2015.9.8

第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『異人館の“きせき”
 ~海の見える喫茶店の防潮堤をめぐる4年間~』

(制作:岩手めんこいテレビ)

東日本大震災の津波で半壊し、
営業再開した岩手県宮古市の喫茶店の前には防潮堤の計画が。
防潮堤と景観のはざまで揺れる、そこに生きる人々の海に対する思いとは。

<9月9日(水)26時5分~27時>


 東日本大震災発生から間もない頃、避難所の取材中に、自身が撮った津波の映像を見せてくれたのが、岩手県宮古市の宮古湾の岸辺にたたずむ喫茶店「異人館」のマスター・安倍主税(あべ・ちから)さんだった。映っていたのは、安倍さんが津波に飲みこまれる寸前の恐ろしい(すさまじい)映像。地元の消防団員として活動中に津波に飲みこまれ、奇跡的に生還したという。津波に飲まれた時の様子や教訓などを聞き、今回とは別の番組で放送した。震災から3年が経った2014年、「異人館」再開のめどが立ったが、店の前に10.4メートルの防潮堤ができる計画があり、2~3年後には自慢の景色が失われてしまう可能性があることを安倍さんから聞いた。宮古の海の美しい景色が防潮堤のコンクリートの壁で覆われてしまう。これは、三陸沿岸の人たちが少なからず直面している現実で、人々の命を守る防潮堤と慣れ親しんできた故郷の景観のはざまで揺れる思いというのは、多くの人が抱えている問題だ。

 ゆったりとした時間が流れる「異人館」は、人々の心の癒しの場所となっている。そして、その美しい景色が防潮堤によって見えなくなるという現実。安倍さんは人々の命を守る消防団員として、防潮堤の大切さ、必要性を特に実感しているだけに、建設に反対はできない。防潮堤と「異人館」は共存できるのだろうか。海の景色が見えない「異人館」とは…。「異人館」の再建から1年。その間、安倍さんが防潮堤とどのように向き合い、店の自慢の景観が失われることに対して何を考え、何を思い、「異人館」をどのように位置付けようとしているのかを追った。

 防潮堤の建設によって失われるものとは何なのか。景観が損なわれることは間違いないが、取材を進めるにつれて、ただ目に映るものだけが失われるのではないことに気が付いた。「小魚を捕ったり、海藻を採ったりと海が身近にあったのが、次の世代の人たちはそれができない」という安倍さんの言葉が印象的だった。また、数少ない砂浜が残る海水浴場を残そうと強く訴えていた須賀原チエ子(すがわら・ちえこ)さん親子は、思い出の場所だった故郷の景色が変わってしまうことを大変残念に思っている。防潮堤の議論は、建設が決まった今後も続けていく必要があるのではないか。

 多くの自営業者が再建し、復興が進んでいるように見えるが、実際は安倍さんのように店の周りの環境が変わってしまったり、震災で人口減少や後継者不足に拍車がかかっていたりと、震災前と同じ状況に戻れているわけではない。そんな不安を多くの自営業者が抱えながら再建の道を歩んでいるという被災地の現状もある。

 そして、地元を離れ、人口が多い街に出ていく選択肢もあったのに、震災前と環境が変わっても地元で前向きに生きようとする安倍さんや、菓子店を営む田中和七(たなか・わしち)さんの姿を通して、生まれ育った町に対する思いや、そこにある人々の絆も存在する。

 防潮堤と景観のはざまで揺れる安倍さんらの思いを通して、そこに生きる人々の海に対する思いや三陸の自然の尊さを感じてもらいたい。

ディレクター・井上智晶(岩手めんこいテレビ報道局報道部)コメント

「この番組を制作するにあたって、被災各地で挙げられる防潮堤の必要性を問う議論を取り上げるかどうかで悩みましたが、今回は異人館に絞って伝えることにしました。異人館からの景色に私自身とても感動し、同時にそれが失われるというギャップの大きさを感じたからです。しかも、マスターの安倍さんは津波に飲まれながらも九死に一生を得て、異人館も海のそばにありながらも全壊を免れたという二つの奇跡は、人々に訴える力があると思いました。
 被災地には、震災後喫茶店は少なく、被災者が安らげる場所があまりありません。そんな中で、人々がゆっくりできる場所を提供し、津波の体験を語り継ぐ異人館の存在は貴重だと感じます。少しでも多くの人が今の被災地を訪れて何かを感じてほしいですし、この番組がそのきっかけになればと思います」


番組概要

番組タイトル

第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『異人館の“きせき”
~海の見える喫茶店の防潮堤をめぐる4年間~』
(制作:岩手めんこいテレビ)

放送日時

9月9日(水)26時5分~27時

スタッフ

プロデューサー
菊地十郎
ディレクター
井上智晶
構成
井上智晶
撮影
高橋一彦(めんこいエンタープライズ)
上川友記(めんこいメディアブレーン)
鈴木耕介(めんこいメディアブレーン)
編集
高橋一彦(めんこいエンタープライズ)
制作
岩手めんこいテレビ
ナレーション
井上智晶

2015年9月7日発行「パブペパNo.15-314」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。