FNSドキュメンタリー大賞
千枚田オーナー制度を通して考える「小さな田んぼの大きな役割」

第13回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『土佐・千枚田物語』
(制作:高知さんさんテレビ)


<11月12日(金)2時35分〜3時30分放送>
【11月11日(木)26時35分〜27時30分放送】


急峻な傾斜地を階段のように耕す棚田を、高知では「千枚田」と呼ぶ。
それは司馬遼太郎が
「万里の長城も人類の遺産やが、檮原の千枚田も大遺産やな」と語った、先人の汗が築いた山里の原風景…



 高知さんさんテレビ制作、第13回ドキュメンタリー大賞ノミネート作品『土佐・千枚田物語』<2004年11月12日(金)2時35分〜3時30分放送>では、高知県の梼原(ゆすはら)町で“オーナー制度”などの地域興しの努力も続けられているにもかかわらず、担い手不足や耕作放棄など危機に直面している千枚田の四季を取材し、“小さな田んぼの大きな役割”を考える。

 『土佐・千枚田物語』では、「小さな田んぼの大きな役割」「農の心求めて」「踏みとどまる人たち」「不整形の美」などの側面から、千枚田が直面する危機と美しさを追う。


<内容>
■小さな田んぼの大きな役割
 急峻な傾斜地を階段のように耕す棚田。高知県では親しみを込めて「千枚田」と呼ぶ。長い時間と先人の汗が築いた山里の原風景、司馬遼太郎も「万里の長城も人類の遺産だけど、檮原(ゆすはら)に随所にある千枚田も大遺産やな」と語ったという。
 その高知県梼原町には、
農水省の「全国棚田百選」にも選ばれた「神在居(かんざいこ)の千枚田」がある。十二年前には第一回全国棚田サミットが開かれた。
 地元では
「千枚田オーナー制度」を創設するなど、農村と都市の交流、地域おこしの努力が続けられている。実際、神在居にはコメづくりをやってみたいさまざまな人たちが集い、春先の田起こしに始まり、秋には収穫の喜びを共有する。
 しかし、日本の稲作自体もそうであるが、生産効率からみれば千枚田はとても分が悪く、耕運機も入らず管理の難しい小さな田んぼを、地主がまとめようとする場面にも出くわした。コンパクトな田んぼゆえに
愛着を感じる千枚田オーナーと管理する地主側の立場は相いれない面もある。
 担い手不足や耕作放棄など危機に直面する千枚田。
長い歴史があり、国土保全の役割を担ってきた小さな田んぼがいま危ない。棚田の放置はわが国の中山間地域のスクラップを意味するのだ。
 千枚田を愛して梼原・神在居に集う人々を縦軸にしつつ、越知町や吾北村など高知県内の千枚田が置かれた現状ルポを通して、「小さな田んぼの大きな役割」を考える。


■農の心求めて〜千枚田オーナー制度〜
 全国の棚田は22万ヘクタール、水田総面積の8%を占める。平地が少なく、急峻な山地が多い高知県では、千枚田(棚田)のある風景があちこちでみられる。番組はまず、そんな千枚田の一つ、高知県中西部の梼原町神在居の収穫祭の模様を映し出す。
 ここに、
「千枚田オーナー制度」という都市と農村の交流を目指した仕組みがある。抽選に当たれば、四万十川にちなんで4万10円払えば千枚田の所有者になれる。休日などを利用して田んぼを耕し、草取りや稲刈りに汗を流し、生産者と一緒に収穫の喜びを味わう。
 「畦(あぜ)に囲まれた湛水できる農地」というのが水田の定義である。水を用いるために毎回、畦を造らなければならない。また、水を導くために用水路を準備しなければならない。米作りは、手間と時間のかかる仕事だ。
「米寿」の語源にもなったように八十八回もの手順を必要とするという。
 何でも手軽に、インスタント化、レトルト化する現代にあって、わざと手間暇かけることに意義を見出す、抗時代的振る舞いに惹かれる人もけっこういるものだ。
 
