FNSドキュメンタリー大賞
各地で続けられる人間本位の公共事業…
環境破壊は小動物、そして人間にも様々な弊害をもたらした


第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ボクらだって生きている〜小さな生命のS.O.S.〜』 (制作 テレビ宮崎)

<7月18日(水)深夜26:55〜27:50>
 4年前、当時小学校2年生だった原田喜基(はらだ・よしき)君が、宮崎市内の自宅裏で見慣れない生き物を見つけた。一見、トカゲのように見えるその生き物は、その後宮崎の新聞紙上を大いに賑わせることになる。それは、何と「オオイタサンショウウオ」だった。レッドデータブック(環境庁)でも絶滅危惧種に指定されている貴重な動物で、生息場所の中心は大分県。そんな貴重な動物がすむ原田君の自宅の裏山には、実は道路が建設されるという計画が持ち上がっていた。幼い頃から虫にとても興味を持ち、「虫博士」として近所でも評判だった原田君は、当時宮崎市役所に出向いて保護を訴えるなど、サンショウウオのために行動を起こした…。
 宮崎の原田少年がサンショウウオの保護に頑張っていた4年前のちょうど同じころ、長崎県諫早湾では干拓工事が行われていた。ムツゴロウという絶滅危惧種が生息している諌早湾を“ギロチン”で切り取るこの工事は、日本中の注目を集めた。工事の後の諫早湾は、住む場所をなくしたムツゴロウをはじめとするたくさんの小動物の墓場と化した…。
 7月18日(水)放送の第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『ボクらだって生きている〜小さな生命のS.O.S.〜』(制作 テレビ宮崎)は、4年前に九州で行われたの大小2つの「公共事業」を取り上げ、それによりもたらされた環境破壊がそこにすむ小動物たちにどんな影響を与えたのか、そして人間たちにどんな報いがあったのかを検証する。
 番組を担当した藤並秀行ディレクター(テレビ宮崎)は、「取材のきっかけは4年前の原田君の行動です。そこを入り口に、この4年という時間の流れの中で、人間本位の公共事業の結果が、どういう形になって露呈したかということを見てみました」と語る。

 結果から先に言えば、宮崎の原田君の裏山には、彼の行動もむなしく2車線の道路が完成した。原田君の訴えを聞いた市役所は、道路の下にサンショウウオのためのトンネル状の通路を通すことで、道路の建設を進めたのだ。「ボックスカルバート工法」と呼ばれるこのサンショウウオの通路だが、広々とした自然の中で育ってきた小動物が、幅わずか5メートルのこのトンネルを通った形跡は現在のところない。さらにトンネルの周りにはドライバーたちが投げ捨てたゴミが散乱し、サンショウウオのために作った人工の水路は、繁殖力が強くサンショウウオの幼生を食べてしまう「アメリカザリガニ」に占領されていた。
 一方の長崎諫早湾干拓工事。有明海の一部の湾を埋め立てたこの計画は、今年の春、意外なところまで影響が広がっていた。北へ約50キロメートル離れた福岡県のノリ養殖場では、海水の微妙な変化により、ノリが全滅してしまったのだ。かつての諫早湾の広大な干潟は有明海の海水を浄化する役目を果たしていた。わずか4年前まで「宝の海」と呼ばれていた有明海は浄化作用を失って死の海と変貌を遂げ、職を失った漁師たちの「工事反対」のシュプレヒールが飛び交う異様な海に変わってしまった。環境破壊が人間の生活にも影響を及ぼし、絶滅危惧種ムツゴロウは、すむ場所を奪われてしまった。

 宮崎の原田君はその後どうしているのだろうか?4年前サンショウウオのすむ裏山で工事が始まる直前、原田君のもとに一通の手紙が届いた。手紙をくれたのは福岡の北九州市に住む自然保護活動家、菊水研二さん。北九州市を訪ねた原田君は、菊水さんとともに若松の大自然を満喫した。そして菊水さんに、「この自然も将来、開発によってなくなってしまう」と告げられた。原田君は工事現場を前にして言葉を失い、ただその様子を見つめるばかりだった…。
 小動物の保護を通し様々な経験をした原田少年も、この春中学生になった。今でも以前と変わらない姿で虫を追い、「虫博士」として頑張っている。最近は“外来種”や公共事業のあり方などにも興味を持ち始めた。環境破壊の進む現代社会の中で、彼の目に未来への希望は見えるのだろうか?

 取材を終えた藤並秀行ディレクターは
「場所、規模にかかわらず、人間の身勝手な工事がそこに生息している小動物たちにかなりの犠牲をもたらしています。利便性の追求、防災など様々な理由から公共事業は進められます。一度着工したら止まることはありません。番組を見ている皆さんの身近なところで進んでいるかもしれない環境破壊を、見つめてもらうきっかけになればと思っています。
 現在、世界では1年間に4万種もの植物・動物が絶滅しているといわれています。人類が末永くこの地球上に存在しつづけるためには、環境を守ることが不可欠だということを、画面を通して少しでも感じていただけたらと思います」
と語っている。
 自然とどう折り合って共存するか。これからの地球のため、そして次の世代のために、われわれに課せられた課題は大きい。


<番組タイトル> 第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『ボクらだって生きている〜小さな生命のS.O.S.〜』
<放送日時> 7月18日(水)深夜26:55〜27:50
<スタッフ> プロデューサー : 弥勒 猛
ディレクター : 藤並秀行
撮 影・編 集 : 立光正明
ナレーター : 半場友恵(アーツヴィジョン)
タ イ ト ル : 堀北益加
アドバイザー : 鬼塚 寿
<制 作> テレビ宮崎

2001年7月5日発行「パブペパNo.01-230」 フジテレビ広報部