FNSドキュメンタリー大賞
ボランティア活動から全国有数のデイサービスセンターに成長した「まりちゃん家」
介護の生の現場で明らかになる「介護保険」の矛盾に迫り、超高齢化社会における老人福祉のあり方を探る。

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『まりちゃん家から 〜あるデイサービスセンターの挑戦〜』 (制作 仙台放送)

<7月19日(水)深夜26時25分放送>

 2000年4月、介護保険制度がスタートした。
 この新しい制度によってより良いサービスを受けられるお年寄りがいる。「介護」という重い重責から少しでも解放されるその家族がいる。しかしその反面、この制度は今まで受けてきたサービスを受けられなくなるお年寄りを生み、今まで以上の負担を強いる事態を生じさせる。行政的なお役所仕事で、介護を必要とする老人は癒されるのか。法律による画一的な運営で、ひとりひとり異なる「人間」を介護できるのか?介護を必要とするお年寄りたちも意志を持つ人間である。彼らのためにしてあげられることは、私たちがなすべきことは、本当にこれでよいのだろうか?
 この疑問に真っ向から取り組むデイサービスセンターがある。
 宮城県涌谷町の「わくわくわくやのまりちゃん家」は、一人の主婦が4年前、ボランティアから立ちあげたデイサービスセンターである。運営するのは「まりちゃん」こと、代表の佐々木眞理子さん(48)を中心とした主婦たちのグループ。4年間で彼女たちの活動はどんどん広がり、行政の委託を受け、40人近いお年寄りが利用してきた。さらにまりちゃん家は、昨年の夏、NPO(特定非営利活動)法人を取得、この4月から介護保険のもと、行政から独立し、独自の活動を進めている。

 7月19日(水)放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『まりちゃん家から 〜あるデイサービスセンターの挑戦〜』では、この「まりちゃん家」を通して「介護」というものを見つめてみた。制作を担当した岩田ディレクターが佐々木眞理子さんに出会ったのは4年前。ローカルのドキュメンタリー番組の取材で岩田Dはその人柄に惚れ込んだ。それから交流が始まり、昨年の5月に介護保険制度施行後の介護あり方について熱っぽく語る佐々木さんの言葉に揺さぶられ、制作に着手した。
「私が行くと、まりちゃんは『ヨォ、イワタクン!』『ムスコよ!』といつも肩をバシバシ叩くんですよ。私も『おー、涌谷の母よ!』ってやり返してます。まりちゃんは元気の塊みたいな人。大きな笑い声に、大きなジェスチャー、そして大きな目とその心。みんな魅了されちゃうんです」と、佐々木さんの人柄を語る。しかし、岩田Dが佐々木さんを慕うのにはもうひとつの理由があった。
「実は、まりちゃんは10年前に癌で死んだ私の母に姿も心意気もそっくりなんです。その“母”が、お年寄りの笑顔を守ろうと懸命に走っている。NPOを取り、介護保険の事業所として、一発、やってやろうじゃないのというわけですよ。ならば、“息子”の私もと、デジタルカメラ片手に取材を開始したんです。死んだ母も生きていればもうすぐ70歳だし…」と、生きていれば介護が必要になる年齢になっている亡き母親への想いを重ねている。

 佐々木さんは一主婦だった4年前、自分の父親を老人ホームから引き取り、同居を始めた。慣れない土地での暮らしに元気がなくなっていく父のために、自宅を解放して、近所のお年寄りたちと週一回のお茶のみ会を開いた。その評判が伝わり、「まりちゃん家」を訪れるお年寄りが増え、手伝ってくれるボランティアの輪が広がっていった。
 2年前(平成10年1月)、自宅では手狭になったため、町の補助を受けて移転。新町デイサービスセンター「わくわくわくやのまりちゃん家」として活動の場を広げた。これによって、まりちゃん家はただのボランティアではなく、専任のスタッフに給与を支払う事業となった。その資金は町、県、国の補助と利用者からの利用料で賄っている。現在専任スタッフは佐々木さんを含め6人。その他に総勢20人の主婦がボランティアとして手伝っている。さらに「まりちゃん家」は、昨年の夏、NPO(特定非営利活動)法人を取得。この4月から介護保険のもと、行政から独立し、独自の活動を進めている。
 現在65歳〜95歳の40人のお年寄りが利用する。月曜から金曜まで、毎日にぎやかな笑い声が絶えない。その理由はデイサービスセンター「まりちゃん家」の活動方針にある。
 「まりちゃん家」では、お年寄りに人生の先輩、家族として接している。お年寄りに日課なども課さない。お茶を飲みながら話をしたり、唄を歌ったり…、好きなこと、自分ができること、得意なことをどんどんやってもらう。そうしたことを通して、スタッフも利用者も成長する場となる事を目指しているのだ。そして、お年寄りから出てきた要望には安全・健康に配慮の上、問題がなければその日にでも、すぐに対応する。「白鳥が見たい」「カニが食べたい」というリクエストにも応え、みんなでお花見に行ったりもする。その理由は、お年寄りには「明日」は保障されていないからだ。これまでに6人のお年寄りを見送った。人生の最終ステージを充実した日々にしてあげたい。「あなたの笑顔がわたしの元気」、これが「まりちゃん家」の活動理念である。