カメラは千枚田の四季にゆっくりと寄り添う。もみ蒔き、苗作り、草取り…暴風雨にけなげに耐える稲の姿もあった。
 退職会社員夫婦や現職地方公務員、女子大の和太鼓部の学生たち…。
 やがて収穫。刈り取りの姿はぎこちないけれど、皆うれしそうだ。これら人物群の千枚田へのそれぞれの動機や関わりを追いつつ、私たちも
「農の心」を探し求める。

■踏みとどまる人たち
 急傾斜地の多い高知県には、かつてその数に匹敵する千枚田群が山里の構成要素となって故郷の風景を形づくっていた。いま、田んぼ群としてまとまった景観を形成しているのはおよそ40カ所に過ぎない。
 多くの人たちは、山里を捨て都会に「便利」や「快適」を求めたのだろう。行政の記録には、それらの人たちを「耕作放棄者」として一括し、数量化した記述が残るのみだ。では、一体、
千枚田の耕作を放棄させたのは誰なのか。かつて200枚の美しい田んぼがあった高知県越知町野老山地区、1000枚に及ぶ田んぼがあった吾北村(合併後の現いの町)津賀谷地区で、頑張っている農民にもスポットを当てた。
 彼らは言う、
「自分が体の動くうちは千枚田の米作りを続けたい」と。しかし、「そのあと」については誰もが言葉を飲み込む。津賀谷では今年、30枚の田んぼが耕作者を失った。
 実際、千枚田を保全するのは大変な労力を要する。大型の耕作機械も入りにくい。逆に、千枚田の米作りをやめると、その崩壊は猛スピードでやってくる。まず、畦が消滅する。次いで、石垣が壊れる。水がたまらなくなり、カヤやススキがわがもの顔ではびこる。2年を過ぎると、種々雑多な草花、樹木が先を争うように地表を覆い、ほどなく田んぼの存在それ自体を抹殺するのだ。その変容ぶりを映像で見てほしい。

■不整形の美
 千枚田(棚田)による生産形態は、近代社会が追い求める大量生産、価格競争、効率化、スピード化などと対極にある。少量生産であり、コストは高い。著しく非効率であり、機械化になじまない。
 しかし、山の傾斜地を耕す千枚田は、生活排水の混じらない、天然の水によって米を育てる。また、洪水のクッションとして作用し、地滑りを防止し、最も優れた水資源涵養機能を併せ持つ。さらに、「生命の源としての土」をつくる。生態系を保全する空間としての貴重な役割を果たしていることを忘れてはならないのだ。
 「それでどうした」という突っ込みに対する答えを私たちは持たない。「壊れるものは壊れればいいさ」というものの言い方にもくみすることも出来ない。


<制作者のコメント:高知さんさんテレビプロデューサー 鍋島康夫>
 「小さく、必ずしもまっすぐに整形されてはいない田んぼたち。このたたずまいの素朴な美しさに惹かれました。
 生産の喜びと苦しみ。たまにやってくる人とそこで生活している人の意識の落差。取材、編集の過程では、いろいろなことを考えさせられ、処理の難しさを痛感しました。
 『体の続く限り、自然豊かなこの地で米作りをしていきたい』と語って耕運機をあやつる津賀谷の竹崎さんを最後のシーンにもってきたのは、農に生き、『田んぼがあるから米を作るんだ』とでも言いたげな哲学者のような姿をそこに連想したからです。」


<制作者のコメント:高知さんさんテレビディレクター 大井清孝>
 「千枚田のオーナーはどんな連中か、という人への関心がドキュメンタリーを始めるきっかけとなりました。 実際に千枚田の四季を映像に収め、収穫の喜びも一緒に味わいましたが、最後に、小さな田んぼをひとまとめにしようとした地主の老女のひと言に衝撃を受けました。たまに耕作にやってくる人は楽しいだろうが、ここで生活する者は大変だよ、という内容でした。」



<番組タイトル> 第13回ドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『土佐・千枚田物語』
<放送日時> 2004年11月12日(金)2時35分〜3時30分放送
<プロデューサー> 鍋島康夫(高知さんさんテレビ)
<ディレクター> 大井清孝(フリー)
<撮影> 新谷卓史(フリー)
<語り> 野村 舞(高知さんさんテレビ)
<CG> 服部淳一(高知さんさんテレビ)
<制作著作> 高知さんさんテレビ

2004年11月2日発行「パブペパNo.04-348」 フジテレビ広報部