2013.5.28

第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『あなたはダマされていないか
~“キクラゲ投資”の裏側~』

(制作:テレビ西日本)

投資をかたって多額の現金をだまし取る「投資詐欺」。投資家をだますための“舞台装置”はいま、大がかりでかつ巧妙なものとなっている。刑事事件として摘発されたものは氷山の一角であり、甘い言葉によって勧誘され、次から次へと投資話に乗ってしまう出資者も少なくない。2012年、福岡を中心にキクラゲの菌床栽培に対する投資を名目として出資金を集めた会社「GM」の疑惑が明るみに出た。消えた出資金。その裏側に迫る。

<2013年6月5日(水)26時10分~27時5分>


「“絶対に損はさせない”と言われて…」愛知県在住の高齢女性は、悔しさをにじませながらカメラの前でその思いを語った。女性がキクラゲ菌床栽培に出資したのは630万円。実は、これ以前にも“金の取引話”で500万円近くを失っていた。一人暮らしの年金生活。体力も落ちてきている。それでも「葬式代くらいは自分で出したい…」と、返金を訴えるこの女性が向かったのは、福岡県福岡市だった。

 福岡市に本社を置いていた「GM」は、菌床から育てたキクラゲの販売益によって、出資額に応じた利益が得られると説明し、2011年5月ごろから2012年3月ごろにかけて、福岡県を中心に全国から総額4億6千万円の出資金を集めたとされている。出資額は1口5万2500円から。菌床の栽培を委託する契約で、20口分(1000個)の菌床を購入すれば、毎月約3万円の利益が購入者に配分され、その利益は5年間にわたって振り込まれるため、「105万円の出資で180万円の収入」とうたわれていた。
 一部の出資者には数カ月間、配分された利益が口座に振り込まれていた。それによって出資の成功を信じた出資者も多かったという。しかし…その振り込みは長く続かず、突然途絶えることになる。そして「GM」との連絡は付かない状態となった。

 テレビ西日本が取材した2012年末の段階で、「GM」は登記簿上の事務所から退去し、キクラゲを栽培していたという鹿児島県内の工場も“もぬけの殻”だった。当時、工場を貸していたのは地元の自治体。その担当者に話を聞くと、当初は役所の中でも工場を貸すことに対して異論も出ていた。しかし、「ブランド農産品として売り出す」「すでに大手企業からの引き合いがある」などと説明し、担当者を信用させたという。
 本来、キクラゲ栽培はそこまで利益を生みだすものなのか…5年前からキクラゲを栽培している農家に聞いてみると、キクラゲ栽培は「菌床を置けば育つ」というような簡単なものではなく、販路が限定されているため大きな収益も期待できないという。さらに、菌床は3回程度収穫すると、その後は廃棄して新たな菌床を設置する必要があり、同じ菌床から長期間収穫を続けられるものではないと話した。

 2012年3月ごろから配当がストップした後、出資者の間からは“詐欺ではないか”との声が上がり始めた。2012年9月には弁護士が相談会を開催。ここで疑惑が広く知られることになる。同年12月、一部の出資者は返金を求める民事裁判を福岡地裁に起こした。
 当初から破綻を企図した“詐欺”なのかー。テレビ西日本は出資金を集めた「GM」の女性社長への独占インタビューに成功した。そこで語られたのは、「GMには金がなく、この仕組みを考えたのも私ではない」という当事者意識のない言葉だった。果たして真実を語っているのか…取材を進めていくと、多数の会社が絡んだ“複雑な構図”と“会長”と呼ばれる男性の存在が浮かび上がってきた。集めた出資金を配当に回すのは「ポンジスキーム」と呼ばれる古典的な投資詐欺の手口だ。いわゆる“自転車操業”のことで、出資金を集める期間が長くなるほど、被害はより大きくなる。「MRIインターナショナル」の1300億円消失疑惑や、4300億円以上の負債を抱えて経営破綻した「安愚楽牧場」の問題など、最近明らかになっているものでも「自転車操業ではないか」との疑惑が持たれているケースは少なくない。今回の「GM」によるキクラゲ投資についても、出資金が配当に回されていたことは社長の証言などから明らかだ。
 今、関東・東北を中心に全国から、キクラゲ栽培を含めた“農業支援に対する出資”を集めている企業がある。その企業へ出資した男性は、キクラゲを投資の対象としていた「GM」が事実上破綻している状況も知っていた。東日本大震災の被災地で建設業を営む一方、リスクを承知で出資を決めた男性、その思いとはどのようなものなのだろうか…。

ディレクター・仲村健太郎(テレビ西日本)コメント

「取材を始めたきっかけは、去年9月の被害者相談会の時でした。まず見えてきたのは、出資者の多くが、キクラゲ投資の内容をしっかりとは理解していないということです。そして、一人暮らしの高齢者や、社会的弱者が標的になっているとも実感しました。“お金を返してもらわないと生活もままならない”といった切実な思い。なんとか真相を解明したい一心で取材を進め、GMの社長にたどり着いたのです。社長から話を聞くうちに、私は“違和感”を覚えました。“多額の金を集めて返さない社長”というイメージからはかけ離れた“案外普通の人”という感覚を抱いたからです。だからこそ、“ダマした人とダマされた人”というような“単純な構図”ではないとの思いをますます深め、さらに多くの疑問が湧いてくることになったと思います。出資した人たちの“泣き寝入り”は何としても防ぎたい…真相に近づくため、今後も取材を続けていきたいと考えています」


<番組概要>

◆番組タイトル

第第22回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『あなたはダマされていないか
~“キクラゲ投資”の裏側~』
(制作:テレビ西日本)

◆放送日時

2013年6月5日(水)26時10分~27時5分

◆スタッフ

ナレーション
児玉育則
撮影・編集
清水一郎
取材
仲村健太郎
濱田洋平
オンライン編集
岡本浩明
MA
新甫宙
構成協力
加藤杏子
プロデューサー
斎藤和也

2013年5月28日発行「パブペパNo.13-209」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。