FNSドキュメンタリー大賞
「NLP(米空母艦載機の夜間離着陸訓練施設)を島に誘致する」
2003年1月30日。瀬戸内の小さな島の町長が、日本中を揺るがす発表をした。
大噴出する反対の声の中、町長はわずか7日で誘致の断念と辞任を決意する。
なぜ、町長はNLPを誘致しようとしたのか?
前沖美町長・谷本氏のインタビューを交えながら、そこから見えてくる小規模自治体の苦悩と、現在の日本が抱える課題を浮き彫りにする。

第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『追いつめられた島 〜NLP誘致の背景〜』 (制作 テレビ新広島)

<2003年6月10日(火)深夜26:28〜27:23>
 経済の先行きが不透明な中、地方自治体が苦しんでいる。構造改革の名のもとに、切り捨てられる末端の小規模自治体。国の財政難から、地方への交付金を絞らざるを得ない今、これまで国からの補助金に大きく頼っていた地方の小さな自治体ほど、そのダメージは大きい。これは、今や日本全国の自治体が抱える大きな問題である。国から「切り捨てられた」自治体は、果たしてどういう道を歩んでいくのだろうか?
 6月10日(火)深夜26:28〜27:23放送の第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『追いつめられた島 〜NLP誘致の背景〜』(制作 テレビ新広島)は、こうした多くの自治体が抱える問題に対し、生き残りの道を探ろうとした島を軸に、日本の小規模自治体の今を掘り下げていく。

 2003年1月30日。広島県佐伯郡沖美町の谷本英一町長が、突然、米軍の夜間飛行離着陸訓練施設(NLP)を瀬戸内海最大の無人島、大黒神島へ誘致すると発表。同時に、町議会の全員協議会で建設要望書の提出が決まった。
 寝耳に水の住民をはじめ、周辺自治体はどよめきたった。なぜ平和都市である広島に、なぜ瀬戸内の小さな町の町長が、究極の迷惑施設であるNLPを誘致するのか。そこには急速に進む高齢化と過疎化により、町独自の税収が1割にしか満たず、地方交付税への依存が7割を超えるという島の状況と、混迷する島内の合併協議があった。
 当時、広島湾に浮かぶ能美島と江田島では、江田島町、能美町、沖美町、大柿町の通称「江能4町」の合併協議が進められており、当初は順調に合併が進むものと思われていた。ところが、新市の名称決定段階において、この合併の雲行きが怪しくなった。
 というのも、新市の名称としてあげられた「江田島市」に対し、「旧町名は対等合併にふさわしくない」とする、隣町の能美町民が反発したことによって、合併協議は混迷を深めていたのであった。このことに、最も焦りを感じていたのが沖美町であった。人口4000人で、4町のうち最も財政基盤の弱い沖美町にとって、合併の取り消しは大きな痛手となってしまう。焦りの中、谷本町長の頭に浮かんだのが、どの自治体も敬遠する、しかし政府からの莫大な補助金を期待できるNLPの誘致であった。
 一気に噴出した反対の大合唱の中、議会からも背を向けられ、孤立していく町長は、公表からわずか7日で、誘致の断念と、町長辞任で自ら幕を閉じた。

 番組では、究極の迷惑施設と言われるNLPの実態を検証するとともに、谷本町長の町長当選から、江能4町合併協議立ち上げ、NLP誘致、また沖美町の新町長誕生までを縦軸に、それまで、黙して語ることのなかった谷本町長のインタビューを交えて進んでいく。

 番組を担当したテレビ新広島の横川慶治ディレクターは、「当時、発表から1週間で町長が辞職してしまい、騒動はあっという間の出来事だった。単に、変わり者の町長が起こした、ひとつの珍事として終わらせるのには、自分の中で何か引っかかるものがあった。谷本町長が何を思って、NLPを誘致するという決断に到ったのかを、自分なりに一度整理したかった」と、番組制作のきっかけを語る。

 不況、そして構造改革、10年前とは大きく変化した現在の日本で、過疎の町が生き残るには、合併や、こうした迷惑施設の誘致しかないのか。また、合併しても過疎化は食い止められないであろう町の町長は、一体、どのようなビジョンを持ち、どうしてこの様な決断を下したのか。住民不在の中、進められた密室の協議と、防衛施設庁の思惑。そして、頓挫する周辺自治体との合併。現在の日本が、そして自治体が抱える多くの課題がそこには存在していた。

 横川ディレクターは、「自治体の中で、リーダーに求められる資質が変わってきていると思う。昔なら、中央とのパイプが強く、いかに金をとってこられるかが、リーダーとして問われる資質だった。でも今は、自治体独自の発想と手法で、いかに閉塞感を打ち破っていけるかが、求められている時代だと思う」と語り、加えて「町長として1期目の谷本さんの決断には、町長としての生き残りを賭けた葛藤があったと思う。町長という肩書きから離れた谷本さんに、一連の動きを、もう一度振り返ってもらい、納得いくよう説明してほしかった。今回のケースから、現在の小規模な自治体(=故郷)の多くが抱えている問題を、感じ取ってもらいたい」と話している。


<番組タイトル> 第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『追いつめられた島 〜NLP誘致の背景〜』
<放送日時> 2003年6月10日(火)深夜26:28〜27:23
<スタッフ> プロデューサー : 加藤隆史(テレビ新広島)
ディレクター : 横川慶冶(テレビ新広島)
構    成 : 森  成礼
音 響 効 果 : 山形晃一(TSSプロダクション)
撮    影 : テレビ新広島報道部
編    集 : 中村一弥(TSSプロダクション)
ナレーション : 棚田 徹(テレビ新広島)
<制 作> テレビ新広島

2003年6月13日発行「パブペパNo.03-162」 フジテレビ広報部