FNSドキュメンタリー大賞
「俺たちが死んだら、子供はどうなる!?」
「養護学校を卒業した後も通える場。街の中でたくさんの人と触れ合える場がほしい…」
そんな思いで重い障害を持つ子供の親たちが作り上げた学童保育所「げんきの家」

第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『報告「げんきの家」から』 (制作 福井テレビ)

<7月12日(水)深夜27時25分放送>

 2000年4月、「介護保険制度」がスタートした。「家族だけでは高齢者介護は無理」という考え方がようやく社会全般に行き渡り、行政が中心になってサポートするシステムが整ったわけだ。
 だが、同じ“社会的弱者”でも、「障害を持つ子供」への支援となると、依然として「親が介助して当然」という意識が、行政に根強く残っているのが実状のようだ。一例を挙げれば、最近は障害を持っていても普通学級への通学を希望する子供が増えているが、自治体や学校の考え方によって介助などの受け入れ態勢には大きな差がある。通学の条件として、登下校や教室の移動、トイレに行く時などに、親の全面的な付き添い・介助が求められる場合もまだまだ多い。その理由は「設備や人手が不十分」「安全面での責任」…。
 親に“負担”が求められのは、養護学校に通っている場合でも大差ない。およそ20年前、ようやく養護学校が義務化され、どんなに重い障害を抱えていても、学校に通えないということはなくなった。しかし、夏休みのような長期休暇中や放課後など、障害を抱えた子供たちの日中の暮らし、家族の負担をどう支えるかというのは、学齢期をむかえた子供を抱える親たちの、大きな悩みになっている。

 そんな中、養護学校を卒業した後も通える場。一人一人の思いや願いが大切にされる場。街の中でたくさんの人と触れ合える場。そんな場所がほしい、と重い障害を持つ子供の親たちが自ら運営する学童保育所が、平成9年12月福井市内の住宅地の一角に誕生した。その名は「げんきの家」。子供たちと同時に、親たちも元気になろうという意味をこめ、この名がつけられた。
 7月12日(水)放送の第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『報告「げんきの家」から』(制作 福井テレビ)では、もっと子供たちの可能性が広がるように、子供たちを主人公に人の和が広がるように、と「げんきの家」を運営する親たちの奮闘ぶりや、豊かな心の世界を持つ子供たちの世界をお伝えする。

 今回の取材を担当したのは、入社2年目の新人北嶋ディレクターだ。
「幼い頃、重度の障害児を目にして、恐怖を感じてしまった自分は何だったのか?その答えを見つけようと思って取材を始めました」と「げんきの家」を取材対象に選んだきっかけについて話してくれた。
「障害が重ければ重いほど、援助を必要とすればするほど、子供たちの選択肢は限られてしまいます。養護学校に通う児童の場合、高等部でも午後2時半には学校は終了しますから、夕方までの時間を、多くの子供たちは自宅で母親と過ごすことになりますよね。でも自分で過ごし方を決めることが難しかったり、自分での移動が難しいなどの障害が、そのまま放課後の生活の制約につながってしまっているのが現状なんです。『卒業したら、毎日が夏休み』。この言葉に保護者たちは今から怯えています」(北嶋D)

 「げんきの家」に通ってくるのは、体と知能両面に重い障害を抱えた7人の重度重複障害児たち。その中の一人、天谷将広君(14)。取材チームが不快に感じるラジカセのノイズや雑音に、強い喜びを表す。言葉でのコミュニケーションが難しい子供たちが、何を想い、何を考えているのか? 
 「一見、意思表示さえ難しそうな彼を通して、素晴らしい心の世界の一端に触れられた、という思いがしました」と北嶋Dは振り返る。
 「俺たちが死んだら、子供はどうなる!」この言葉が、すべての親たちに共通する想いだ。
 「自分たちがいなくなっても、子供たちが生まれ育った地域で普通に暮らせるようにしてやりたい!」親たちは誰もが心からそう願っている。
 「げんきの家」の会長を務める吉田謙治さん(46)、福井市内のスポーツ用品店に勤めるサラリーマンだ。吉田さんが毎朝日課としているのは、長男純平君(17)とのストレッチ体操。放っておくと固く縮んでしまう体を伸ばすことで、体の健康を保てる。吉田さんは、純平君が幼少の頃から毎朝30分のこの日課を欠かさない。
「吉田さんを始め『げんきの家』の素晴らしいところは、父親の存在です」(北嶋D)。酒井敏光さん(43)は、2年前から家業のガソリンスタンドを廃業してオリジナルの車椅子制作に取り組んでいる。重度の重複障害児を持つ父親として、娘としっかり向き合って生きていきたいとの思いからの決断だった。

 去年12月半ば、「げんきの家」では独自の成人式をやることになり、そのため何度かの実行委員会が開かれた。しかし、誰を招待するかという段階で、思わぬ意見の相違が明らかになる。福井市長を含め多くの人を招待したいとする会長に、メンバーから異論が出された。
「どこもやらないことをやろうと。それが一番なんやって」
「市長を呼ぶことに、違和感がある。『げんきの家』らしく成人式をやることが、一番のアピールなんやって」
 「げんきの家」では、開かれる会議で時々意見の食い違いが出るが、決裂することはない。みんな、この家を必要としているからだ。子供の存在をマイナスと捉えるのではなく、ありのままを受け入れていこう、と精力的に活動を続ける関係者たちだが、ここまでの道は、決して平坦なものではなかった。
 天谷将広君の母、裕美さん。帝王切開で出産した将広くんは、先天性の食道閉鎖で、脳に重い障害を抱えていた。裕美さんは、「障害児を産んだことは、人生の恥だと思いました。子供が生まれてから2、3年は、一歩も外に出られませんでした」と語る。しかし、同じ悩みを持つ仲間たちと出会い、徐々に前向きさを取り戻し、今ではどこに行くのも一緒だ。
 親たちの毎月1万円の負担金と、年間100万円あまりの補助金などで、苦しい運営が続く「げんきの家」。そんな中、新たな問題が持ち上がる。子供たちの送迎車が寄贈されることになり、親たちの負担が軽減されることになったのだが、問題はその維持費。ガソリン代や、ドライバーの人件費など年間60万円の費用が見込まれ、「げんきの家」では、次年度280万円近い赤字が見込まれる。
 議論が続く中、ただ一人の職員小松崎さんから出された案は、運営を安定させるため紙オムツの宅配を始めようというもの。「げんきの家」の将来を賭けたこの事業は、果たして実現するのだろうか…?

 「障害を抱えた子供と親たちの、あまりに自然な関係を見てほしいですね」。取材を終えた北嶋ディレクターはこう語る。
 7月12日(水)放送の、第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『報告「げんきの家」から』(制作 福井テレビ)に、ご期待ください。


<番組タイトル> 第9回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『報告「げんきの家」から』
<放送日時> 7月12日(水)深夜27:25〜28:19
<スタッフ> プロデューサー  : 寺村紀昌(福井テレビ)
ディレクター : 北嶋伸希(福井テレビ)
構    成 : 南川泰三
撮 影 ・ 編 集 : 伊藤春夫(福井テレビ)
技    術 : 浅井正俊(福井テレビ)
<制 作> 福井テレビ

2000年6月26日発行「パブペパNo.00-182」 フジテレビ広報部