FNSドキュメンタリー大賞
白砂青松と表現された河北海岸の変わり果てた姿…シギやチドリたちは戻ってこれるのか?
人間との共生は可能なのか?

第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『鳥風よ!時を超えて』 (制作 石川テレビ)

<4月11日(水)深夜27時10分放送>
 鳥たちは、20世紀を通して環境破壊や開発、それに銃やカスミ網など人間社会との摩擦にさらされてきた。一方、私たちは、ものの豊かさを追求するだけで、鳥たちの訴えや叫びに耳を傾けずにきた。そして、環境の世紀といわれる21世紀の幕開けを迎えた。鳥たちが命をつないでいける環境は、人類が安心して生きられる環境にほかならない。こうした環境を果たして、取り戻すことができるのだろうか。

 日本海に突き出した能登半島で特徴づけられる石川県は、長い海岸線を持つ。とりわけ、世界的に貴重なシギ、チドリ類にとって、砂浜の海岸は、何千キロもの渡りの途中に立ち寄る栄養補給地の役割を担う。実際、20キロにわたって砂浜が続く河北海岸は、日本海側最大のシギやチドリの飛来地になっている。ところが、その砂浜海岸が、いま、浸食の脅威に直面しているのだ。ダムや海岸堤防などコンクリートの構造物によって、陸から海への土砂の供給が閉ざされているのがその原因。
 白砂青松と表現される日本を代表する景観は、消波ブロックが連なる殺風景な姿に変貌した。そうした海岸には、海辺の鳥たちの姿はない。

 4月11日(水)放送の第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『鳥風よ!時を超えて』(制作 石川テレビ)は、野鳥の生態を追いながら、鳥たちの視点で環境問題を見つめ直し、人間と鳥との共生の道を考えていく。
 先に触れた河北海岸には、栄養補給と休息を求め、春と秋に訪れるシギ、チドリ以外に、年間を通して暮らすシロチドリが生息している。この鳥は、砂浜に簡単なくぼみを作り、卵を産んで温める。どんな動物でも、安全な環境の中で無事に子孫を残すのが至上命題。しかし、現実には、人間のために様々な危険が立ちはだかってくる。縦横無尽に浜を駆け抜けるオフロードのバイクや4輪駆動車。家庭から出される生ゴミで増えているカラスも、卵を狙う天敵。さらに、営巣を知らずに近くで長居する行楽客…親鳥の不安の種は尽きない。
 繊維会社に勤務しながら、30年近くシロチドリの観察を続けてきた中川富男さん(50)は、「人や車の侵入で親鳥が巣から離れた場合、砂浜は炎天下だと50度以上にもなり、ゆで卵状態で発育がストップする」と心配する。そんな危険を冒してまでも、ここでシロチドリが繁殖し、シギやチドリが好んで飛来するのには理由があった。中川さんはその謎を解き明かした。
 一見すると、エサが何もないように見える砂浜。しかし、波打ち際でふるいをかけると1回で2000から3000匹もの小さなエビが採取できた。豊かな渚が鳥たちを支えていたことが裏付けられたのだった。干満の差が小さな日本海側では、実は砂浜海岸が小動物の宝庫「干潟」と同等の役目を果たしていたのだ。

 舞台は変わって輪島市沖の無人島七ツ島。この島では、17年前に、だれかが何気なく2つがいのウサギを放った。天敵のいない島でウサギは160匹にも大繁殖してしまう。この事態に、本来この島へ渡ってきて集団繁殖しているオオミズナギドリたちはピンチに陥った。このオオミズナギドリは、島の斜面に巣穴を掘って産卵・子育てをする。ところが、ウサギは島の植物を食い尽くす。島は、次第に、裸になっていく。やがては、雨や風によって、島を薄く覆っていた土が消える。そんな変化で生態系が壊されてしまった。見かねた行政は、銃によるウサギ退治に乗り出した。作戦が成功し、根絶やしに出来たと考えられていたが、今回の番組取材で、依然ウサギたちが生き延びていたことが確認された。生態系の回復が、容易ではないことの大きな教訓だった。

 次なる舞台は、石川県内最大の河川、手取川の河口部。ここの川原では、絶滅が心配されているコアジサシが、春にオーストラリアから飛来し繁殖する。河川改修などが進んでこうした自然状態の繁殖地は、全国でも数少ない。そして、川の恩恵を受けているのは、鳥たちだけではない。河口部の漁民、福岡隆三さんが言う。「ネジラガレイ、(シタビラメ)は、山から来る。海底の泥に付く魚なので、大水の後、半月から1カ月すると泥の所に集まる」と。森林の土の中で小動物や微生物が様々な養分を作り出し、それで魚が育つ。時として、大水で土砂が流され、手取川の激流に乗って、やがて海に届き、カレイが好む泥地を作る。そんなつながりを断ったのが、昭和55年に完成した手取川ダム。暴れ川がおとなしくなった代わりに、魚は減った。しかも、鳥たちの生息環境にも、影響は及んだ。手取川は、砂浜海岸にとって最大の土砂供給源だったからだ。供給源を失った砂浜は、浸食を免れず、海辺の鳥たちの生活の場が奪われていくことに直結した。福岡さんの言葉、「山を大事に。山・川・海は一体やから」とは、生活に裏打ちされた至言だった。

