2013.6.12

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『震災の日に生まれた君へ~希望の君の椅子~』
(制作:北海道文化放送)

2011年3月11日。東日本大震災の混乱の中、被災地で産まれた104人の赤ちゃんたち。「あの日を忘れないために、小さくても確かな希望を…」そんな願いを込めて北海道の小さな町で手作りされた「希望の君の椅子」があの日生まれた赤ちゃんたちに贈られた。大切な人を失った同じ日に新たな命を授かった家族の複雑な思い、震災直後の福島で車の中で産まれた赤ちゃんは今なお思うように外で遊ぶことができない…。それぞれの思いを抱えた家族に寄り沿う「希望の君の椅子」。子供と共に成長する家族の姿を通して“命の尊さ”、“人間の強さ”を見つめ直す。

<2013年6月26日(水)26時10分~27時5分>


 大勢の命が失われた2011年3月11日、東北3県で少なくとも104の小さな命が誕生していた。鎮魂の日に生まれたわが子…誕生を素直に喜べない家族たち。それぞれの家族たちは、津波や地震で家族を失い、家を失い、放射能汚染の不安を持ち続けるという困難の中にいた。人間が大きな困難に直面しているとき、どうやって生きて行ったらいいのか?家族たちは、どうやって震災から2年たったこのときまで、生きていく希望を見出そうとしてきたのか?震災から2年が経過し、被災地以外の地域では以前と変わらない生活が送られてきている今だからこそ、メディアの使命として震災を風化させてはいけないと考えた。鎮魂の日である2011年3月11日をずっと心に刻み続けるために。この世に生まれた命を育んでいくことが、どれほどに大切か感じ続けるために。そんな思いから、あの日生まれた子どもたちとその家族を追ってみることにした。
 番組の中で、あの日生まれた子供たちやその家族に寄り添う象徴的な存在として描いているのが「希望の君の椅子」と呼ばれる小さな木製の椅子。元々は2006年に北海道東川町から始まった「君の椅子プロジェクト」から生まれたものだ。町で生まれた赤ちゃんに、自治体から木製の小さな椅子をプレゼントし、命の誕生を祝うというものだ。現在、北海道の4つの町が賛同して展開しているプロジェクトは、その椅子の素晴らしさ、メッセージの強さから、現在、全国から関心が寄せられている。「君の椅子プロジェクト」代表の磯田憲一さんは「多くの命が失われたあの日、いくつの命が生まれていたのだろうか」と独自に調べたところ、東北3県で、少なくとも104の命が誕生していたことを知った。「この事実を皆さんに知っていただくことが、震災を風化させず、少しでも日本に前を向いてもらえることになるかもしれない」。そう考えた磯田さんは、震災の日に生まれた子どもたちに、特製の椅子をプレゼントすることを決めた。
 一方、3月11日に生まれた子を持つ岩手、宮城、福島の家族は、それぞれ、津波で家族を失い、地震で家が倒壊し、放射能汚染の不安が続くなど、困難の最中にいた。また、鎮魂の日に生まれたわが子の誕生を素直に喜べない日々が続いていた…。
 震災の3カ月前に、自分を捨てた母親と宮古市内で偶然出会った下澤悦子さん。「娘が生まれたら会いに来て」それが最後の会話となった。自分のことを捨てた母親は自分のことを忘れていなかった。しかし、3月11日。その母親は津波で命を失い、そして娘が生まれた…。
 宮城県白石市で産まれた山崎リラちゃんの父・高寿さんは“蔵王牛”を育てる牧場長を務めているが、原発事故の影響で7カ月の出荷制限がかけられ、現在もなお風評被害に悩まされていた。
 福島市の橋本栞ちゃんは余震が続く中、車の中で生まれた。原発事故の影響で、今も放射線量を気にして思うように外で遊ぶことができない日々が続く。
 震災から9カ月後、完成した「希望の君の椅子」を磯田さんは風呂敷に包んで大切に運び、家族たちに届けた。中にはその瞬間、何かに気付いたかのように突然涙を流した家族もいた。それぞれの事情、それぞれの思いを抱えながら、生きてゆく3つの家族。育ってゆくあの生まれた子どもたち。そこに寄り添う「希望の君の椅子」。それぞれの2年を追った。

ディレクター・丹羽聖一(北海道文化放送)コメント

「椅子を届けた時の家族の涙の意味…今思うと、2年間取材しなければ、その本質は見えてきませんでした。センシティブな家族の気持ちをどう引き出せるか、そこから何が見えてくるのか、当初は手探りでした。取材を通じて分かってきたのは、生と死のはざまに直面した人たちは、どうしても“生”よりも“死”の方が重いと考えてしまうということ。それは“人間の優しさ”なのかもしれません。しかし時間がたつにつれ、“死”を悼みながらも、なんとか“生”に目を向けようと前向きに生きていこうとする家族の姿を目の当たりにしました。それが“人間の強さ”なのかもしれません。あの時の涙は、気持ちを押し殺していた家族が、初めて“生”に目を向け始めた瞬間であり、人が強くなる瞬間だったのだと思います。“君の椅子プロジェクト”は8年目を迎えます。命を祝福するという当たり前のことに立ち返ること、そこに私たちが忘れかけている何かがあるような気がしてなりません。“ハッピーバースデー”、東北を取材中に4歳になったわが子に電話で言った言葉。いつもより幸せな気分になりました」


<番組概要>

◆番組タイトル

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『震災の日に生まれた君へ
~希望の君の椅子~』
(制作:北海道文化放送)

◆放送日時

2013年6月26日(水)26時10分~27時5分

◆スタッフ

プロデューサー
小田学
ディレクター
丹羽聖一
ナレーター
松本裕子
撮影
上野嘉之
編集
三上昭人

2013年6月12日発行「パブペパNo.13-233」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。