FNSドキュメンタリー大賞
モータースポーツの頂点F1を目指し、ほかの全てを犠牲にして努力を続ける若いレーサーたち
その姿を通し、夢を追い続けることの大切さを訴える

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『終わりなき疾走 〜レーサー勇大の選択と挑戦〜』 (制作 さくらんぼテレビ)

<10月4日(水)深夜26時25分放送>

 F1を頂点とするモータースポーツの世界。下位にはF3000(日本ではフォーミュラニッポン=FN)、F3…といくつもカテゴリーが存在する。ただ、日本でドライバーライセンスの取得が許されるのは、18歳から。幼い頃からF1を目指そうと思えば、カートで腕を磨くほかない。
 山形市出身のレーシングドライバー、五十嵐勇大(いがらし・ゆうだい)さん(21)。大学に進学していれば、ちょうど4年生。同年代の若者は就職活動という必然性から、「自分のしたい事」を決めている、そんな年頃だ。しかし、カートから出発した彼は国内最高峰レースのフォーミュラニッポン(FN)に今季から参戦し、小さい頃からの夢であったF1という大舞台への最後の関門に挑み始めている。
 10月4日(水)放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『終わりなき疾走 〜レーサー勇大の選択と挑戦〜』(制作 さくらんぼテレビ)は、モータースポーツの最高峰という目標に向かい、ほかのあらゆることを犠牲にして努力を続ける若いレーサーたちの姿を追った。
 「自分の目標に向かい進む若者の姿。そこにある苦悩、充実感を通して、目標なく生きる今の若者にメッセージを送ることはできないか。そんなところから取材は始まりました。しかしそれはあまりに身の程知らずの考えでした」さくらんぼテレビの佐藤武司ディレクターは語る。どうやら、思い描いていた図式とはかなり違った結論が得られたらしい。

 五十嵐選手がカートに乗るようになったのは、レース好きの父親から奨められたのがきっかけだった。その時10歳、「特に面白いと思わなかった」というのが最初の印象だった。それでも、何度かカートに乗るうちに、自分の技術が上達するのを感じ、また12歳から出場したレースで勝ち負けの世界を経験したことで、次第にカートにのめり込んでいった。父親の熱心なサポートもあり、カートの世界で順調にステップアップ。高校時代には全日本トップカテゴリーにまで登り詰めるなど、レースエリートの道を着実に歩んでいった。
 そして18歳になると、早速ライセンスを取得し、海外の武者修業へと旅立つ。舞台はF1の登竜門と言われるイギリスF3。過去にここでの活躍が認められ、直接F1にステップアップを果たしたレーサーが数多くいる。
 「しかし、それは普通の少年時代を犠牲した上に成り立っています。特に学生時代ではカートが生活に占める比重が大きくなればなるほど、学校を欠席することが多くなりました。高校3年の時は実に、1年の半分を休んでいたと言います」(佐藤D)
 厳しいイギリスでの3年間を振り返り、五十嵐選手は「周りのレーサーがギラギラしていた、勝つことだけを考えみんなレースをしていた」と語る。

 今シーズンから参戦したFNだが、五十嵐選手は彼は1年間の折りかえしとなる第5戦まで、完走2回、最高が11位と結果は芳しくない。走れば走るほど出てくる課題、しかも努力はすぐに実らない。
 しかし彼は、
「いつも全力でやっている。結果はあとからついてくるものだ」
「アイツが勝てるんだったら俺も勝てる」
 そんな前向きな発言を繰り返してきた。この自信はどこから来るものか。それはこれまでレースにかけてきた時間の多さなのか。一つのことを追い求める人間の強さなのか。佐藤Dはその答えを探るため取材で、数々の問いを五十嵐選手にぶつけた。
「犠牲にした時間に後悔はないのか?」(佐藤D)
「その時やれなかったからと言って、今やれないことはない。それよりもあれもやりたい、これもやりたいという迷いがあったら、レースで遅くなると思っていた」(五十嵐選手)
「いくら好きでやっている事とはいえ、そこまで吹っ切れるものなのか?」「自分に言い聞かせているだけじゃないのか?」(佐藤D)
 それに対して五十嵐選手から返ってきた答えは、
「誰だって将来には不安がある。でも夢をかなえるために自分に言い聞かせて努力するんじゃないんですか…」
 佐藤Dは、この時の五十嵐選手の言葉で、これまで勝気で前向きな発言しかしなかった彼の真意がわかったような気がしたと語る。そして番組が発するメッセージが明確になった。
「夢を叶えるためには挫折、苦しさがあっても決して諦めてはいけない。その人に夢を叶えるだけの能力があったとしても、途中で諦めた夢は決してかなうことはない」

 取材を終えた佐藤Dが振り返ってこう語る。
「番組の中では五十嵐選手以外に同年代の友人やチームメイトが“夢を追いかけ続ける姿”を表現してくれています。このことはもちろんレースまたはスポーツだけに当てはまることではありません。私自身もまだ入社3年目の駆け出しにすぎません。番組制作の過程では数多くの失敗を繰り返しました。経験豊富なプロデューサーや構成作家に『五十嵐の方がお前の何倍も努力してるよ』と叱咤激励も頂きました。五十嵐選手は単純な言葉を言っていたにすぎません。実に的を射た言葉です。
 目的無くすごす若者へメッセージを送りたい。そんな初期の目的はあまりにも、身の程知らずな考えでした。つまり、番組の取材を通して私自身が五十嵐選手から“夢を追い求めることの大切さ”を学んだからです」

 目標を定め、そこに到達するために、ほかのあらゆることを犠牲にして、あくなき努力を続ける若者。その姿は雄弁に、多くのことを物語る。


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『終わりなき疾走 〜レーサー勇大の選択と挑戦〜』
<放送日時> 9月29日(金)深夜26:50〜27:45
<スタッフ> ナレーター : 筧 利夫
構    成 : 高橋 修
プロデューサー : 冨澤 弘行
ディレクター : 佐藤 武司
撮 影 ・ 編 集 : 和田 幸一
<制 作> さくらんぼテレビジョン

2000年9月21日発行「パブペパNo.00-304」 フジテレビ広報部