2016.7.30

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『届かなかった少年のSOS~“いじめ”自殺が遺したもの~』
(制作:岩手めんこいテレビ)

少年のSOSはなぜ届かなかったのか?

<8月2日(火)26時30分~27時25分>


 2015年、岩手県矢巾町で一人の少年が列車に飛び込み亡くなった。「なぐられたりけられたり首しめられたり」、「もういきるのにつかれてきたような気がします。氏(死)んでいいですか?」。少年は自らがいじめられていることや死をほのめかす記述をあるノートに残していた。それは中学校で担任とやりとりをする「生活記録ノート」と呼ばれるものだった。しかし、訴えは担任しか知らず、学校内で共有されていなかった。学校は少年に救いの手を差し伸べることができなかった。少年のSOSはなぜ届かなかったのか、取材を進めることにした。

 少年に何があったのかを知るには、書き残されたノートのメッセージをたどるしかなかった。ノートを見ていくと、1年生のころからいじめに苦しみ、何度も担任にSOSを発しながら次第に追い詰められていく姿があった。そして担任は対応を放棄していたわけではなく、むしろ気づかっている姿があった。それなのになぜ少年のSOSは届かなかったのか。
 取材を進めるうちに浮かび上がってきたのは、学校がいじめ問題と正面から向き合っていなかったのではないかという疑問であった。学校は教育委員会に、少年が入学してから校内でのいじめ件数は0件と報告していた。これはいじめが存在していないということになる。また、少年が亡くなったことについて学校が遺族に説明をした時の会話の音声を聞くと、校長は「いじめという言葉に響きの重さがある」といじめ問題から目をそむけているのではと思わせる内容だった。さらに少年の担任は学年主任に「少年をいじめた生徒に指導をした」と報告したものの、その会話は立ち話程度で終わっていたことが明らかとなった。

 一方、他の中学校に勤務する教諭は「死をほのめかすような記述があれば、普通であれば周りの教員に報告する。忙しさに追われ生徒への対応の判断を誤ることはある。しかし、亡くなった少年の件は判断を誤ってはいけないケースのため、同僚や上司に報告していたと思う」と話す。
 いじめを原因とした自殺は全国で相次いでいる。2011年には滋賀県の大津市で当時中学2年の男子生徒がいじめを苦に自殺をした。この男子生徒の父親は悲劇が繰り返されないようにといじめに関する法律を作るために国に働きかけ、2013年に「いじめ防止対策推進法」が制定された。しかし、結局いじめを苦にした自殺を防ぐことはできていない。父親は「法律が作られていじめ問題に真剣に取り組もうとなったはずなのに、なぜいじめによる自殺が無くならないのか」と悔やむ。
 教育現場は何もしていないのか。取材をすると、模索しながら対策を講じている教育現場があった。例えば、大津市では「いじめ対策担当教員」という教員を各小中学校に配置している。この専門教員はクラスを持たず、受け持つ授業も他の教員の半分程度で、いじめ問題の対応に集中する。また、一人一人の教員の能力を高めていじめに対応しようと「教職大学院」が大学に設置される動きが広がっている。地域によっては教育委員会から現役の教員を派遣して教員の力を伸ばそうとしている。
 繰り返される、いじめを苦にした自殺。届かなかった少年のSOSをきっかけにこの番組ではいじめ問題について考える。

ディレクター・和田裕貴(岩手めんこいテレビ報道局報道部)コメント

「少年の死を聞き現場へ向かった私は、最初は転落死と思っていました。その後、少年がノートにいじめを受けていることや死をほのめかす悲痛な叫びを残していたことがわかりました。入社2年目の私にとってこれほど大きな案件を取材して伝えるのは初めてのことで、記者人生の転機といえるこの問題を継続的に取材してきました。そして、自分の目で見てきたことを自分の言葉で伝えたいと思い、ナレーションを自分で務めさせていただきました。
この問題については、いじめの有無や自殺との因果関係を第三者機関が調査中で、真相はまだわかっていません。ですがこの番組をきっかけにいじめ問題について考えてもらいたいと思います」


番組概要

◆番組タイトル

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『届かなかった少年のSOS~“いじめ”自殺が遺したもの~』
(制作:岩手めんこいテレビ)

◆放送日時

8月2日(火)26時30分~27時25分

◆スタッフ

プロデューサー
菊地十郎
ディレクター
和田裕貴
撮影
佐々木聡

2016年7月29日発行「パブペパNo.16-312」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。