2014.9.30

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『今そこにある命
~岡山から移植医療を拓く~』

(制作:岡山放送)

岡山大学病院の肺移植チームは国内最多の移植手術を実施し、手術後の5年生存率も世界平均を大きく上回る。余命数カ月…移植に最後の望みをかけやってくる患者たち。しかしその多くが、臓器の提供を待っている間に命を落としているのが日本の実情だ。欧米諸国では移植医療が一般の治療として定着しているのに、日本はなぜ世界から後れをとっているのか。目の前の患者を救うため、日本の移植医療を変えようと奮闘する医師の姿を追った。

<10月15日(水)26時25分~27時20分>


 今の日本で「移植医療」と聞いて当たり前の治療法だと思う人はほとんどいないだろう。しかし人口当たりの臓器提供の数が日本の数十倍もある欧米諸国では移植医療はすでに一般的な治療法の一つになっている。

 臓器移植法が改正されてから4年。日本の移植医療はどれほど前進しただろうか。今の日本では移植を受けられる患者よりも、移植を待っている間に亡くなる患者の方が多いのが実情だ。生活レベルでは先進国の日本で、移植医療においてはなぜ世界から大きく後れをとっているのか。

「肺移植の患者は目の前で溺れているのと同じ状態。時間の猶予もない、ただ見過ごすことはできない」、取材した岡山大学病院の大藤剛宏准教授の言葉だ。国内最多の移植件数を誇る岡山大学病院の肺移植チーム。そのチームを率いる大藤さんのもとには全国から患者が集まっている。しかし今の日本ではすべての患者を助けることができない。その原因は臓器提供の少なさと、現場任せの医療システムにある。

 7時間にも及ぶ肺移植手術。その最中に別の臓器提供の知らせが入る。移植を待つ患者にとっては千載一遇のチャンス。
大藤さんは休む間もなく、再び難しい手術に挑む。

 大藤さんが行うのは手術だけではない。患者の術後のフォローアップのため全国の病院にも足を運んで往診をしている。移植医療が定着していない日本では移植医療に抵抗を感じている医師も少なくない。大藤さんは各地の病院で、そんな医師の不安を和らげ、移植した患者のフォローアップへの協力も呼びかける。治療で実績を上げれば上げるほど、増えていく医師への負担。大藤さんは「移植チームが擦り切れながら行う今の日本の移植医療のシステムは“未熟”だ」と指摘する。

 日本と先進国の移植医療は何が違うのか。我々は人口当たりの臓器提供の数が日本の20倍というオーストラリアに取材に向かった。そこでは移植専門の医師、看護師が充実しているだけでなく、それぞれの役割分担が確立されていて多くの手術を効率的にこなしている。また、移植専門の政府機関を作り、国をあげて啓発活動などを行っている。移植医療への高い理解を示す国民。州政府の移植専門機関の所長は「こうした活動を続け、移植環境をよりよくしていくには政府のサポートや援助が必要」と話す。

 一方、岡山で移植医療に関心があるか聞いたところ、「考えたことがない」と答え、意思表示を示さない人がほとんどだった。取材を通して見えてきたのは常に生と死の間にいる現場と国や国民の意識との温度差だった。

 大藤さんのもとには次々と難しい症例が入る。患者は3歳の男の子。体格が小さい子供は親から提供される肺が大きすぎるため、これまで生体移植手術を行うことができなかった。大藤さんは肺の一部で中葉と呼ばれる部分を使った世界でも成功例がない手術で男の子の命を救う。

 そんな中、別の患者のもとに待望の臓器提供の知らせが届く。しかし、その肺は移植できるほど状態の良いものではなった。患者は余命数カ月。次の臓器提供があるまで命がもつかわからない。ただでさえ提供される臓器が少ないうえに、状態が悪いため移植を断念せざるをえないケースも少なくないのが実情だ。「尊い意思で提供された“宝の肺”を無駄にしたくない」と話す大藤さん。数少ない臓器を最大限生かすにはどうしたらいいのか、考え出したのは肺の機能を体外で回復させるという驚きの装置の導入だった。国内では初めての試み、そしてこの装置を使った手術に踏み切った大藤さんの決断が、また一人の命を救った。

 移植医療は医師の技術だけで患者を救えるものではない。そして私たちにとっても、決して他人事の医療ではない。低い国民の関心、少ない臓器提供、現場任せのシステム体制…日本の移植医療を変えようと奮闘する医師の姿を追い、移植医療の在り方を考える。

ディレクター・大黒友香(岡山放送報道部)コメント

「『ぎりぎりの状態』『待ったなし』『最後のチャンス』これは取材を通して大藤さんの口から何度も聞いた言葉です。日本の移植医療も少しずつ進んでいるのかもしれません。しかし“いま”目の前にいる患者は救えない、方法があるのに救えない…そんな言葉を聞いてこの現状を伝えたいと思いました。“移植医療”というと市民から聞こえてくるのは『難しい』『わからない』『考えたことない』という言葉ばかりで、現場との温度差があまりにも大きいことに驚きました。“移植医療”は様々な立場があり、もちろん反対意見もあると思います。ただ決して遠い存在の医療ではないのです。明日自分の家族が脳死状態になるかもしれない、移植が必要になるかもしれない。私たち一人ひとりが向き合わなければ決して進まない医療なのです。『わからない』と目を背けるのではなく、この番組を通して一人でも多くの人が“移植医療”に向き合い、考えていただけたらと思います」


番組概要

◆番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『今そこにある命
~岡山から移植医療を拓く~』
(制作:岡山放送)

放送日時

10月15日(水)26時25分~27時20分

スタッフ

プロデューサー
塚下一男
ディレクター
大黒友香
構成
関盛秀
ナレーター
竹下美保
撮影・編集
平井大典

2014年9月30日発行「パブペパNo.14-402」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。