2013.9.6

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『今を忘れない ~高次脳機能障害になって~』
(制作:テレビ愛媛)

けがや病気で脳が損傷した後遺症で記憶力や注意力などが低下する「高次脳機能障害」。脳にどのような損傷を受けたかで症状が異なり、理解されにくい障害といわれる。伊予市の園部香代子さんは7年前の交通事故で頭を強く打ち、高次脳機能障害と診断された。記憶をとどめられないという現実に苦しみながら、出来ないことを補う努力を続けている。大きく変わった人生を受け入れ、今を大切にして力強く歩む姿を追う。

<9月25日(水)27時5分~28時>


 けがや病気で脳に損傷を受けた後遺症で記憶や行動に問題が起きる「高次脳機能障害」。物忘れが多い、段取りや計画を立てるのが難しくなる、ちょっとしたことでいらいらしたり感情を爆発させるなどの症状があらわれる。脳のどこにどのような損傷を受けたかによって症状が異なり、外見上も分かりにくいため、理解されにくい障害といわれている。
 平成20年に実施された調査によると、高次脳機能障害者は全国で約50万人と推計されているが、症状が複雑なこともあり専門家の間でも十分な理解が進んでいない。診断から訓練、生活支援に至る一連のサービスも確立されていないため、本人や家族が孤立してしまう場合もある。

 今回取材した愛媛県伊予市の園部香代子さんは、7年前の交通事故で頭を強く打ち「高次脳機能障害」と診断された。物忘れが多い、人の顔や名前を覚えられない、感情を読み取るのが苦手などいくつかの症状を抱えている。現在は定期的に検診を受けるだけにまで回復し、家での生活の中で、料理や刺しゅうで段取りを立てながら物事を進めていく訓練をしたり、パソコンや携帯電話の機能を使って先々の予定を忘れない工夫を続けている。

 今でこそ自らの現実と向き合い積極的にリハビリに取り組んでいるものの、当初は障害を受け入れることができず、自暴自棄になった時期もあったという。厳しい状況から彼女はどのような道をたどってきたのか、なぜ前を向くことができるようになったのか。そこには周囲の環境と彼女自身の生き方が大きく影響していると感じた。
 症状をしっかりと自覚させ力強くサポートする母親、長期的に支えてきた医療スタッフ、高次脳機能障害を専門とする病院との出会い。本人と家族が常に孤立せず、誰かの、どこかのサポートを受けてきたことは、彼女の今につながる重要な要素だったと思う。
 幼いころから映画監督になることが夢だった香代子さん。東京の専門学校へ進み、映画やドラマの撮影現場で助監督として働き始めた。尊敬する監督や信頼するスタッフに囲まれ、夢への扉がようやく開いた矢先の交通事故。大きく変わった人生をなかなか受け入れることができなかった香代子さんを支えたのは、撮影の仕事の先輩や仲間たちだった。

 番組の取材では、香代子さんが年に一度は訪れるというかつての職場にも同行させていただいた。特に、香代子さんを一から指導し、彼女が「師匠」と慕う植田監督とのつながりは温かくて深い。植田監督は、障害があっても現場に戻りたいという彼女の思いを優しく受け止めてきた。その望みを絶つことも、あおることもせず、ただ香代子さんが前へ進めることを願って見守り続けてきた植田監督の表情がとても印象的だった。
 自らの変化を受け入れ、これまでとは違う道へ進むことを選んだ香代子さんは、「高次脳機能障害をがんと同じくらい認知される障害にしたい」と、講演活動も続けている。理解されにくい障害だからこそ、自分の経験を自分の言葉で語ることで、一人でも多くの人に伝えたいと考えている。「1%でも良くなる」と、未来を信じて生きる姿は、参加した人々の胸に響いている。

 高次脳機能障害は日によっても症状が異なるため、本人にも分からない部分があり、周囲とのコミュニケーションがうまくいかない場合もある。香代子さんが再就職した地元の企業も、作業療法士を迎え入れるなど、職場環境を模索している。障害のある人と周囲の同僚の両方が働きやすい環境を作ることも、今、社会に求められている大きな課題である。
 園部香代子さんという一人の女性の歩みを通して、高次脳機能障害という分かりにくい障害を知っていただき、彼女が発するさまざまなメッセージを受け止めていただければと願う。番組のタイトルにした「今を忘れない」という言葉には、香代子さんが未来に向かって進み続ける思いを込めている。

ディレクター・中山明音(テレビ愛媛)コメント

「園部さんに初めてお会いした時、歩き方や話し方がゆっくりしている以外は目立った症状が見られず、“障害”という言葉に違和感を持ちました。まさに“外見上分かりにくく理解されにくい障害”であることを実感した瞬間でした。取材を通して関わっていくうちに、彼女の抱える症状が徐々に分かってきました。会った人の名前や行った場所が思い出せない。一方で、強烈に覚えていることがある。症状は複雑であいまいで、いつどんな症状が起きるかは本人にも分かりません。高次脳機能障害の難しい現実を少しでも知ってもらえたらとの思いから取材を続けました。交通事故で人生が大きく変わった香代子さんですが、今の生活も助監督として活躍していた頃と同じくらい幸せだと語ります。障害者になって得たこと、学んだことを大切な糧にしながら新しい未来に向かって歩む姿を見て、彼女の思いを感じてください」


<番組概要>

◆番組タイトル

第22回FNSドキュメンタリー大賞
『今を忘れない ~高次脳機能障害になって~』
(制作:テレビ愛媛)

◆放送日時

9月25日(水)27時5分~28時

◆スタッフ

プロデューサー
村口敏也
ディレクター・構成
中山明音
撮影・編集
茅切伸也

2013年9月6日発行「パブペパNo.13-345」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。