2016.6.28

第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『パーソナリティ始めました
～インターネットラジオに託す夢～』
（制作：関西テレビ）

“インターネットラジオ”という新しい発信ツールを通じて
性的少数者や引きこもりなどの体験を語り、
未来に夢の花を咲かせようと奮闘する若者たちのドキュメンタリー。

＜7月1日（金）27時55分～28時50分＞

　2015年6月に開局したインターネット上のラジオ局「ゆめのたね放送局」。このラジオ局を開局し、パーソナリティを募集したのは、見た目も語り口もかなり軽めの共同代表、佐藤大輔と岡田尚起。しかし、実は…彼らはとっても真面目で情熱家なのだ。「ラジオ局を作りたい」そんな無謀とも思える数年越しの夢を実らせ、大阪府門真市のおしゃれなビルの中にラジオ局を誕生させた。
「ゆめのたね放送局」には、現在約200人（2016年2月現在）のパーソナリティが所属し、週に1回、30分の自分の番組を持っている。費用は月に1万円。ギャラをもらうのではなく、お金を払ってしゃべっている。しゃべりに関してはほとんどが素人。「ゆめのたね放送局」の研修をうけて、パーソナリティとなったほやほやの人ばかりだ。
これまでの人生で「生きづらさ」を感じてきた人が多いのも、この「ゆめのたね放送局」のパーソナリティの特徴だ。そんな新人パーソナリティを二人の共同代表がまとめ、インターネットから個性的な話題を届けている。
番組に登場する新人パーソナリティは二人。ちょっと特別な体験をしてきた二人だ。

「まるはだかラジオ」（木曜午後9時30分～）という番組を始めたのは中尾“勇守（ゆうま）”。“彼”は去年の春まで“女性”教師として高校に勤務していた。生徒に本当の自分を伝えられない苦しさもあって教師をやめ、性同一性障害や同性愛など「LGBT（レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー）」に対する理解を深めるためにマイクに向かっている。LGBTの関係者をゲストに招いて展開するトークは、あくまで軽やか。時に下ネタも交えつつ30分の番組を進行する。笑いの絶えない番組だが、思いは真剣そのものだ。家族へのカミングアウトの体験など、ゲストは包み隠さず経験を語る。「まるはだかラジオ」のリスナーは200人ほどだが、その中には同じ思いを抱いて生きている人、自分の性に悩む中学生などもいる。
特定の話題が中心だが、それが必要な人のもとに確実に届けているのだ。

　おとなしい青年“クマ”こと隈江秀貴は、高校生の頃、“引きこもり”になった。今も、引きこもりの過去を引きずって生きている。引きこもっていた時間を取り戻そうと時々焦るが、外の世界は思いのほか厳しい。実態のわからない会社に就職して給料をもらえなかったり、妙な投資話に乗り生活費に困ってしまった経験も。そんなクマが始めた番組のタイトルは「ひきこのもり」（月曜午前6時～）。一見ふざけたようなネーミングだが、彼はいたって本気だ。パーソナリティに挑戦することで、自分を変えようとしている。自分の生活もままならないのに「他人のきっかけを応援したい」という。とにかく「思い」を発信したいのだ。リスナーは約30人。月曜日の午前6時に「ひきこのもり」にわざわざアクセスする人が30人はいるのだ。「ひきこのもり」はクマの社会での存在を明確にしている。そして放送局をつくった共同代表の佐藤大輔と岡田尚起は、クマが「出会った頃より成長した」と見守り、あたたかくサポートしている。

　インターネットラジオ局を開設した二人も、そしてその思いに賛同して集まった約200人のパーソナリティも、みんな本気だ。本気で変わりたいし、周りも変えてあげたい。インターネットラジオ局という新しい居場所は、彼らにどんな化学変化を起こすのだろうか？
この番組は、「ゆめのたね放送局」という場所で新人パーソナリティたちがそれぞれの夢の花を咲かせようと奮闘する姿を描く、ちょっと心が温まるドキュメンタリーである。

ディレクター・柴谷真理子（関西テレビ報道局報道センター）コメント

「1年ほど前、知人から変わったラジオ局が立ち上がると教えてもらいました。最初はピンとこなかったのですが、“ゆめのたね”というラジオ局名と代表の二人の話に、希望のようなものを感じました。ラジオ局の立ち上げから開局後半年余りを取材しましたが、いつも取材現場で“優しさ”を見たように思います。“ゆめのたね放送局”は、個性的で時に社会で苦労しているパーソナリティをも、温かく、優しく受け入れていると感じました。そうした環境で、個性的なラジオ番組が誕生しました。自分の番組を持つということが、人を成長させるということも知りました。1年におよぶ取材のなかで、新人パーソナリティたちは、顔つきも変わっていきます。番組ではその変化もぜひ見てほしいと思います。誰かに向かって語りかけること、必要とされること、その意味をこの取材を通して考えさせられました」