FNSドキュメンタリー大賞
どうしたら痴呆症から逃れられるのか。
「読み書き計算」学習療法によって痴呆症が克服されていく過程を描きます。

第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『「父さんの出発進行!」〜痴呆脱出の読み書き計算〜』 (仙台放送)

<11月19日(水)2時38分〜3時33分放送>
 人間にとって避けることのできない現実、「老い」。特に、記憶も言葉も行動も奪ってしまう痴呆症は、我々に老いることへの不安を募らせます。どうしたら痴呆症から逃れられるのか。これまで多くの人々が取り組んできたテーマに意外なほどシンプルな答えが浮かび上がっています…

 11月19日(水)2時38分〜3時33分放送の第12回ドキュメンタリー大賞ノミネート作品「父さんの出発進行!」〜痴呆脱出の読み書き計算〜(仙台放送)では、東北大学未来科学共同研究センターの川島隆太教授が提唱する「読み書き計算」学習療法によって痴呆症が克服されていく過程を描きます。痴呆症のお年寄りとその家族や看護スタッフたちの愛情溢れる日常、痴呆への脳科学的アプローチの最新動向や教育現場の新たな取り組みも紹介していきます。

<<あらすじ>>
 駅長まで勤め上げた元国鉄マン・荒川今朝男(83歳)は老人性痴呆症のため宮城県仙台市のエバーグリーン病院に入院しています。うまく話すことができず、トイレに行くことを時々忘れてしまうこともあり、記憶も断片的にしか残っていません。

 そのエバーグリーン病院では、今回、11名の入院者にたいして「読み書き計算」学習療法をはじめました。東北大学川島教授の指導のもとに看護スタッフと痴呆症のお年寄りの新しい試みがスタートしました。

 学習療法に最初は緊張気味だった荒川ですが、献身的なスタッフの後押しを受け一生懸命「読み書き計算」に取り組みました。2週間後、最初の変化が現れました。昔使っていたのを思い出し、学習の場に自分の鉛筆を持ってきたのです。これを皮切りに荒川は次々に昔の自分を取り戻していきます。

 幼い頃の思い出、他人への思いやり、そして笑顔。もうなくしたと思っていた先立った妻からもらった大切な腕時計も見つかりました。すでに新しい腕時計を娘さんに買ってもらっていたので、このうれしい発見の日から荒川は大切な二つの腕時計を左右の腕にするようになりました。学習療法が始まって一ヶ月、荒川の目には光が満ち溢れていました…

 効果が現れたのは荒川だけではありません。及川与志子(92歳)や他のお年寄りにも少しずつ変化が生まれ始めました。川島教授は学習療法が痴呆症の改善に効果を示すのは「読み書き計算」が脳の前頭前野を活性化させるためだと考えています。川島教授が1年半ほど前から指導する福岡県大川市の介護老人福祉施設永寿園でも、たくさんのお年寄りが笑顔を取り戻しました。川島教授は痴呆症改善だけでなく、子供たちの知能発達や障害児教育にもその効果があると考えています。

 広島県尾道市の小学校校長陰山英男は10数年も前から「読み書き計算」を教育の現場に取り入れて成果を上げてきました。実践してきた学習法をまとめた『本当の学力をつける本』はベストセラーになっています。現場の教育者の経験則と、遠く仙台の川島教授の科学的学習法は運命的なほどに一致していたのです。

 荒川はその後も学習療法に取り組み、順調な回復を続けました。見違えるようになった姿に娘も孫も喜びの涙を流します。そして念願の外出許可をもらうまでになり、病院の職員で献身的な看護を続けてくれた孫ほどに年の離れた村上幸恵と、娘と共に車に乗り込みます。向かった先は…

<<制作担当者のコメント:仙台放送 庄子勝義>>
 担当している報道番組で昨年の10月に子どもの学力をテーマにした特集を組みました。その際『読み書き計算』で子どもの学力を伸ばしていた兵庫県の小学校の先生、陰山英男さん(当時、現在は広島県尾道市立土堂小学校校長)を紹介しました。今年になって同じ番組で川島教授の人間の脳と学習の関係の研究を取り上げたところ「読み書き計算」が脳を活性化するという証明がなされ、私の中で『読み書き計算』の実践と科学が結びついた訳です。そして、今年6月から川島教授の指導によりエバーグリーン病院で『読み書き計算』による痴呆症の学習療法が始まり、取材に入りました。
 先日、病院に番組の主人公となった荒川さんを訪ねました。荒川さんは私の姿を見つけると満面の笑みで迎えてくれました。荒川さんは今、いとこからの手紙を読み、ベットの高さを自分で調整し、学習中に私語をする人に「静かにしなさい」と注意をしています。介護スタッフと一緒にやる「読み書き計算」は人間の脳を活性化するだけでなくお年よりの心も開いているように思えます。「学習療法で痴呆を完全に治すことはできないが、自分の身の回りのことができるようになって社会復帰をすることは可能」という東北大学の川島教授の言葉が現実のものになりました。仙台市ではこの成果に注目し、川島教授の指導で10月から団地に住む70歳以上の高齢者250人を対象に痴呆予防のための学習療法を始めました。もしかすると、仙台から「痴呆の未来を開く学習療法」というノウハウが発信できる日が来るかもしれません。

<プロデューサー> 及川眞則
<ディレクター> 庄子勝義
<構成> 岩井田洋光
<AUD> 石澤善明
<選曲> 谷川正幸
<MA> 小峰義央
<CAM> 斎藤敏明
<EDIT> 武石英利
上池隆宏
<CG> 菅井 操
<タイトル> 菊地新市
<制作著作> 仙台放送

2003年10月31日発行「パブペパNo.03-329」 フジテレビ広報部