2013.9.24

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『福祉は裁判で決まるのか?~24時間介護に揺れる町~』
(制作:岡山放送)

香川県まんのう町に住む重度の知的障害を抱えた男性が、24時間介護を求めて、町を訴えた。まんのう町側は、争う姿勢を見せながらも「この裁判をきっかけに福祉の在り方を考えたい」としている。全国では、札幌、和歌山で同様の裁判が起こされたが、司法の判断は分かれている。豊かな福祉と、限りある財源とのせめぎ合いの中、これからの福祉はどうあるべきか、福祉先進国家、デンマークの現状なども紹介しながら考える。

<10月1日(火)27時4分~28時>


 香川県まんのう町で暮らす多田羅洋介さん(32)。生まれつき脳にある腫瘍の影響で、重度の知的障害がある。体に不自由はないが、トイレや着替え、食事などは自分でできない。中学校卒業後、父親の養鶏業を手伝うものの長続きせず、2007年から親元を離れて一人暮らしをしているが、日常生活のすべてにヘルパーの介助を必要とする。そのヘルパー代は障害者自立支援法に基づき、まんのう町からの給付金で賄われている。2011年度は1カ月360時間、1日11時間余りが給付されているが、24時間2人体制には届かない。昨年は給付額の見直しで1カ月280時間に減らされた。多田羅さんの両親は、生活保護を勧められるほど金銭的に困窮し、状況はますます厳しくなっている。そこで多田羅さんは24時間一部2人体制の介護を求め、2012年5月まんのう町を提訴。現在の3倍以上にあたる911.5時間の介護を求めている。

 これに対し、まんのう町側は訴えの棄却を求め争っている。人口わずか2万人足らずの小さな町にとって、障害者1人のために数千万円も費やすことはできないというのだ。男性には年間2000万円以上が介護給付費として支払われ、町民は複雑な思いを抱いている。裁判は議会で何度も取り上げられるなど、町の大きな関心事になっている。

 世界最高峰の福祉国家と言われるデンマーク。「ノーマリゼーション」の思想が普及し、公務員待遇のパーソナル・アテンダントと呼ばれる介助者が障害者の生活を支え、24時間介護は当たり前となっている。日本では考えられないような高福祉サービスが提供される一方、所得税が45%、消費税が25%と国民は重い税金を負担している。高福祉・高負担の社会に国民が納得している姿は日本と大きく異なる。
 そんな世界最高の福祉を学びたいと46年前、北欧に渡った日本人がいる。千葉忠夫さん、72歳。現在はデンマークで大学にあたる日欧文化交流学院を運営し、日本人をはじめ世界各国から留学生を受け入れて、福祉問題を含めた全人教育を行っている。そんな千葉さんはデンマークの福祉の特徴を次のように語る。「知的障害者の生活条件を可能な限り知的障害を持たない人の生活条件に近づける。可能な限りは不可能なこともあり、何でも一緒ではない」何人たりとも飢え死にさせないことを目指してきた高福祉のデンマーク。国家予算は約半分が年金などに費やされ、保健・医療費、教育費など社会保障費だけで7割以上を占める。まさに徹底した福祉政策がとられてきたのである。その一方、あまりにも福祉政策が進められた結果、支給される年金を管理できず使い果たしてしまい、病院や施設を出て路上で物ごいをする人が出てくるなど新たな問題も発生している。

 対するわが日本。24時間介護をめぐり行政では決着がつかず、和歌山、札幌でも裁判が起こされたが、司法の判断は分かれる結果となった。厚生労働省は、裁判の当事者でないことを理由に「ノーコメント」を繰り返し、明確な方針を示さないでいる。経済大国といわれる日本で社会保障の給付額は増加の一途をたどり、昨年度は110兆円とGDPの2割を超えるまでになった。国の制度にのっとって財政運営する地方自治体。それでは自立した生活は営めないとする障害者。そして多額の税金が福祉に使われることへの納税者の思い…。「アベノミクス」で経済復興への期待が高まる中、日本の福祉はどうあるべきなのか?まんのう町の多田羅さんが提起した24時間介護を求める裁判を通じ、揺れ動く日本の福祉の将来像について考える。

ディレクター・久保さち子(岡山放送四国支社報道部)コメント

「“もし自分が病気になったとき、障害者や高齢者になったとき、寝たきりにさせられたいのですか?福祉、福祉と言ったって、結局“自分のこと”じゃないですか”デンマークでこの言葉を聞いてハッとしました。24時間介護を求める障害者、財源不足を理由に争う行政、そして納税者。三者それぞれの意見に納得でき、取材を進めれば進めるほど迷路に入り込んだときに聞いた言葉です。福祉は自分には関係ないと、どこかで思っていました。“福祉は自分の問題”です。自分がその立場になったらどんな社会で暮らしたいか、それにはどんな政策が必要で、財源はどうするのか…。自分自身の問題として憂い考えなければいけないと、初めて気づきました。香川の小さな町から起きた裁判を通し、福祉を自分のこととして考えるきっかけにしたいと思います」


<番組概要>

◆番組タイトル

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『福祉は裁判で決まるのか?
~24時間介護に揺れる町~』
(制作:岡山放送)

◆放送日時

10月1日(水)27時4分~28時

◆スタッフ

プロデューサー
松元範夫
ディレクター
久保さち子
構成作家
関盛秀
ナレーター
久保さち子
撮影・編集
大山賢太
音効
金子寛史(フローレス)
MA
小嶋雄介(スタジオヴェルト)

2013年9月24日発行「パブペパNo.13-376」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。