FNSドキュメンタリー大賞
臓器移植法施行から5年…。だが、認められていない15歳未満の子どもからの臓器移植の問題は依然棚上げになったままだ。
移植の過熱報道が冷めた今、移植を待つ子どもたちと、移植を取り巻く環境をあらためて取材し、“移植”や“人の命”について改めて考える渾身のドキュメンタリー!


第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ふたつの命 〜閉ざされた小児臓器移植〜』(制作 関西テレビ)

<5月13日(火)深夜26:28〜27:23放送>

脳死者からの臓器摘出を認めた「臓器移植法」の施行から5年以上が過ぎました。移植が行われる病院にマスコミが殺到したのも今は昔で、今は新聞の片隅に「移植が行われた」と小さな記事が載る程度です。一方、この法律は施行から3年をメドに見直すとされていたはずなのに、認められていない15歳未満の子どもからの臓器移植の問題は棚上げになったままです。このため、心臓移植しか助かる道のない子どもは、アメリカなど海外での移植を希望します。しかし渡航するお金が集まるまでに命を失う子がいます。運良くお金が集まっても、重病の子どもの渡米は子どもの体にはもちろん、家族にも精神的、肉体的に負担がかかります。日本では子どもの移植の道は開かれないのだろうか…。
 5月13日(火)深夜26:28〜27:23放送の第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『ふたつの命 〜閉ざされた小児臓器移植〜』(制作 関西テレビ)は、移植の過熱報道が冷めた今だからこそ移植を待つ子どもたちと、移植を取り巻く環境を改めてじっくり取材し、「移植」や「人の命」についてあらためて考えます。

*心臓病の子ども・閉ざされた移植の道
 重い心臓病の男の子、毛利彰吾くん(1)は生まれて10日目からほとんどを病院で過ごしています。去年12月、2回目の心臓停止状態に陥り、医師から心臓移植以外助かる道が無いと診断されました。しかし、日本では15歳未満の子どもからの臓器移植は認められていません。1歳の彰吾くんには大人の心臓は大きすぎて移植できませんし、心臓は肺や肝臓のように大人から臓器の一部を切り取って、生体移植することもできません。日本にいる限り彰吾くんには生きる道がないのです。
 彰吾君の両親は医師から「移植をするためにはアメリカに渡らなければいけない」と言われます。アメリカでは臓器提供をのぞむ外国人をわずかながら受け容れていますが、アメリカの病院は保険がきかない上、渡航費・家族の滞在費などあわせて1億円近い費用がかかります。どうやってそんなに莫大なお金を集めることができるのか…彰吾君の両親は途方に暮れます。
 心臓や肺の重い病気にかかって臓器移植しか治療法がないのに、移植が受けられずになくなった18歳未満のこどもは、臓器移植法施行直前の9月から去年12月までに少なくとも100人以上いるといわれています…こうしている間にも幼いこどもの命が失われているのです。

*アメリカでの移植で救われた命
 一方、移植法施行後、海外で移植を受けて元気になった子どももいます。
モーニング娘。が大好きな小学校5年生、藤田夏帆ちゃんも、拡張型心筋症で移植が必要と診断され、一昨年9月にアメリカで心臓移植手術を受けました。順調に回復した夏帆ちゃんは現在小学校で金管クラブに所属しています。いまや体育の授業にも参加する夏帆ちゃんは、一時期は人工心臓をつけるほど深刻な状態だったというのが信じられないほど、周りの子供と何も変わりません。

*日本では子どもの臓器移植ができない理由
 海外のほとんどの国が「脳死=死」としているのに対し、日本では、書面で臓器提供の意思表示をした場合のみ「脳死」が死と認められます。子どもは提供の意思を書面で残すことが困難なため、意思表示できる年齢を、法律上、遺言が残せる「15歳以上」で線引きしました。このため、15歳未満の子どもは、ドナー(臓器提供者)になれないのです。
 有村英明さんの三男・勇貴くんは心臓移植を受けるためアメリカに渡りましたが、ドナーが現れず短い一生を終えました。家族の金銭的負担、重病の子どもが長時間飛行機に乗るリスク、そして言葉がわからず病状を伝えることも医師に尋ねることもできないもどかしさ…その苦労と息子を失う辛さが痛いほどわかる英明さんは、NPOを設立して移植が必要なこどもの家族をサポートしています。英明さんは「日本では脳死の子ども10人と心臓移植が必要な子ども10人その両方が死んでしまう。20人全員が死んでしまう社会と、移植で10人の命が救われる社会どちらが優しい社会ですか?」と問いかけます。

*ドナー家族の葛藤・子どもはドナーになることを望んでいるのか
 イギリスやドイツは深刻なドナー不足に陥り、海外からの移植希望者を受け付けなくなりました。アメリカもいつ受け入れを打ち切るかわかりません。子どもの臓器移植実現を推進する人は「海外のように脳死を死として、親が子どもの臓器提供を決められるようにするべきだ」といいます。しかしその一方で、慎重に議論を進めたほうがいいという意見もあります。
 愛知県豊橋市のタクシー運転手・吉川隆三さんは、5歳で死亡した長男・忠孝くんの腎臓を提供しました。心臓停止後に摘出できる腎臓や角膜は、日本でも親が子どもの臓器提供を決めることができます。息子の一部が誰かの体で生き続けて欲しいと提供を申し出た吉川さんですが、しばらくして「息子は本当に移植されることを望んでいたのか、天国で怒っているのではないか」と悩み始め、一時は自殺まで考えました。忠孝くんの臓器を提供された人が元気に生きていると知り、今は後悔していないという吉川さんですが、「臓器提供を勧めることはできない。自分と同じ苦しみを経験する人を増やしたくないから」と言います。関西医科大学の小児科医・杉本健郎さんも息子の腎臓を提供しましたが、吉川さんと同様親のエゴではなかったかと今でも自分に問い続けています。杉本さんは、子どもの意思が何らかの形で反映できるように方法をもっと国民が議論するべきだと主張し、講演や執筆活動を行っています。

*こどもを生かしたい親の気持ち
 毛利彰吾くんの母・順子さんは「同じ子どもの死を待つ医療、移植しか息子が助かる道がない」といわれ戸惑いましたが、いまは息子の命を救うためと募金活動のために東奔西走しています。 脳死の子どもの親も、移植しか助かる道がないといわれた子どもの親も「子どもを生かしたい」という気持ちは同じです。移植を通じて「いのち」について考える番組になればと思っています。


<番組タイトル> 第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『ふたつの命 〜閉ざされた小児臓器移植〜』
<放送日時> 5月13日(火)深夜26:28〜27:23
<スタッフ>
プロデューサー杉本 真一
ディレクター吉國 ぴあ
撮     影小松 和平
編     集赤井 修二
取  材  先国立循環器病センター
日本赤十字社和歌山医療センター ほか
制     作関西テレビ