2014.8.20

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『小さな新聞社 社長は11才』
(制作:新潟総合テレビ)

新潟県十日町市に一人の少年がインターネット上に記事を更新する新聞社がある。それが別府新聞社だ。社長で記者兼カメラマンを務める別府倫太郎君(11)は全身性の円形脱毛症と小児ネフローゼ症候群という2つの病気を抱え、さらにいじめをきっかけに学校に通っていない。そんな倫太郎君が書く記事は不思議な魅力にあふれ、読者が増えている。取材として様々な人に会い、話を聞く少年が新聞作りを通して学んでいること、そして表現したいこととは。

<9月3日(水)26時10分~27時05分>


 私たちが別府倫太郎君(11)と出会ったのは、新潟県十日町市の市立図書館で開かれていたある写真展。それは「見た目問題写真展」というものだった。トリーチャーコリンズ症候群の男性やサリドマイド被害者の女性など、見た目に症状を抱える人たちを被写体にした写真を集めた展示会だ。その中に新潟県内で唯一のモデルとして写っていたのが倫太郎君だった。倫太郎君が見た目に症状を抱える病気は全身性の円形脱毛症。一切体毛がない倫太郎君だが、写真に写っていたのは満面の笑み。この子はどんな少年なのだろうと知りたくなったのが取材を始めたきっかけである。

 倫太郎君と会い、話が弾んでいると彼はおもむろにポケットから名刺入れをとり出す。そこで名刺交換をして倫太郎君の肩書が「別府新聞社・社長」となっていたことに気付き、初めて彼が新聞を書いていることを知った。
 新聞は紙ではなくインターネット上に書いている。パッと目を引く「別府新聞」のロゴと独特の視点で撮られた写真。また記事には自分の病気のことなどが書いてある。倫太郎君は全身性の円形脱毛症の他に小児ネフローゼ症候群という腎臓の病気を抱えている。どちらの病気も治療ですぐに治る病気ではなく、長く付き合っていかなければならないものだ。しかし記事に書いてある彼の病気に対する考え方はとても興味深い。「病気は自分自身」で「見た目は僕の一部」だから、さらには「未来の人間は髪の毛がないのではないか、僕は時代を先取りしているのかもしれない」とまで書いている。11才にしてこのように自らの病気を捉えることができるようになるまでには、多くの苦悩があった。

 その一つが不登校。きっかけは見た目に対するいじめだった。いじめを受けた倫太郎君に対し学校の先生は「いじめに負けないくらい強くなりなさい」と言った。そう言われた倫太郎君は「学校から逃げた」という。母・マサ子さんは当時をこう振り返る。「病気さえ治ればいじめもなくなると思い、とにかく治療を頑張らせた時期があった。しかしそれは倫太郎そのものを認めてあげていないということとして倫太郎に伝わっていたことがわかった。かわいそうなことをしてしまった」それからは病気である倫太郎も、不登校である倫太郎も「そのままでいい、強くなくてもいい」と考えるようになったという。その話をする倫太郎君とマサ子さんの表情からは、ただ単に明るく活動しているというだけではなく、そこに至るまでに苦悩を乗り越えてきたことがわかった。
 倫太郎君は別府新聞に新しいコーナーを作った。そのコーナーが「かっこいい人たち」。見た目ではなく生き様がかっこいいと思う人にインタビューをしていくコーナーである。記事にはインタビューの内容が紹介されている他、倫太郎君が何を感じたかを書く「別府倫太郎の締めくくり」がある。様々な疑問を人にぶつける倫太郎君は「別府新聞は寺子屋かもしれない」とこぼす。

 病気の状況は人それぞれ、不登校の理由も様々である。当然周囲からは将来を心配する声もある。しかしながら番組では倫太郎君が別府新聞を製作しながら学んでいる様子を通して、「病気であることが悪いことで、学校に行っていないことが悪いこと」と頭ごなしに決めつけることはできないのではないかということを考えるきっかけになればと思う。
 かっこいい人たちの取材を続ける倫太郎君に、ある時「将来はどんな人になりたいか?」と聞くと倫太郎君は恥ずかしそうに「かっこいい人になりたいけど…なれるかわからない」と答える。社会という大きな寺子屋で学ぶ倫太郎君が、どのように成長していくのか、今後の別府新聞に注目していただきたい。

ディレクター・杉本一機(新潟総合テレビ報道部)コメント

「“学校に行けないんじゃない、行かないんです”そう話す倫太郎君を取材することに、最初は戸惑いがありました。義務教育は受けなければならないという考えが一般的だと思ったため、番組を放送することで倫太郎君への批判が出てしまうのではないかと思ったからです。しかし親子の話を聞いていると、不登校の事や病気の事で想像以上に苦しみ、これまで批判を受けながら悩み抜いてきたことがわかりました。その上で出した答えが“病気も不登校も今の僕、良い悪いではなくありのまま”ということでした。ならば余計な考えは捨て、そのありのままを撮ろうと決めて、あらためて彼の新聞記事を読んでみると、何とも深く、一方で子どもらしさも垣間見え面白いのです。取材は学びの場でもあると一記者の私も教えられました。“今後学校に行くか”との質問に倫太郎君は“わからない”と答えましたが、どちらにせよありのまま貪欲に学ぼうとする彼がどう成長していくか楽しみです」


番組概要

番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『小さな新聞社 社長は11才』
(制作:新潟総合テレビ)

放送日時

9月3日(水)26時10分~27時05分

スタッフ

プロデューサー
酒井昌彦
ディレクター
杉本一機(新潟総合テレビ)
構成
石井彰
ナレーター
横内美紗
撮影・編集
中島茂雄
CG
戸川裕佳子
MA
佐藤誠二

2014年8月20日発行「パブペパNo.14-336」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。