2014.8.1

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ここに花は咲いて
~若年性認知症 介護と支援の狭間で~』

(制作:さくらんぼテレビ)

米沢市に住む佐藤洋一さん55歳。40代後半から物忘れなどの異変が出始め、2年前に若年性アルツハイマーと診断される。これまでと違う自分に戸惑い、仕事もできなくなった洋一さんは「自分は死んだ。人生を諦めた」とその頃を振り返る。しかし、医療、介護、自立支援、様々な人との出会いから、彼の人生は前に動き出す。番組では洋一さんの生活や周囲で支える人たちとのやり取りを取材。記憶の限り、“人として”生きたいと願う、洋一さんの思いに迫った。

<8月6日(水)26時25分~27時20分>


 平成25年度は厚生労働省の認知症対策「オレンジプラン」の初年度。高齢化率が高い山形県でも認知症ケアに関するさまざまな取り組みが行われる中、介護関係者のある言葉が引っ掛かった。「高齢者も大変だけど若年性にはまた違った問題があって大変なんだよね」。65歳未満で発症する若年性認知症。働き盛りで発症するため心理的、経済的影響が大きい。「仕事を失って生きがいはあるのか?」「何を思いながら生活しているのか?」。そんな疑問から取材が始まった。

 米沢市に住む55歳の佐藤洋一さんは2年前に若年性アルツハイマーと診断される。40代後半に物忘れが出始め、職場でも同僚たちに指摘されるようになる。日に日に症状が悪化。「自分が自分でないような…」「できないことをバカにされる」。仕事も失い生きがいを無くした洋一さん。「自分は死んだ。人生を諦めた」とその当時の記憶は色濃く残っていた。

 カメラを向け始めた去年11月、洋一さんは“仕事”をしていた。受け入れたのは、高畠町の自立支援センター「竹とんぼ」。知的障害者や身体障害者の自立を助ける就労継続支援事業所だ。洋一さんの仕事は高齢者施設で使うタオルを畳むこと。わずかではあるが賃金も発生する。「毎日が楽しい。どんな小さなプライドでも頂けることに喜びを感じる」と洋一さん。一度人生を諦めた男性がそう感じるに至った裏には、支援スタッフたちの努力があったのだ。

 自立支援センター「竹とんぼ」に来る前の約1年間、米沢病院で入院生活を送っていた洋一さん。主治医と当時のケアマネージャーには共通の認識があった。「身体的には悪くない洋一さんに高齢者向けの介護サービスが合わない」「月曜日から金曜日まで仕事をして土日は休息する。そんな当たり前の生活を送ってほしい」。同居していた高齢の母親への影響を考え、洋一さんの住まいとなる施設探しが始まったのだが、“当たり前の生活を送る”ことと“施設に入って介護を受ける”ことは今の福祉体制では同時に成り立たない。介護保険制度のもと認知症患者の主な受け入れ先としては、特別養護老人ホーム、老人保健施設、グループホームがあるが、こういった完全介護の施設に入ると外部の事業所を利用することはできない。そこでケアマネージャーが探したのが住宅型の有料老人ホーム。上に挙げた施設と違って、外部の事業所の利用が認められているからだ。しかし、一層進む高齢化の中、有料老人ホームには「空き」がないのが現状なのだが、幸運にも入院10カ月後に「空き」が出たとの知らせが入った。

 洋一さんの住まいは米沢市の有料老人ホーム「楽らく荘」。休日に部屋に行ってみると、洋一さんはベッドの上にいた。自分以外は75歳以上の高齢者ばかり、話が合う相手などいない。「竹とんぼ」に通うためには有料老人ホームで過ごさなければならばいと分かっていても、まだ若い洋一さんが容易に高齢者となじめるはずはなかった。入所当時は、自分勝手な言動でヘルパーや他の利用者を困らせたことも。ヘルパーたちも初めて接する若年性認知症の人に戸惑ったと言うが、プライドを傷つけない言動を繰り返し、洋一さんは落ち着きと笑顔を取り戻す。

 洋一さんの中の「こんなはずじゃない。自分はまだできる」という焦りといらだちをどう和らげていけばいいのか、医療、介護、自立支援、それぞれの現場が、洋一さんの思いをくんだ配慮を積み重ねている。

 取材を始めて5カ月、進行が速いという若年性アルツハイマーが洋一さんを変化させ始める。このまま症状が進んで、徘徊(はいかい)や暴力などの症状が出始めた時、ケアマネージャーは特別養護老人ホームなどに住まいを変えることも考えている。しかし、そうなると「竹とんぼ」のような外部の事業所には通えなくなる。洋一さんに働きたいという意欲が残っていたら、その思いはどうなってしまうのか。洋一さんの笑顔はどこに行ってしまうのか。

ディレクター・白田貴彦(さくらんぼテレビ 報道制作部)コメント

「去年11月に初めて会ったときから、洋一さんは、私が投げかける質問、時には、辛かった経験についても、残っている記憶をたどり、知識をつなぎ合わせ、丁寧に答えてくれました。それだけ洋一さん自身にも訴えたいことがあったのだと思います。取材に行くたびに“来ていただけると本当にうれしいです”と言っていた洋一さん。私たちの取材からも社会とのつながりを実感していたのでしょうか。取材を終えて日がたちましたが、もしかすると、自分が取材を受けていたことを忘れてしまっているかもしれません。だからこそ洋一さんがカメラの前で見せてくれた表情や言葉の一つ一つを通して、若年性認知症について考えてもらい、少しでも社会の理解につながってほしいと思います。そうなれば洋一さんの思いは消えないのですから。最後に、厚生労働省は平成25年度からアルツハイマーの根本治療薬の開発研究に乗り出しました。一日も早く、アルツハイマーが治る病気になってほしいと強く願っています」


番組概要

◆番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ここに花は咲いて
~若年性認知症 介護と支援の狭間で~』
(制作:さくらんぼテレビ)

放送日時

8月6日(水) 26時25分~27時20分

スタッフ

撮影
大友信之
編集
長南亜希子
プロデューサー
峯田昌洋
ディレクター
白田貴彦
構成
高橋修
ナレーター
小山茉美

2014年7月31日発行「パブペパNo.14-312」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。