2014.6.30

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『走る!蹴る!笑う!
~アンプティサッカー・アフィーレ広島の1年~』

(制作:テレビ新広島)

事故や病気などで手や足を失った選手が、杖を使ってプレーする新しい障害者スポーツ、『アンプティサッカー』の中四国地方初となるクラブチームが広島に誕生した。青空の下、明るくプレーする選手たち。しかし、彼らの笑顔の裏には“切断”という障害を抱え生きる“苦悩”と“葛藤”があった。チーム設立から1年の歩みの中で垣間見た、選手たちの心の“成長”。障害を乗り越え、踏み出したそれぞれの「人生の一歩」に密着した。

<7月9日(水)27時~27時55分>


「カツンッ!カツンッ!」と激しくぶつかり合う金属製の杖、目の覚めるような弾丸シュート。そして、青空に響き渡る選手たちの笑い声。初めて「アンプティサッカー」を目にした人は、きっと“衝撃”を受けるはずだ。杖と片足で魅せる豪快で華麗なプレー。純粋なスポーツとしての魅力もさることながら、選手たちの底抜けな明るさに心を奪われる。この競技をプレーしているのは、事故や病気などで手や足を失った切断者(=アンプティ)。“体の一部を失う”という壮絶な体験をした彼らが「一体どのようにして障害を克服し、ここまで明るくなることができたのか?」、その笑顔の秘密を探りたいという思いから取材は始まった。

 海外では2年に1度ワールドカップも開かれ、一部の国ではプロリーグも存在するほどの人気スポーツとなっている「アンプティサッカー」だが、日本で始まったのはわずか4年前、競技人口もまだ50人程度と言われている発展途上の障害者スポーツだ。そんな「アンプティサッカー」の全国で6番目、中四国地方では初となるクラブチームが2013年5月、新たに広島に誕生した。そこに集まってきたのは、ひとりひとりが深い“悩み”や“苦しみ”を抱えた選手たちばかりだった…。

 8年前、仕事中の事故で、右腕を失った黒田清隆(くろだ・きよたか)さん(48)は、誰よりも「アンプティサッカー」を心待ちにしていた男性の1人だ。彼を苦しめ続けていたのは「腕がない自分」に対する、周囲の好奇の目。「見られたくない」、「見せたくない」という思いは長年、彼を家の中へと縛り付けていた。そんな彼にとって、義手を外して自分を隠さず、堂々とプレーする「アンプティサッカー」は憧れのスポーツであり、夢の場所だった。初めは戸惑いを隠せなかった黒田さんも練習を重ねるごとに、チームにも打ち解けていく。失われていた“自信”と“勇気”を徐々に取り戻していった彼はある日、思いがけない行動に出る…。

 チームのムードメーカーと呼ばれるほど、練習では明るい表情を見せる奈良原嘉(ならはら・よしみ)さん(36)は、チームでは唯一“切断者”ではない。交通事故で右足に重い“マヒ”の障害を抱えている彼を、ずっと悩ませているのは「うつ病」という心の病だった。「普通の生活がしたい…」と自宅でふさぎこむ毎日。いつしか、そばで支え続ける妻ともすれ違っていた。そんな閉塞した状況を打破しようと一縷の望みを抱いて参加したのが「アンプティサッカー」だった。避け続けてきた「他人や社会とのつながり」。チームや仲間の存在に、彼も次第に“生きる意味”や“生きがい”を見出していこうとする…。

 母親の背中に隠れながらチームにやってきたのは鈴木大岳(すずき・だいがく)くん(11)。数万人に1人という先天性の病気で生まれつき右足がない彼は、障害のせいか自分の意見や感情をあまり表に出さない少年だった。引っ込み思案で、何を話しかけても無反応…。そんな彼の姿に、昨日まで自分のことで精一杯だったチームの仲間たちが「そのままじゃいけん(ダメだ)!」と立ち上がる。スポーツを通して「自分に自信を持ってほしい」という両親の思いと、仲間たちの熱い“おせっかい”が交錯し、やがて大岳くんは、ほんのちょっとだけ自分の殻を破る。それは彼が大人になるための小さな「人生の第一歩」だった…。

 この作品は、広島に新しく出来た障害者サッカーチームの1年の歩みであり、そこに集まる人たちが、それぞれ直面している自分の“問題”に真正面から向き合った1年の記録でもある。もちろん、ひとりひとり事情は違う。大きな一歩を踏み出せた人もいれば、いまだに一歩を踏み出せずに悩んでいる人もいる。しかし、彼らに共通していることは、みんな「前を向いて生きている」ということだ。そんな彼らの姿は、「大切なものは決して失ったものではない!」ということを、私たちに教えてくれている。

ディレクター・菱野将史(テレビ新広島 報道制作センター)コメント

「取材で初めて訪れた練習会でのこと。あるひとりの選手から切断した足とロボットのような義足を見せられ、“この足、カッコいいでしょ?”と突然、話しかけられました。切断者と接するのは初めてで身構えてしまっていた当時の私は、いきなりの出来事に困惑。思えば、この“困惑する私”こそが、健常者と障害者の間にあった“垣根”そのものでした。それから1年。今では“菱野さん。足切ってうちのチームに入りません?”“じゃ、今度、左足切って来ますね!”などと、お互いちょっとブラックな冗談を飛ばしあいながら一緒にボールを蹴っています。必ずしもすべての人が、彼らのようになれるとは限りません。でも、障害者も健常者も関係なく友達になれるスポーツがあり、それを待っている人たちがいることを、ぜひ知っておいてもらいたいです」


番組概要

◆番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『走る!蹴る!笑う!
~アンプティサッカー・アフィーレ広島の1年~』
(制作:テレビ新広島)

◆放送日時

7月9日(水)27時~27時55分

◆スタッフ

プロデューサー
大藤潔
ディレクター
菱野将史
構成
岩井田洋光
ナレーター
渡部豪太
撮影・編集
中田充

2014年6月30日発行「パブペパNo.14-246」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。