2014.8.19

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『高橋さんと山田さん
~故郷の白秋に生きる~』

(制作:福井テレビ)

福井県奥越地方は昔から信仰の厚い地区として知られてきた。しかし、最近は無縁の墓石が増え無住職の寺も出てきている。背景には多くの地方が抱える止まらない人口流出という問題が横たわっていた。定年後、年老いた母の面倒を見るために故郷にUターンしてきた元企業戦士。彼の目下の悩みは、先祖代々の「お墓」をどうするかだった。一方、地元で校長まで勤め上げた元教師は、「無住」の寺をレストランとして再興しようと動き始めていた。2人の生きざまを通して、地方の墓や寺の在り方と避けて通れない人生の終え方を考える。

<9月5日(金)27時15分~28時10分>


 ここ数年、墓参りに行くたびに誰も参っていないと思われる墓=「無縁仏」を目にするようになり、気になって寺や墓地を回ってみると、崩れ落ちたさみしい墓が至る所にあった。さらに住職が常駐していない「無住」の寺も増えていると聞き、ショックを受けた。ここ福井県奥越地方は昔から信仰の厚い地区と言われてきたからだ。いま、この地区に何が起きているのか?取材を進めると、止まらない人口流出はじめ多くの地方が抱える深刻な問題が横たわっていることが分かった。「荒れた墓」が映し出すのは、若者の都会への人口流出で高齢者ばかりになろうとしているこの国の地方の姿だ。福井県では高校卒業後、県外に進学した人のうちUターンするのは「4人に1人」というデータがある。人口減少に歯止めがかからない地方の厳しい現状だ。学力、体力ともにトップクラスだといわれる福井の子どもたちだが、優秀な人材を都会に輩出するだけの状況が続いている。

 かつては、3世代揃って毎朝仏壇に手を合わせ、盆や彼岸には家族で墓参り…という光景が当たり前だった。しかし、いつの頃からか毎朝仏壇に手を合わせる人は減り、墓だけ置いて一家そろって都会に引っ越す世帯も相次いだ。高度経済成長時代に都会で身を立てた「団塊世代」に「墓問題」は重くのしかかる。
「墓問題」を考えることは単に墓だけにとどまらず、家族のあり方や自身の人生の終え方について考えるよう突きつけられる。自分とは全く別の人生を歩む子どもたちに何を伝えるのか。年老いた親をどのようにみとっていくのか。厳しい競争社会を生き抜いてきた団塊世代の人たちは、駆け抜けてきた人生を振り返る時期を迎えている。

 600年の歴史を誇る大野市の最勝寺。親鸞聖人の命日に合わせて行われる報恩講で、高橋俊彦さん(66)に出会った。奥越の一つ大野市の出身である高橋さんは、定年後40年ぶりに故郷大野市にUターンし、門徒として寺の行事に参加し始めていた。高橋さんは大学を卒業後、大阪の上場企業入社。世はまさに高度経済成長時代。故郷に錦を飾ろうと懸命に働き、執行役員にまで上り詰めた。3人の息子が社会人として独り立ちしたこともあり、関西の家を子どもたちに託し、一人暮らしの89歳の母親の面倒をみるため、大野に帰って来た。岐阜県出身の妻の理解もあり、団塊世代の高齢核家族として日々を過ごし始めた。高橋さんの悩みの一つは、先祖代々の「お墓」の扱いだった。息子たちに相談しようと考えるうちに高橋さんは、自身の人生の終わりに向け「終活」に取り組むことになる。

 勝山市の中心部には勝山藩主の菩提寺・開善寺がある。住職が亡くなってから「無住の寺」は傷みが目立ち、墓地も荒れ果てていた。盆に寺を訪れると墓地で黙々と草むしりをする男性がいた。元小学校校長の山田勝一郎さん(64)だ。わずか3軒にまで減った檀家の代表、檀家総代だ。山田さんは、週末ごとに寺を訪れ、墓地の草刈りや掃除などに汗を流していた。山田さんは、住職のいない寺をレストランとして再興すれば、かつての地域の集まり場としてのにぎわいを戻すことができるのでは、と考えていた。足を運ぶお年寄りの健康状態に合わせた料理を出したいと、管理栄養士になるため大学進学を目指していた。

 大企業で馬車馬のように働いた高橋さんの動から静への変化。一方、教員として束縛の多かった現役時代から解放され静から動へ変化した山田さん。対照的に見える二人は、定年後の生き方で人生のバランスを取ろうとしているようにも見える。これからの地方は、故郷に暮らす団塊世代の肩にかかっているといっても過言ではない。定年後の生き方に向き合う高橋さんと山田さんの姿から残された長い人生をいかにして実りあるものにしていくのか、見ている人にも考えてもらいたい。

ディレクター・澤田美紀(福井テレビ報道局報道部)コメント

「墓参りに行く度、無縁仏が増えていることに気づき取材を始めました。“先祖を敬う”という日本人として当たり前の気持ちが失われているような気がして心を痛めていましたが、地方から都会へ人口流出が続いた結果だったことにある意味、少しの安堵(あんど)感と新たな危機感を抱きました。"東京では墓地が不足している"というニュースと、目の前に広がる荒れ果てた墓地とのギャップに複雑な感情を覚えています。取材で寺に通ううちに出会ったのが、団塊世代の高橋さんと山田さんでした。ちょうど自分の親と同じ年代の2人。勤務先にほとんどの時間と情熱を費やしてきた2人が墓のことを考えることを通して、自身の人生の終え方を考えざるを得ない様子には、私にとっても人ごとではありませんでした。戦後の経済発展で平均寿命が10歳以上延び、定年後も、まだ長い時間が残る時代となってきました。60代にいる団塊世代の行動いかんによっては、一連の問題も変わる可能性もあります。できれば、自身が生まれ育った地方に回帰する流れができれば、叫ばれている地方の疲弊も少々癒えるのではないか。地元福井での放送が終わった今、かすかな希望も感じています」


番組概要

◆番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『高橋さんと山田さん
~故郷の白秋に生きる~』
(制作:福井テレビ)

◆放送日時

9月5日(金)深夜27時15分~28時10分

◆スタッフ

ディレクター
澤田美紀(福井テレビ)
構成
岩井田洋光
ナレーション
鶴田真由
撮影・編集
西村大輔
プロデューサー
横山康浩(福井テレビ)
松枝隆一(福井テレビ)

2014年8月19日発行「パブペパNo.14-329」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。