2012.8.16

第21回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『海は“復興”しますか~宮城・浜の未来~』
(制作:仙台放送)

震災で甚大な被害を受けた宮城の漁業。村井県知事は「水産業復興特区」導入を提唱。これに漁師は猛反発。民間資本の参入はなじまないと反対する。一方で集落を維持するために賛成する漁師も。漁業の目指す方向は。「もうかる漁業」が成立しているとされる北欧・ノルウェー王国の実情も取材。宮城の漁師たちの将来あるべき姿を決めるものは何かを探る。

<8月29日(水)26時10分~27時5分>


 去年3月の東日本大震災で宮城県の漁業は甚大な被害を受けた。復興を目指す村井知事は「水産業復興特区」構想を提唱。漁協が事実上独占してきた漁業権の規制を緩和して、民間企業の参入を促し「復興」と「後継者不足解消」を目指すものだ。

 この構想に漁師たちは反発。宮城県漁協は「絶対反対」を表明した。女川町竹浦に住む阿部敏雄さん(58)。集落の大半が津波の被害にあい、阿部さんも自宅を失った。長年携わって来たギンザケ養殖の施設や出荷を控えた9万匹のギンザケも流された。しかし、家族は自分で守らなければ、と震災の翌日には養殖再開を決意。国の補助金や借金で費用を工面し、夏には養殖再開にこぎつけた。阿部さんは特区構想に反対する。苦い経験があるからだ。1970年代、大手水産会社が銀ザケ養殖に参入した。しかし、採算割れしそうになり撤退。振り回された漁師の中には破産して廃業する者も出た。「利益を追求する企業は経営状態によっては撤退する。残された地域はまた荒廃してしまう」。漁師の生活の場に、企業が入るのはなじまないと感じている。

 一方、石巻市の桃浦漁港の漁師たちは数少ない賛成派だ。過疎化と高齢化から後継者不足が深刻な地区だったが津波で62世帯のほぼ全てが被災。収入の支えだったカキ養殖の施設も流出した。養殖再開には最低でも1000万円規模の費用が必要。「先が長くないのに、借金してまで漁業は続けられない」との声も上がる。しかし桃浦漁港代表の後藤建夫さん(64)は、漁業の放棄は集落の消滅を意味すると話す。「仕事がないと桃浦にいる意味が無くなる。民間の力を借りてでも養殖を再開したい」後藤さんら桃浦の漁師は、故郷の集落を守るため、特区構想に期待していた。

 こうした中、宮城県議会で2013年以降の漁業権更新の際に特区を導入する案が可決される。「特区構想」は導入が先送りされ、賛成の立場の人たちは目先の収入や資金繰りについて別の手立てを考えなくてはならなくなった。漁師たち、そして浜の将来像はどうなるのか。

 宮城県の村井知事が「理想形の一つ」と言うのがノルウェー漁業だ。北欧のノルウェー王国は人口約500万人ながら、漁業輸出高は世界第二位の漁業大国。就業者は若手も多く、年収も良い。その仕組みはどのようになっているのか。宮城、ひいては日本の漁業の目指すべき姿がそこにあるのか。番組はノルウェーの現状も取材。宮城の漁師の進むべき方向を決めるものは何か、を模索する。

佐藤友治ディレクターコメント

「震災で、壊滅的な被害を受けた宮城の沿岸部。1年が過ぎた今も“復興”の二文字とは程遠い現状があります。それでも、ガレキの中から立ち上がった漁師たちがいます。今回取材させていただいた2人。水産業復興特区に関しては反対・賛成と意見は分かれていますが、共通するのは“これからも、故郷の浜で生きていきたい”という強い思いでした。問題は何も解決していません。むしろ不安要素が山積しています。浜の五年後、十年後の姿は描けません。“それでも海で生きていく”と漁師たちは言います。漁師たちの未来が、少しでも明るいものであることを願いながら、これからも取材を続けていきたいと思います」


<番組概要>

◆番組タイトル

第21回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『海は“復興”しますか~宮城・浜の未来~』
(制作:仙台放送)

◆放送日時

8月29日(水)26時10分~27時5分

◆スタッフ

統括
田村信也
ディレクター
佐藤友治
小鹿崇司
ナレーション
本間秋彦
音効
片山由理(TSP)
撮影
渡辺勝見
齋藤敏明
宇津宮康和
編集
斎藤剛志
整音
川上裕彦
題字
小野寺貴文
編成
大山吉剛

2012年8月16日発行「パブペパNo.12-298」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。