2013.5.29

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『負げねど!津波
~頑固おやじの被災旅館再生記~』

(制作:仙台放送)

宮城県石巻市の美浦旅館は、昭和40年代に開業した客室数15の「労働者の宿」。
東日本大震災による津波で建物が大破し営業休止に追い込まれたが、宿の主人・三浦啓さん(56)は「復興工事を支えたい」と旅館の再建を決意した。しかし、被災地では建築業者が不足し、修理が進まない。再建を急ぐ三浦さんは仕方なく、自ら手にノコギリを持ち、ヘルメットをかぶって立ち上がった。だが、そこには数々の試練が待ち受けていた。

<2013年6月12日(水)26時10分~27時5分>


 東日本大震災における最大の被災地、宮城県石巻市。港から300メートルの場所に建つ「美浦旅館」は、津波で1階の壁が大きく破壊され、今にも崩れそうになっていた。昭和40年代の高度経済成長期に開業して以来、長期出張で訪れる工事関係者から親しまれてきた「労働者の宿」は、営業休止に追い込まれた。宿の二代目主人・三浦啓さん(56)は震災前、家族6人で旅館に住んでいた。幸い全員が無事避難したものの、三浦さんは職と住まいを失ってしまった。当初は家族全員で避難所に身を寄せ、次にアパートに移り住み、震災から3カ月後、三浦さんと妻だけが旅館に戻ってきた。

 酒とたばこをこよなく愛し、背中にさした「孫の手」がトレードマークの三浦さん。これまでは板前として旅館の厨房で腕を振るってきたが、震災後は包丁をノコギリに持ち替え、ヘルメットをかぶって建物の修理にあたっていた。この時期、被災地では建築業者が不足し、修理を頼んでも業者が来る気配がなかったからだ。大工仕事はまったく経験がないという三浦さん。しかしヘルメット姿がよく似合い、カナヅチをたたく様子は妙に勇ましい。震災によって収入は途絶え、妻の麻由美さんと二人、爪に火をともすような暮らしを送っていたが、三浦さんの前向きで明るい性格に、妻も頼もしさを感じているという。

 そんな三浦さんを全国から訪れたボランティアたちが支援した。がれきや泥のかき出しに始まり、さらにはプロの建築業者までもがボランティアで駆けつけた。こうした努力の結果、当初5000万円と見積もられていた修繕費用が半分に収まる見通しが立ち、銀行からの融資も決まった。だが、旅館が建つ土地は市の再開発計画によって、近い将来、営業ができなくなる恐れも強まった。それでも三浦さんは現地再建にこだわっていた。「たとえ2年でも、3年でもいい。許される限りこの場所で宿を再開させたい」。周辺では震災からの復興工事が進み、それと比例して工事関係者の宿泊施設が足りなくなっていた。三浦さんは「旅館を再開することで、自分もふるさとの復興を手助けできれば」と考えていた。

 震災から半年以上過ぎると、美浦旅館は他県からのボランティアのための中継基地と化していた。さらには三浦さん自身もボランティアに乗り出し、旅館の修理がおざなりとなることもしばしばだった。「助けられるだけではなく、助ける側の立場も理解することで今回の震災の意味が分かる気がする」。そう語る三浦さんの行動は、ボランティアたちの尊敬を集める一方、家族からは不評だった。やがて、営業再開の目標としていた「震災から1年」を過ぎると、今度は三浦さんの心境に変化が訪れた。「油が切れそうだ」と嘆く三浦さんの心中には、疲労とともに営業再開への不安がよぎり始めていた。1年以上、建物修理というマラソンを走り続け、その先に待つのは、365日無休の旅館経営者ならではの日々。自ら望んで進んだものの「完成」というゴールと同時に、もう一度、今度は終わりのないマラソンに走り出すことができるだろうかと不安になっていた。

 電気も水道も復旧しない不便な暮らしを強いられる中、被災した犬を保護したり、子猫を譲り受けたりする三浦さん。被災者でありながら被災者支援に走り、支えてくれる仲間たちが訪れれば精いっぱいもてなすなど、震災の悲惨さをまったく感じさせない三浦さんの日々。一見、前後を忘れているようにさえ見えるその生き方の内側には、家族や、郷土、そして人間だけでなくすべての生き物への深い愛情があることが透けて見える。津波で壊れた建物を直しながら、ほころびかけた人生を繕い続ける男の不器用な日々を通じて、被災地のリアルな日常を描く。

撮影/ディレクター・大平伸一(仙台放送)コメント

「三浦さんと出会ったのは震災2カ月後。私がこの地域に赴任して間もないころでした。それまで私は、被災者が毎日泣きながら暮らしているイメージを抱いていましたが、三浦さんのように前向きに生きる人たちも少なくないことを知らされました。被災地の“もうひとつ”の現実として、たくましく、勇気あふれる被災者の姿を伝えたい。それが、三浦さんを追ってみようと考えたきっかけです。彼の熱い生き方は、ときに滑稽で、やぶれかぶれにも見えます。しかしその人間臭さの中に、私たちは何かを気付かされます。この番組は最後まで、美しい言葉で歌い上げることも、総括することもありません。なぜなら震災は現在進行形であり、たかだか2年の取材で結論を導くなど、被災地の人々に失礼だからです。涙なし、感動なしの、風変りなドキュメンタリーですが、そのぶんリアリティーを感じ取っていただければ幸いです」


<番組概要>

◆番組タイトル

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『負げねど!津波~被災旅館再生記~』
(制作:仙台放送)

◆放送日時

2013年6月12日(水)26時10分~27時5分

◆スタッフ

タイトル・字幕
小野寺貴文
MA
梅木渉
編集
佐藤真巳
撮影・ディレクター
大平伸一
企画・プロデューサー
高荒治朗
統括
大沼浩一

2013年5月29日発行「パブペパNo.13-213」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。