FNSドキュメンタリー大賞
21世紀を迎えたいまなお続く外国人に対する“心の鎖国”真の国際化のため、我々日本人に何が求められているのか?

第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『国際団地』 (制作 東海テレビ)

<6月6日(水)深夜27:05〜28:00>
 「みんな、ちょっと聞いて、今日学校に行ってない人? 手を上げて」
 「ハ〜イ」
 「なんで?」
 「だって先生の言っていることがわからない」「私はいじめ…」「家にいるのはつまらないけど、学校には行きたくない…」

 愛知県豊田市保見団地。その一角にあるボランテイア団体「夢の木教室」。外国籍の子どものたちのための学習支援スペースだ。ここを舞台に取材は始まった。

 自動車産業の街、愛知県豊田市。その北部にある保見団地は、住民およそ1万人のうち3000あまりが外国人という全国でも例のない団地。3人に1人が外国人、まさに「国際団地」である。ここに住む外国人は、自動車の部品工場などで働くいわゆる出稼ぎ労働者。1990年、入管法の改正で、日本人の配偶者や日系人は就労が可能となり、ブラジルなどから仕事を求めて多くの出稼ぎ労働者が日本にやってきた。団地に住む外国人もほとんどがブラジル人。こうした出稼ぎ労働者の滞在の長期化に伴ない家族の呼び寄せが始まった。 その結果、学齢期の子どもたちも増えた…。
 6月6日(水)放送の第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『国際団地』(制作 東海テレビ)は、“国際団地”に暮らすブラジル人とそれを巡る団地住民の様々な思いを描くとともに、21世紀を迎えた中で、外国人に対する“心の鎖国”を解くため、さらには真の国際化のため、我々日本人に何が求められているのかを探る。「夢の木教室」には、小学生から中学生まで、60人あまりが毎日通ってくる。来日して間もない子、日本の学校に通っている子、不登校の子、全く学校に通っていない子、子どもたちの状況は様々。生まれた国、育った環境、言葉の違いに関わりなくどんな子どもでも夢を描けるように…夢の木教室は、そんな思いから始まった。
 豊田市教育委員会によると、平成13年2月現在、市内に住む小・中学校の年齢に相当する外国籍の児童・生徒のうち、半数近くが学校に通っていない。いわゆる不就学・未就学である。母国語であるポルトガル語も日本語もきちんと話せない、自分の気持ちすら満足に伝えられない子どもたちがたくさんいる、保見団地にはそんな状況が広がりつつある。

 なぜ、学校にいかないのか?一番の理由は、言葉の壁だ。それ以外にも子どもたちは、本読みで皆に笑われた、皆と同じようにできない、友達が無視するなど学校内でのちょっとした出来事に敏感に反応し、日々気持ちが揺れ動いる。
 八反田マルセロ君は14歳。学校には通っておらず、夢の木教室でひらかなや漢字の勉強をしている。7歳で来日、日本の小学校を卒業したが、中学校1年生で学校をやめた。その理由は、本読みで皆に笑われたことなど色々だ。「いい仕事につくため、もう一度学校に行きたい」
 頑なに学校を拒否していたマルセロが、1年ぶりに言い出した。夢の木教室代表の井村先生は、マルセロが学校に行けるよう家まで迎えに行き学校へ送る。
 「どんな子どもでも勉強はしたいし、初めから諦めているわけではない」という井村先生の言葉。そして「日本に来たことで人生を投げてほしくない。私は絶対に子どもたちを見放さない」と語る。

 また子どもたちが学校を休みがちになれば、「なぜ行けないのか?」と井村先生はとことん子どもたちと話し合う。そこには、学校では見せない素直な子どもの姿がある。夢の木教室は、学校に行っていない子どもにとっても、学校に通っている子どもにとっても、大切な居場所となっている。  4年前、愛知県小牧市で悲しい事件があった。「ブラジル人だから」。こんな理由で1人の少年の命が、日本の少年グループによって奪われたのだ。小牧市は豊田市のように製造業が集まっていて、県内でも4番目にブラジル人の多いところ。
 日本経済を支えるため合法的に外国人労働者が入ってくるようになり、何年経てもなお埋められない外国人と日本人という心の溝
 共に生きる、「共生」という言葉。私たちはこれまで何度となく耳にしている。理屈ではわかっていても、クラスメートとして、隣に暮らす住民として共に同じ時間を過ごす時、果たして私たちは何が出来るのだろうか?
 取材を始めた時、小牧の事件は、ちょうど3周忌を迎えており、当時のことを思い出した。亡くなった少年のご両親は、命の大切さとともに自分が得た知識は自分のもの、誰にも奪われるものではない、と日本にいるブラジル人の少年に語り続けていた。そして夢の木教室の井村先生も、日本の学校であれブラジルの学校であれ、知識を得ることの大切さを同じように子どもたちに説いていた。遊び盛りの子どものこと、何度言っても勉強をせず、さすがの井村先生も怒って教室を閉めてしまうこともあった。しかし、どんなに怒られても、どんなに叱られても、子どもたちは毎日通ってくる。こんな心と心のコミュニケーション、これこそ「共に生きる」姿ではないか…。ちなみに井村先生はポルトガル語が話せない。言葉の壁も心と心が通じ合えば、簡単乗り越えてしまうものなのだ。

 おりしも今年2月、豊田市は全国の自治体では初めて、「多文化共生推進協議会」を発足さた。会議は、保見団地を「共生のモデル地区」と位置付け、各分野から意見を募り共生にむけての方策を話し合うものである。団地では、不就学の問題をはじめゴミ・騒音・駐車場など文化・習慣の違いから生じた問題が数多くある。自治体も「共生」という厚い壁に挑もうと、ようやく重い腰をあげた。しかし対策はなかなか見つからない…、これが現状である。
 夢の木教室は、ボランテイア団体で、活動資金は子どもからの月謝と活動に賛同してくれる人たちの寄付で運営されている。しかし今年3月、教室はある事情で今の場所から出ていかざるをえなくなった。大切な子どもたちの居場所「夢の木」は閉鎖か、それとも存続か?自治体は、手を差し伸べてくれるのか…。
 制作を担当した東海テレビ放送の山本聡美ディレクターは語る。
「国際団地、保見団地が抱える問題は、まさに近い将来、日本の至る所で直面する問題と言えます。番組では夢の木教室での子どもたちのつぶやき、子どもを見守る親の気持ち、そして団地内での住民同士のかかわりなどを取材、それぞれが日本の地で懸命に生きていく姿を描きます。番組を見終わって、少しでも外国の人達の置かれている立場、気持ちに心を馳せて頂くことが出来たら幸いです」


<番組タイトル> 第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『国際団地』
<放送日時> 6月6日(水)深夜27時05分〜28時50分
<スタッフ> プロデューサー : 広中幹男(東海テレビ放送)
ディレクター・構成 : 山本聡美(東海テレビ放送)
ナレーション : 小室 等
編    集 : 奥田 繁(エキスプレス)
撮    影 : 国井幹祐(エキスプレス)
V    E : 中根芳樹(東海テレビプロダクション)
効    果 : 尾崎勝弘(東海サウンド)
<制作 著作> 東海テレビ放送

2001年5月18日発行「パブペパNo.01-168」 フジテレビ広報部