2015.9.7

第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『町を継ぐ』
(制作:秋田テレビ)

全国最多の10選を目指して出馬表明したものの急逝した秋田県井川町長。
後を継いだ前町長の長男・県内最年少町長の激動の100日を追った。

<10月16日(金)27時55分~28時50分>


 秋田市から北へ20キロのところにある秋田県井川町。県内で2番目に小さな町だ。ここで長年、町を治めてきたのが、斎藤正寧前町長だ。市町村長としては、全国最多となる9期36年を務め、町民生活の向上に情熱を注いできた。全国町村会では、副会長にまで上りつめた。10選を目指した町長選挙でも、出馬を表明していた。ところが、体調不良を理由に断念。そのわずか2週間後、多くの人に惜しまれて亡くなった。
 突然、大黒柱を失った小さな町。町民は不安に駆られていた。そんな中、東京から15年ぶりに戻り、出馬表明したのが、前町長の長男・多聞氏だった。三つどもえの選挙戦では、他の二人の候補者に大差をつけ圧勝。晴れてふるさと井川町の町長となった。

 県内最年少となる33歳で町長となった多聞氏。少しずつ町長の仕事を覚えていきたいところだが、町には、父も解決することができなかった大きな課題が待ち受ける。それは、診療所の医師確保の問題。町唯一の医療機関である診療所は、長年にわたって町民の健康を守り続けてきた。30年ほど前に、二つあった診療所が統合され、現在では、お年寄りを中心に1日に20人ほどが訪れている。町民の3分の1が高齢者の井川町にとって、診療所はなくてはならない存在だ。就任まもない多聞町長は、医師確保に向けて県内外を奔走する。そんな中、ある知らせが入る。隣町の潟上市の病院から「協力してもいい」との連絡が入った。この病院は、井川町で介護施設を運営していて、町への理解もある。常勤の医師が4人いる。非常勤ではあるものの、多聞氏はわらをもすがる思いで、医師の派遣をお願いしていた。「週4日で、4月中旬以降」という内容で調整が進んでいた。多聞氏も、町の議員を集めた全員協議会を開き、そのことを報告。ところが、この日の夕方、病院側から「医師の派遣は難しい」と連絡が入る。

 医師確保は、全国的な問題となっていて、特に東日本を中心に深刻となっている。秋田県も医師は少なく、全国平均並みとなるには、あと200人の医師が必要な状況だ。また、県内の状況を見てみると、医療機関で働く医師は、約2300人。その半分は秋田市に集中している。井川町のような小さな田舎町に医師はなかなか定住してもらえず、医師の偏りの解消が秋田県全体の課題にもなっている。
 翌日、再び潟上市の病院から連絡が入る。回数は減ってしまうが、「週二日、午前中」という条件で、なんとか医師を派遣してもらえることになった。
 非常勤ではあるものの、診療所の再開は町民にとって待望だった。午前9時の診療開始の1時間も前から町民が続々と集まった。ところが、診療開始時間になっても医師が来ない。診療所の待合室は患者であふれかえる。診療開始時間から遅れること6分後、担当医が到着した。迎えにいくはずのタクシーと行き違いがあった。結局初日は、普段の倍近い40人の患者が訪れたが、なんとか初日を終えることができた。

 36年ぶりに新しい町長を迎えた井川町には、10年ほど前、大きな転機があった。地方都市の市町村合併が進む中、井川町も近隣の自治体との合併の是非で揺れていた。当時の町長だった、父・正寧氏は、町民にアンケートを実施。その結果、「反対」が多数を占め、井川町は単独立町の道を選んだ。町民は、町内を走る無料巡回バスなど町独自の施策ができるのは、「合併しなかったから」と評価する一方、急速に少子化が進む中で合併できなかったことを後悔しているという声もあがる。さらに、世襲批判。多聞町長の父は町長、祖父と曽祖父は、井川町の前身、旧上井河村の村長を務めていた。こうしたあらがえない運命に、多聞町長は「特異な状況」と世襲批判を真摯に受け止める。
「多くの声を聞け」。父が名付けた「多聞」という名前は、4代目の宿命だったのではないか。多聞氏は、若い人たちが率直に意見を言い合える町にしていこうと、近隣の町の若手経営者とも意見を交え、将来の井川町の姿を創造する。
 番組では、取材を通して浮かび上がる町の現状と、古里を見つめ直した若き町長の激動の100日を追う。

取材・構成・ディレクター:高橋朋弘(秋田テレビ報道部)コメント

「斎藤多聞さんに初めてお会いしたのは、町長選への出馬表明の時です。父で前町長の正寧さんの訃報は、秋田県内に大きな衝撃を与えました。市町村長としては全国最多となる9期36年にわたって町長を務め、多くの町民は“この町はどうなるのか”と不安に駆られていました。そんな中、多くの期待を背負って出馬表明し、初当選を果たしたのが、長男・多聞さんでした。小さな町には、人口減少に高齢化、さらに診療所の医師確保の問題もある。世襲批判は、当然受けるだろうと思っていました。ところが、多聞さんは、生前、父から政治への道を反対されていました。なぜ安定した東京生活を離れ、ふるさとへ戻ることを決意したのか。若き町長の奮闘ぶりは、閉塞感漂う秋田に何かヒントを与えてくれるのではないかと感じています」


番組概要

番組タイトル

第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『町を継ぐ』
(制作:秋田テレビ)

放送日時

10月16日(金)27時55分~28時50分

スタッフ

プロデューサー
三宅伸介
取材・構成・ディレクター
高橋朋弘
撮影・編集
菊池誉啓
効果
伊藤直人(秋田ステージ)
CG
佐々木夏子
制作
秋田テレビ
ナレーション
窪田等

2015年9月4日発行「パブペパNo.15-311」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。