2014.5.30

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『終の現実』
(制作:テレビ西日本)

誰からもみとられることなく、一人で死亡しているのが見つかる“孤独死”。その実態については不明な部分が多く、国による明確な定義すらない。管理会社などの依頼で部屋を片付ける特殊清掃の会社を経営する男性は、そんな“孤独死”の現場を何度も見てきた。やりきれない思いが沸き上がる。なぜそのような死を迎えなければならなかったのか-。
孤独死した人の関係者への取材などを通じ、“死”を取り巻く現実と背景を探る。

<6月11日(水)26時20分~27時15分>


 「亡くなったことを知らなかった」。ある高齢者の女性の死について、30年来の知り合いという女性はこう話した。80歳で人生を終えた女性。その最期は6畳1間の部屋の中で、発見したのは点検に来たガス会社の従業員だったという。誰からもみとられない“孤独死”だった。小川チエ子さん(仮名)の人生を少しだけたどってみた。かつて、小川さんは九州一の歓楽街・中洲でスナックのママをしていた。その後は中洲のおでん屋などで働いていたが、数年前に辞めてからは店の経営者も変わり、現在の店の従業員はその後の小川さんと連絡を取り合うこともなかった。冒頭の小川さんと30年来の知り合いという女性は、小川さんがスナックのママをしていたころからのつきあいで、よく2人で旅行などにも出かけたそうだ。この女性は「一人暮らしの小川さんに“一緒に暮らそう”と何度も誘ったが、その度に断られていた」と話した。

 福岡県篠栗町で特殊清掃の会社を経営する宮田昌次さんは、こうした“孤独死”の現場を2000件近く見てきた。特殊清掃とは、部屋のオーナーや管理会社からの依頼によって、死亡した人の部屋を片付ける仕事だ。孤独死の場合、親族などの関係者と連絡がつかないことも多く、会社の倉庫には引き取り手のない洋服や家財道具といった“遺品”が山積みになっている。原則、1カ月で処分することになっているが、およそ半数は引き取られないまま処分されているという。

 福岡市近郊に住んでいた、ある中高年の男性が亡くなった。部屋にはアルコール飲料の空き缶や空き瓶などが散乱していたが、それ以上に印象的だったのは、我が子と思われる子供の写真や、おもちゃが大量に残されていたことだ。関係者を捜すと、死に別れた妻との間の子供である息子が愛知県にいることがわかった。宮田さんは、男性の遺品を届けることを決める。しかし、その息子は亡くなった男性の実の子であることを数年前まで知らなかった。

 実は、宮田さんはかつて人生を悲観し、自殺を図ったことがあった。自宅の部屋で倒れているのを発見し、病院に運んだのは妻、そして娘だった。厳しい現実から逃れようとしていた宮田さんが、再び生きることへの希望を持つことができたのは、家族の存在に他ならなかったと話す。そして、その思いがあるからこそ、孤独死というものに立ち向かう-。
 宮田さんは、一人暮らしの高齢者などの孤独死を1件でも減らしたいとNPO法人「孤立防止センター」を立ち上げ、福岡市からの委託を受けた取り組みを始めた。24時間態勢で電話を受け付け、突然連絡がつかなくなった人などの自宅に急行し、安否確認をするというものだ。ある日、宮田さんは福岡市内のマンションに向かった。一人暮らしの高齢者と連絡がつかないという連絡があったからだ。マンションの郵便受けにはチラシなどが大量にたまっていて、長期間取り出された形跡がない。さらに、携帯電話を鳴らしてみると、部屋の中から呼出音が聞こえている。部屋の中で倒れているのか-。
 この取り組みの専門ダイヤルには2014年4月末までに78件の通報が寄せられ、自宅で衰弱したり体調を崩したりしていた男女7人の救出につながったという。

 最期の時を迎える準備として、一人暮らしの生活から卒業しようとする人もいる。宮田さんは“生前整理”と称して、大量の私物を仕分ける作業の手伝いもしていた。住み慣れた家から高齢者向けの賃貸マンションへ引っ越すことを決めた男性。最愛の妻はすでにこの世になく、自身も体調を崩して入院するなど、一人暮らしは難しいと判断したのだ。宮田さんは家にあった大量の荷物を一旦倉庫に預かり、本人の取捨選択によって必要なものは施設に運び、不要なものは処分していった。宮田さんの手伝いによって、新たな生活の一歩を踏み出した男性。その思いはどのようなものなのか-。

永松裕二郎 (テレビ西日本報道局報道部) コメント

「去年の春、福岡市で高齢者などの安否確認を専門とするNPO法人が立ち上がることを知り、ニュースの企画用として取材を始めたのがきっかけでした。当初は孤独死の現場を通じて、つながりを持てない社会の実態を描くといったイメージで取材に臨んでいました。しかし、実際に宮田さんの活動に密着してみると、孤独死する人の中には、その現実を受け入れた上で亡くなっていく人も少なくないのではと感じました。人生の最期をどのような形で迎えるかは一言では語れないことですが、それでも、取材を重ねるたびに、私は死ぬときは家族や友人に囲まれ、悲しまれて死んでいきたいという思いが強くなっていきました。この番組が自分の最期そして他人の最期との向き合い方について改めて考えるきっかけになればという思いを込めて制作させていただきました」


番組概要

◆番組タイトル

第23回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『終の現実』
(制作:テレビ西日本)

◆放送日時

6月11日(水)26時20分~27時15分

◆スタッフ

ナレーション
山根基世
取材・構成
永松裕二郎
撮影・編集
入江真樹
オンライン編集
利光秀樹
MA
新甫宙
プロデューサー
斎藤和也

2014年5月28日発行「パブペパNo.14-210」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。