 鳥たちが置かれている厳しい現実が浮き彫りになっていく一方、鳥との交流を続けている老夫婦と出会った。その舞台は、羽咋市の田園地帯にある小集落。ここに、堀田成雄さん(74)と妻の千代子さん(69)が住んでいる。堀田さんの前庭には高さ8メートルを超えるシイの大木がある。2人は、毎年若葉の季節が近づくとソワソワして落ち着かない。東南アジアから20数年間、欠かさずこの木に訪れる渡り鳥、アオバズクを心待ちにしているからだ。千代子さんは、農事日記にアオバヅクの観察記録を綴っている。前年はいつ頃来たのか、子育ての様子はどうだったのか、巣立ちは何日だったかなど、節目ごとに記入する。子どもたちが独立し離れて暮らしているため、アオバヅクへの愛着は強い。毎日、シイの木を見上げる2人の熱心な姿に、やがて近所の人たちもアオバヅクを見ようと集まるようになった。とうとう、この年も待望のアオバズクが、シイの枝にとまった。間もなく、シイの洞で繁殖がスタートする。
 以前は、村々にある鎮守の森などで、ごく普通にアオバズクは巣を構えていた。しかし、都市化が進み、境内が駐車場になったりして、巣に適した洞を持つ大木は、どんどん減ってしまった。専門家によると、今では、一般の住宅の庭でアオバズクが繁殖するのは、全国的にもまれだという。飛来前に、堀田さん夫婦の許可を得て、洞の中に小型カメラを設置した。夫婦は卵や雛を抱く親鳥の姿を初めて見て目を細めた。ヒナのエサは、主として昆虫。夫婦は、取材を進める私たち以上に研究熱心だった。2人は、親鳥がヒナが食べやすいようにとさばいた昆虫の羽を毎朝拾い集めた。堀田成雄さんの観察眼は鋭い。「これは、ようやく、けさ見つけた。クワガタやね。皮の固いこんなものが食べられるようになったということは、ヒナが成長したということやね」とシイの木の下で拾った羽から、的確に推測する。7月中旬、アオバズクの巣立ち。堀田さん夫婦には、複雑な思いが交錯する。2人の心の中にある別れの切なさとアオバヅク一家の無事な旅への願いが、私たちにまで伝わってきた。

 堀田さん夫婦の例とは、対極的なケースとして、河北潟干拓地を舞台としたカモとレンコン農家との対立問題がある。河北潟は、昭和34年から国によって干拓事業が進められた。事業の途中で、コメの増産から稲作の抑制へと農政が転換したにもかかわらず、干拓は続き、潟の3分の2が埋め立てられてしまった。現在は、酪農や畑作、レンコン作りなどの農地、1356ヘクタールが広がる。諫早湾の干拓事業によって「汽水」の環境破壊が広く知られるようになった。状況は、潟の埋め立てでも同じで、海水と淡水の間に防潮堤が立ちはだかり、双方を行き来していたシラウオは完全に姿を消した。汽水湖、河北潟は、死に瀕した潟になってしまった。また、干拓地内の水路や潟の岸辺は、コンクリートやアスファルトで固められてしまった。豊かに水草が茂る水路も1本しかない。そこには、かろうじてカイツブリが営巣していた。カイツブリの巣材には、水草が欠かせない。河川の改修でヨシ原がなくなったり、山間部のため池が荒れ果てたりして、カイツブリの繁殖地も全国的に減っている。
 一方、河北潟の残存水面には、越冬のため3万羽を超えるカモがやってくる。実は、このカモが、レンコン農家との間でトラブルを生む。それは、カモによる食害。稲の二番穂などがなくなる厳冬期に、エサ不足に悩むカモたちは、農家が大切に栽培したレンコンを食べてしまう。カモの食害は、大麦も含めて年間で6400万円にも達し、干拓に伴う負担金を抱える農家にとっては、死活問題だ。レンコン田にネットを張る方法が、被害防止に最も効果を上げた。しかし、ネットにかかったカモはいかにも無惨で、野鳥の保護団体の非難を浴びた。このため、新たに考え出されたのが、「ライト作戦」。仕事の疲れをいやす間もなく、カモの食事時間に合わせて、サーチライトを積み込んだ車で干拓地を夜間パトロールする。カモに穏便に立ち退いてもらいたいというのが、農家の願いだ。この問題には、こうした食害を考慮せずに干拓地を優良農地として高値で国が農民に売りつけた背景がある。食害を織り込んで安く提供すれば、被害が出たとしても、農業経営への影響は小さかったはずだという指摘がある。つまりは、カモが人間と敵対していると見えるのは、結果論に過ぎないことになる。

 番組は、海・川・潟、それに水田など水辺で暮らす鳥たちを中心に据えて、その生態を追いながら、彼らを取りまく環境の現状を明らかにしていく。
 そして、ここまで述べてきた以外にもマナーの欠如による釣り糸公害など鳥たちの生活を脅かす要因は多い。
 番組を担当した石川テレビの今井一秀ディレクターは、
「本来、水辺は身近に鳥と出会える場だったはず。しかし、現状は鳥たちがかろうじて生息しているに過ぎない。番組を通して、豊かな自然を取り戻す、環境復元に取り組む必要性を訴えたい」と話している。

 渡り鳥が越冬地を去る時、その羽ばたきで巻き起こる風を「鳥風」という。これから先、春が巡り来る度に、果たして「鳥風」は吹き続けるのだろうか。


<番組タイトル> 第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『鳥風よ!時を超えて』
<放送日時> 4月11日(水)深夜27:10〜28:05
<スタッフ> ナレーター  : 畠山里美
構    成 : 赤井朱美
プロデューサー : 須田善文
ディレクター : 今井一秀
撮 影・編集 : 近堂 清司
音    効 : 高田 暢也
<制作・著作> 石川テレビ

2001年3月29日発行「パブペパNo.01-109」 フジテレビ広報部