2013.9.2

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『原発のまちに生きて
~再稼働から1年 それぞれの決意~』
(制作:福井テレビ)

福島第一原子力発電所の事故を受けて、停止した全国の原発。その中で1年前、福井県にある大飯原発だけが再び動くことになった。このとき地元には、「事故が起きれば地元の責任だ」「大飯町は日本の恥だ」などの苦情や抗議が全国から殺到した。なぜ福井県に原発ができ、全国最多14基を抱える“原発銀座”となったのか―。疲弊する地域経済、活断層の議論、「核のゴミ」の問題…山積する課題にどう対処するか―。「原発のまち」に生まれ育った記者が、原発立地地域に生きる人たちの苦悩と決意を追った“現地報告”。

<11月2日(土)26時33分~27時28分>


 福島の事故から2年。原発立地地域には、厳しい視線が向けられている。全国で唯一再稼働した関西電力・大飯原発3、4号機(福井県おおい町)。地元はどのような現状か、ここで暮らす人たちは何を感じているか、取材に向かった。

■殺到した抗議や苦情
 再稼働の議論が大詰めを迎えていた1年前―おおい町には、予想もしていなかった事態が起きていた。都市部を中心とした全国から抗議や苦情が殺到したのだ。その文面には厳しい言葉が並んでいた。「事故が起きればおおい町の責任」「おおい町は日本の恥だ」。人口9000人足らずの町に寄せられた1万通を超える文書…。
「国や政治家は責任を取らない。いじめられるのは地元」「再稼働しないのなら、発電所をどこかに持っていってほしい」多くの住民が複雑な思いを抱え、葛藤を繰り返していた。そんな中、町は再稼働に「同意」した。苦渋の決断の陰には、「原発」とともに生きていかざるを得ない立地地域の歴史と現実があった。

■疲弊する古里…ここで生きる決意
 原発が立地する地元は、長年にわたり原発と共生してきた。原発で働く人は1000人以上、13カ月に1度の定期検査の際は全国から作業員が訪れ、1日に3000人もの人が働く。作業員を当て込んだ飲食店や宿泊業も多く、雇用や経済が原発に深く根付いた地域にとって、原発の停止は死活問題だ。
 原発銀座の一つ、美浜町にある「耕雲商事」。社長の国川清さん(63)は、30年以上にわたり福井県内の各地にある原発で定期検査・メンテナンス業務を下請けしてきた。しかし福島の事故を受け、状況は一変。原発が停止し、仕事は減り続ける一方だ。「このままいけば、会社はあと3、4カ月しかもたない…」会社は、追い詰められていた。原子力政策の先行きが見えない中、約30人の従業員を抱える清さんの肩には大きな責任がのしかかる。
 清さんの息子・国川晃さん(30)も、この会社で働いている。小さいころから原発で働く父の姿を見て育った晃さんにとって、原発は「危険なもの」ではなく「誇り」の対象。原発以外の仕事を探す機会も増えていたが、仕事や生活の不安を抱える中、晃さんは古里で生きる決断をしていた。

■山積する課題
 福島の事故から1年半。原発の行方を大きく左右する調査が始まっていた。原発の安全規制を担う原子力規制委員会が、日本原電・敦賀原発2号機(福井県敦賀市)の下に「活断層」が存在するかどうかを調べたのだ。
 もし活断層が確認されれば、廃炉を迫られる重大な局面。「活断層の可能性が高い」との見方を強める原子力規制委員会と、「活断層ではない」と反論する日本原電。十数万年前の地層の調査ははっきりしない点が多く、解釈の違いは、平行線をたどっていた。地域住民は、こうした「論争」を見守ることしかできなかった。
 一方、原発を維持するにしても、廃炉にするにしても、大きな問題となるのが「核のゴミ」とも呼ばれる使用済み核燃料の存在だ。福井県にある原発は、あと7年も稼働すれば使用済み燃料を保管しているプールが満杯になる計算。しかし現時点で、国内にその行き場はどこにもない。いまだ本格的な議論が始まらず、見通しは不透明なままのエネルギー政策。原発立地地域には、大きなハードルが次々と待ち構えていた。

ディレクター・宮川裕之(福井テレビ 報道局報道部)コメント

「賛成か、反対か―。原発を語るとき、必ずと言っていいほどこの議論が交わされます。しかし、原発のまちで暮らす人たちには、単純化されたこの議論では語り尽くせない思いが交錯しています。
"原発を通して幸せをつかもうとしてきたことは悪だったのか?"長年原発とともに生きてきた人たちは、解決できない悩みを深めています。この番組は、去年制作した"原発のまちに生まれて"という番組の続編として取材を進めました。地元テレビ局として、あらためて原発の立地地域を見直してみました。ここに生きる人たちは何を考えているのか…。口をつぐむ住民の代わりに、その苦悩や決意を発信すべきだと感じました。誘致から50年にわたり原発と共生してきた福井県には、日本のエネルギー政策が内包する問題が横たわっています。今も原子力政策の明確な方向性は見られません。放送を通して国の姿勢や決意を問い、あらためて国民的議論の重要性を広く訴えたいと考えました」


<番組概要>

◆番組タイトル

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『原発のまちに生きて
~再稼働から1年 それぞれの決意~』
(制作:福井テレビ)

◆放送日時

11月2日(土)26時33分~27時28分

◆スタッフ

プロデューサー
横山康浩(福井テレビ)
ディレクター
宮川裕之(福井テレビ)
構成
岩井田洋光
撮影・編集
斎藤佳典(福井テレビ)
ナレーター
津田寛治

2013年9月2日発行「パブペパNo.13-343」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。