 介護保険制度は今まで受けてきたサービスを受けられなくなる人を出してしまう。この問題点にも「まりちゃん家」では、「ここにやってくる人はみんな家族、元気な人も、そうでない人も同じようにやってゆく」とサービスの低下は決してさせないつもりである。
 「まりちゃん家」を利用するお年寄りたちも、ほぼ全員が、高血圧や糖尿病といった慢性病を持っている。しかし、利用者の症状は様々で、要介護度も違う。中には重い痴呆症の人も、末期ガンを患う人もいるし、逆に軽度の痴呆症で介護の必要なしと認定された比較的元気な利用者もいる。しかし、「まりちゃん家」を利用するお年寄りたちは皆、「まりちゃん家」に来たくてやって来ている。そこには利用者全員、違いはない。そして、お年寄りたちは「まりちゃん家」で、自分たちのできることをして、お互いに補い合って時間を過ごす。「できることがある」「必要とされる」こと、それが彼らの喜びとなり、「まりちゃん家」に集まってくるのだ。
 「まりちゃん家」から地域の老人福祉が変わろうとしている。
 佐々木さんの思いを実現し、継続してサービスを供給していくことは、NPO法人のデイサービスセンターにとって財政的に苦しいことであるのは、想像に難くない。しかし、佐々木さんたちの取り組みは行政にも影響を与え、町は介護保険の施行により、削られてしまったサービスの一部を町の一般財源でカバーする方針を固めた。この春に大学を卒業した若者も、「まりちゃん家」で働きたいと申し出て、4月から正式に雇用され共に汗を流している。
 こうした中、「まりちゃん家」はグループホーム事業に乗り出した。グループホーム事業は痴呆症のお年寄りと生活を共にし、日常生活の援助や介護を、その最期を看取るまで続けていくもの。その建物も一人暮らしの利用者が無償で提供してくれたもので、改装工事の後、今年4月にオープンした。
 ボランティアから始まった小さな試みは、全国有数のデイサービスセンターに成長した。独自の運営方針の下、介護保険制度の中でどのようにお年寄りへのサービスを守っていくのか。その活動を見つめることを通して、福祉の基本理念である「人は人はによって癒される」という意味を問い、これからの超高齢化社会における老人福祉のあり方を探る。

 βcamテープ250本、DVCテープ100本、200時間を超える膨大な時間の記録。岩田ディレクターはそのすべてに目を通し、耳をそばだて、編集は一ヶ月にも及んだ。そこから、紡ぎ出された1時間。映像は介護の現状を語りだした。
「介護保険開始直前に、町役場の役人がお年寄りにサービスの低下を直接伝える場面を撮ることができました。それは見る人に言葉にできない苦渋を感じさせる。80もとうに過ぎたお年寄りに、なんでそんなことを言わなくてはならないのか。なぜ、こんなことをしなくてはならないのか。胸をかきむしりたくなるような介護保険の現実がむき出しになっている」(岩田D)
 介護保険という制度に、お年寄りは戸惑いを隠せない。押し寄せる不安に涙をこぼす人さえいる。そして、介護の現場で始まる笑顔を守るための必死の闘い。理想と現実が交錯する、介護の生の現場でもがく人間たちに向けられたカメラが、その矛盾の核心にせまる。渾身のドキュメンタリー、『まりちゃん家から 〜あるデイサービスセンターの挑戦〜』にご期待下さい。


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『まりちゃん家から 〜あるデイサービスセンターの挑戦』
<放送日時> 7月12日(水)深夜27:25〜28:19
<スタッフ> プロデューサー  : 吉田荘一郎(OX)
ディレクター(取材・構成・編集): 岩田弘史(OX)
<制 作> 仙台放送

2000年7月4日発行「パブペパNo.00-192」 フジテレビ広報部