか?こどもが飛び出したら、先生の負担を少なくする方法はないか?自分たちは教師ではなく、素人だけど、花のこと・木のことはよく分かる。単なる話し相手にはなれる。持っている知識をそっと伝えようと動き出した。学校の脇役として。みんなで学校を作るんだ、と。

 番組では、特に行動が多動な新1年生、不登校気味のこども、転入してきたばかりで友達ができないこどもを中心に、用務員がどう関わり、そして悩む先生をどう助け、ほっとさせていくのかを描く。
 学校には、先生ではない立場でこどもを見守る、第三者が必要な訳、そして、学校の中にも、逃げ場所が必要な理由を伝えていく。

 取材を終えた橋本ディレクターはこう語る。
「用務員さんという第三者の目を通して、今、学校が様々な問題を抱え、それに対応する先生がいかに大変かを知りました。そして、不登校一歩手前のこどもが、教室には行けなくても用務員室に来て、新聞紙を縛ったり、ペンキ塗りを必死にやっている姿を見て、もうひとつの教室がここにはあると思いました。授業で学べない、生きた道徳がここにはあると。学校に来れるってすばらしい!と…」


番組内での「用務員」という表現について
 全国では「用務員」という言葉を使っていない自治体、差別用語と捉えて「校務員」「管理作業員」など別の表現を使っている自治体もありますが、静岡県では「用務員」という表現を使い、各学校では「用務員室」とプレートを掲げ、子どもたちにも「用務員さん」または、名前で呼ぶよう指導しています。
 主人公になっている用務員さん自身も「用務員」という言葉に差別感を抱いてはおらず、この職業に誇りを持って毎日仕事に専念していること、表現を変えることで、逆に「用務員」という言葉を差別用語と位置づけてしまう恐れがあるため、変更なくタイトル・本編で使用しています。寺子屋の「番さん」から「こづかいさん」「用務員さん」と呼び方が変わってきた歴史も紹介しておりますが、これも変えられない事実ですのでご了承ください。
テレビ静岡報道局制作局報道部 番組ディレクター 橋本真理子


<番組タイトル> 第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『こちら用務員室 〜教育現場の忘れ物〜』
<放送日時> 10月3日(水)深夜26:40〜27:35
<スタッフ> プロデューサー : 山田通夫、小林幹雄
取 材・構 成 : 橋本真理子
撮    影 : 杉本真弓
撮 影 助 手 : 山本洋久
編    集 : 上田雅昭
効    果 : 長田 渉、山川英夫
美    術 : 西川清美
<制 作> テレビ静岡

2001年9月17日発行「パブペパNo.01-314」 フジテレビ広報部