FNSドキュメンタリー大賞
自由を夢見て特攻に散っていった学徒兵上原良司
彼が遺したメッセージをもとに「自由」の意味を検証するとともに、あの戦争は一体何だったのかについて考える

第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『明日は自由主義者が一人この世から去って行きます〜特攻に散ったある学徒兵〜』 (制作 長野放送)

<4月18日(水)深夜26時55分放送>
 「特攻隊のパイロットは一器械に過ぎぬ、と友人が言ったことは確かです。人格もなく感情もなく、もちろん理性もなく、ただ敵の航空母艦に向かって吸いつく磁石の中の鉄の一分子に過ぎぬのです。強いて言えば自殺者とでも言うのでしょうか。精神の国、日本においてのみ見られることだと思います」

―― 『きけわだつみのこえ』に掲載されている上原良司の手記である。太平洋戦争当時、長野県南安曇郡穂高町出身で、慶應義塾大学の学生だった上原良司は、学徒出陣で陸軍に入隊。徹底した軍国主義の中で“自由主義”を夢見ながらも、特攻隊員として沖縄のアメリカ軍艦に突入、戦死した。
 4月18日(水)放送の第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『明日は自由主義者が一人この世から去って行きます 〜特攻に散ったある学徒兵〜』(制作 長野放送)は、一人の学徒兵が特攻隊員として戦死していく過程で、死を賭けて戦後の私たちに訴えたメッセージを検証。上原良司の自由主義への憧れと、死への葛藤とを織り交ぜながら、彼の思想の軌跡を辿る。
 取材にあたった春原晴久ディレクター(長野放送制作部)は、
「今回の番組は、主人公が既に亡くなっているということもあって大変苦労しました。実は上原良司さんの存在自体は4年ほど前から知っていましたので、少し事前調査をしたこともあったのですが、“主人公が亡くなっている、しかも56年前に”という事実の前に、1時間という番組を制作する自信が無くて、しばらく企画は机の中で眠っていました。しかし、21世紀に入り、戦争の世紀だった20世紀を振り返ろうという流れの中で、もう一度トライしてみようと取材を始めたのが、去年の10月でした」と話す。

 実際、予想していた通り取材を始めてみると、上原良司を知る関係者、戦友のほとんどが既に亡くなっていた。特に番組制作上、重要だと思われた2人の人物も2年前に亡くなっていたのだ。それだけに数少ない戦友のインタビューは、記憶が断片的ではあったが、とても貴重なものになったという。
「取材を続ける中で、良司さんの人間的魅力のためでしょうか、彼が戦友や友人の皆さんにとても好かれていたことが良くわかりました。一方で、彼が書き残した日記・手記の文章と、実際に取材してきたインタビューをどう構成・編集するか、これが非常に悩んだところでした。むしろ取材よりも構成の方が苦労したという感があります」(春原ディレクター)
 また、当時の時代背景を理解するための資料映像も、どこまで盛り込み、どれをカットするかという点に気を使ったという。番組を見る世代には大きな開きがあり、戦争を体験した世代にとっては当たり前の情報が、20代の若者にとっては新鮮に映るものもあるからだ。
「今回の番組では、良司さんの自由主義への憧れと、特攻隊として死んでいくまでの人間の苦しみ・葛藤、そして、ある女性への愛情とを密接に絡めて『良司さんの人間性と時代を見据える先見性』を浮き彫りにできたのではないかと思っています」(春原ディレクター)

 彼の出撃前夜の『所感』には「一器械である吾人は何も言う権利はありませんが、ただ願わくば、愛する日本を偉大ならしめられんことを国民の方々にお願いするのみです」と記されている。もちろん偉大の意味は『自由主義』である。迫りくる敗戦後の日本を、自由主義の国にしてほしいと願いを込めたのだ。そして翌朝、彼は250キロの爆弾を抱えて出撃していく。
「明日には自分が死ぬことをわかっていながら、これだけ自己を客観視し、特攻作戦を冷静に分析することのできる理性と知性に、私はただただ敬服しました」(春原ディレクター)

 今や当たり前の存在である『自由』。その『自由』が許されなかったあの時代に『自由』を夢見て死んでいった上原良司の気持ちはいかばかりか。そして戦後もたらされた『自由』は本当に“自由”なのか。

最後に、春原ディレクターは、 「今回の制作は、私自身、空気のように享受している『自由』について、あらためて深く考えさせてくれるきっかけとなりました。そしてこの番組は、特に良司さんと同世代の、若い方々にご覧頂きたいと思っています。また、もうしばらく時が経つと、残念なことですが、戦争を実際に体験した世代の方々が次々に亡くなられていきます。こうした中、戦争を風化させないためにも、またメディアの責任としても、私たちは『戦争を振り返るとともに、現代の社会を見つめる』作業を続けていく必要があると思っています」と語っている。


<番組タイトル> 第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『明日は自由主義者が一人この世から去って行きます〜特攻に散ったある学徒兵〜』
<スタッフ> プロデューサー : 小林新一(長野放送)
ディレクター・構成・編集 : 春原晴久(長野放送)
ナレーション : 寺瀬今日子(青二プロ)
朗    読 : 鈴村健一(アーツビジョン)
撮    影 : 近藤利彦、山崎 敦、高橋 慶(以上、長野放送管財)、唐澤 勤(マシマテクニカルコーポレーション)
E  E  D : 北沢 洋(メディアワーク)
M    A : 矢島善紀(長野トップ)
<制 作> 長野放送

2001年3月30日発行「パブペパNo.01-112」 フジテレビ広報部