2012.5.23

第21回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
夢の始まり~甘くてしょっぱいかりんとう人生~
(制作:山陰中央テレビ)

鳥取県伯耆(ほうき)町で地域の特産品を練り込んだ「ご当地かりんとう」が人気を集めている。製造しているのは、宮城県女川町出身の男性だが、東日本大震災で被災し、津波で工房と自宅を失った被災者である。震災後、縁あって移住した伯耆町でかりんとう工房を再開、新たなスタートを切るとともに、逆に地域に元気を与える存在になっている。かりんとう作りに人生をかける男性の悲喜こもごもの一年を追いかけ、力強く復興に歩む姿を描く。

<6月1日(金)27時5分~28時>


 さんまにイチゴ、カボチャ…さまざまな地域の特産品を練り込んだ「かりんとう」が、鳥取県で人気を集めている。一見、平べったいせんべいのような形で、山陰の人々にとってなじみのない形や味のかりんとう。工房兼店舗では、このかりんとうを買い求める人たちが次々に訪れ、笑顔が広がっている。製造しているのは、宮城県女川町出身の男性・阿部雄悦さん(あべ ゆうえつ・71)と障害のある人々だ。

 その阿部さんは、かつて女川町でかりんとう工房を運営していた。工房では、地元で水揚げされたさんまなど、全国各地の特産を練りこんだ、いわゆる「ご当地かりんとう」を製造し人気を博していた。さらに障害者雇用の場として社会貢献にも力を注いでいた。
 しかし2011年3月11日、未曽有の被害をもたらした東日本大震災。その津波によって、長年心血を注いで運営してきた工房、そして自宅が一瞬にして流されてしまったのだ。

 阿部さんはその後、縁あって鳥取県伯耆町に身を寄せることになった。伯耆町は、震災前にも共に工房を運営していた女性・松原千晶さんが以前住んでいた場所で、ここで工房の復活をめざした。そうした中、がれきの中から見つかったのが、かりんとうの生地を混ぜる機械「ミキサー」。全てを失ったと落胆していた阿部さんにとって、苦労を共にしてきたいわば「戦友」が見つかり、絶望のふちから光明を見出すことができたのだ。
 かりんとう作りの技術を守りたい、そんな思いからミキサーを修理。震災復興を支援する鳥取県からの補助も受け、伯耆町に工房を再開させ、新たなスタートを切ることができた。復活させた「かりんとう」に涙を流し喜ぶとともに、そこで作るかりんとうが、阿部さんに生きる力をよみがえらせてくれたのだ。そしてこの工房でも、女川町と同様に、貴重な障害者雇用の場となり、この1年間で20人余りの障害者が生きがいをもって働けるようになった。工房の運営が軌道に乗った頃、阿部さんの下には、「地域の特産をかりんとうにして、新たな特産品づくりをしたい」という人たちが次々に訪れるようになる。震災で避難してきた阿部さんが、かりんとうを縁に輪を広げ、逆に地域に元気や笑顔を与える存在にもなっているのだ。

 一方、あの震災から一年が経った中、「いつかは女川でも工房を再建したい」という願いがかないつつある。実は女川町の空き家となった事務所を無償で貸し出しても良いという申し出があったのだ。現地に向かった阿部さんたち、救いの手を差し伸べてくれた建設会社と打ち合わせをしていると、ある意外なエピソードも明らかになった。
「かりんとう作りで、今や遠く離れてしまった故郷を救いたい」その願いがかなうのももうすぐだと確信しながら、阿部さんは多くの人と支え合いながら、工房で懸命に働いている。

 番組では、かりんとう作りに人生をかけてきた阿部さんの悲喜こもごもの一年を追いかけ、被災しながらも力強く、自身の、そして被災地の復興に進む阿部さんの姿を描くとともに、「苦難に負けないしんの強さ」の大切さなど日本人が忘れてはならない人間性を描いた。

藤谷裕介ディレクターコメント

「阿部さんは本当にパワフルです。全国各地の特産品を練りこんだご当地かりんとうは、50種類以上。2月のバレンタインデーに合わせてチョコかりんとうを作るなどして、その種類は今も増え続けています。また、かりんとうを基盤に魚介類や牛タンの冷凍加工品の開発、そして飲食店のオープンなども計画していて、この夏にかけて工房は活動の幅を広げていきます。一方で、女川町にできる新しい工房には松原さんが赴き、阿部さんは鳥取に留まります。仕事を優先するため宮城県に残る家族とも離れたまま、鳥取では独り暮らしを続けています。寂しいはずなのに…被災者なのに…それを感じさせない。頑張り続けることで、過去を忘れようとしている。そんな感覚がありました。取材をしながら阿部さんの人柄にひかれていく中、普段柔らかな笑顔を浮かべる阿部さんが、厳しい顔でつぶやいた“人生これから…このままでは終われない”という言葉がずっしりと胸に響きました」


<番組概要>

◆番組タイトル

第21回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『夢の始まり
 ~甘くてしょっぱいかりんとう人生~』
(制作:山陰中央テレビ)

◆放送日時

6月1日(金)27時5分~28時

◆スタッフ

プロデューサー
山根 収
ディレクター
藤谷裕介
構成作家
関 盛秀
ナレーター
藤本幸太郎(シグマセブン)
撮影
加藤俊之
編集
野田 貴
音効
相田恵美子(サウンドリング)
MA
佐渡吉志広(スタジオヴェルト)

2012年5月23日発行「パブペパNo.12-176」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。