2015.9.3

第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『結 yui 広島土砂災害が教えてくれたこと』
(制作:テレビ新広島)

2014年8月20日未明、広島市で局地的に降った大雨は大規模な土砂災害を引き起こし、一瞬にして74人の命を奪った。未曽有の被害をもたらした土砂災害発生直後から、災害を乗り越えて立ち直ろうとする人々の姿に密着。家族を失った人、住む場所を奪われた人。彼らを支えたのは、“人と人とのつながり”だった。

<9月4日(金)27時25分~28時20分>


 2014年8月20日未明。広島市を突如として襲った土砂災害。広島市安佐南区や安佐北区の一部の地域では、2時間に200ミリを超える観測史上例のない豪雨が降った。そして、その雨に耐え切れなくなった山の地盤は一気に崩れ、わずか20キロの範囲で、166件の土石流やがけ崩れを引き起こした。半壊・全壊した家屋は396棟。しかし、被害はそれだけではなかった。74人の命を飲み込んだのだ。かけがえのない人を、住み慣れたまちを、突然奪われた住民たち。絶望の淵に立たされた彼らは、それでも直後から前を向き活動を始めた。住民たちを支えたものとは何か。それを探るために取材を始めた。

 広島市安佐南区緑井にあるお好み焼き屋「うつろ木」。6年前から店を始めた西村智子さん。次男の伸さんと共に切り盛りするこの店にも、土砂は容赦なく襲いかかった。店の再開を諦めていた矢先、被害を知った友人や常連客が駆けつけてくれたのだ。日に日に増える有志のボランティア。いつしか「うつろ木」は、ボランティアの活動拠点となっていた。そんなボランティアの姿が西村さん親子の心を動かした。店の再開に向け親子が歩み始めると同時に、「うつろ木」に集まったボランティアたちは地域の再建のために活動を始めた。ひとに救われ、過酷な現実を乗り越えようと歩み始めた西村さん。彼らを支えたのは、つながりが生み出す大きな力だった。

 被災地のひとつ、広島市安佐南区八木にある八木ヶ丘団地。ここでも、災害で10人が亡くなり、現在は住民の半分が団地を離れて暮らしている。そこで、私たちはひとりの男性に出会った。男性の名前は青山茂夫さん。青山さんの自宅も土石流に飲み込まれ、全壊の被害に遭った。妻と共に仮住まい生活を始めた青山さんだが、二人の子どもを育て、多くの友人もできた八木ヶ丘団地へ戻りたい気持ちは強い。しかし、どうにもならない現実が立ちふさがる。自宅を取り壊した後も、頻繁に自宅跡に足を運ぶ青山さん。しかし、妻の和子さんは、一歩も車から降りてくることはなかった。災害が和子さんの心に残した傷。それは、日を追うごとに大きくなっていった。そのことに気づいた青山さんは、苦渋の決断を下す。

 青山さんと軒を並べて暮らしていた大迫麗子さん。大迫さんの自宅も全壊し、八木ヶ丘から離れて暮らすひとりだ。22年前に、病気で夫を亡くして以来、女手ひとつで息子二人を育てあげた。被災直後は、近くに住む息子家族のもとに身を寄せていたが、今は家賃4万円のアパートでひとり暮らしをしている。そんな大迫さんの心の支えとなっているのは、八木ヶ丘で隣に住んでいた小田原利夫さん夫婦との時間だ。小田原さんもまた、八木ヶ丘を離れ、仮住まい生活を送っていた。先の見えない不安は、同じ体験をした者同士だからこそ分かり合えるものだった。災害で奪われた地域の縁を、被災者たちは何とかつなぎとめようとしていた…。

 あの日の豪雨によって引き裂かれた、八木ヶ丘の住民たちのコミュニティ。八木ヶ丘に残った住民たちも雨が降るとおびえる日々が続いていた。そんななか、奪われたつながりを取り戻そうと動き出した住民たちがいた。中心となるのが、町内会の奥迫信治会長と防災担当の山根健治さんだ。これまで防災の意識を持っていなかった彼らが、災害に強いまちを作るために、避難を呼びかける防災サイレンや土砂災害を想定したハザードマップ作りに乗り出した。彼らの活動に触発され、住民たちの意識も大きく変わっていった。

 想像もしていなかったあの日の惨劇で、誰もが途方に暮れていたとき、手を差し伸べてくれたのは、家族や友人、そして見知らぬ誰かだった。災害を乗り越えようとする彼らを支えたのは、地域やひとの結びつき、いわば“近助”の力だった。その力はいま、被災地を、災害に強いまちに新たに生まれ変わらせようとしている。

ディレクター:伊丹里歩(テレビ新広島報道部)コメント

「2014年8月20日の午前5時過ぎ、私はデスクからの1本の電話で目が覚めました。いたるところで土砂が崩れているから早く出社してほしいという内容でした。カメラマンと二人でまず向かったのは、広島市安佐南区八木地区。道路には大量の土砂が流れ、1歩進むにも大変な労力が必要だったことは、今でも鮮明に覚えています。甚大な被害をもたらしたこの災害を少しでも多くのひとに伝えていきたいという思いから、その後もこの地区での取材を継続しました。すると、『自分の住んでいる地域が土砂災害の起きる場所とは思っていなかった』と多くの被災者から聞きました。それでも災害を乗り越えようと前向きに活動を始めたひとたち。彼らを支えていたのは、地域やひとの結びつきでした。ひとは一人では生きていくことはできない。当たり前のようなことではありますが、土砂災害はその大切さをあらためて私自身にも教えてくれました」


番組概要

番組タイトル

第24回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『結 yui 広島土砂災害が教えてくれたこと』
(制作:テレビ新広島)

放送日時

9月4日(金)27時25分~28時20分

スタッフ

プロデューサー
矢野寛樹
ディレクター
伊丹里歩
構成
上海五郎
撮影
山本龍(TSSプロダクション)
渡辺椋介(TSSプロダクション)
編集
中渡瀬太一(TSSプロダクション)
制作
テレビ新広島
ナレーション
中嶋朋子

2015年9月2日発行「パブペパNo.15-304」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。