2011.11.16

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
すれ違う心 すれ違う介護~外国人職員を迎えて
(制作:テレビ静岡

山間部の介護施設で働くベテラン職員・秀さんのもとに、2人のフィリピン人介護職員がやってくる。日本語がほとんど話せない2人。母親役を任された秀さんは、一人前の介護職員に育てようとするが、次第に2人の心は離れていく。
彼女たちが日本に来たわけ、秀さんが彼女たちに求める介護。すれ違う思いは、人手不足の介護現場を外国人で補充しようという制度の甘さを浮き彫りにする。

<11月16日(水)26時10分~27時5分>


 静岡県浜松市の山奥にある介護施設にフィリピン人の介護職員が来ると知り、2009年の成田空港から取材は始まった。介護施設「さくまの里」に来たクリスティーン(32)とジャニス(29)。明るく、目上の人を大切にする国民性のフィリピン人は介護に向いているといわれていた。実際、彼女たちは明るく優しく、まさに向いていると思われた。しかしお年寄りと接したジャニスは戸惑う。

ジャニス「私はフィリピン人です」
お年寄り「私は日蓮宗やってる、拝むこと」

 認知症のお年寄りとの会話は、彼女たちの片言の日本語では成立しない。時間が経つにつれ、彼女たちの日本語力の低さや、モチベーションの低さを日本人職員たちは感じ始め、いらだちを募らせていった。中でも、2人の日本の母親役を任され、公私ともに世話を焼いてきた職員の河合秀予さん通称・秀さんの落胆は大きい。2人は介護を学びに来たのか、それとも単なる「出稼ぎ」なのか。

 日本はフィリピン・インドネシアと経済連携協定を結び、2008年から介護職員の受け入れを始めた。しかし、日本で働き続けるためには、日本の介護福祉士試験に合格しなくてはならないという条件を付けたのだ。外国人介護職員の話題は、日々のニュースでも取り上げられているが、内容はいかに試験合格が困難かや、「褥瘡(じょくそう=床ずれ)」や「仰臥位(ぎょうがい=仰向け)」といった専門用語の難しさばかりだ。ところが受け入れ施設からは外国人職員が試験合格をあきらめている、勉強をしない、お金ばかり気にする、といった不満の声が聞こえてくる。やる気を無くした外国人職員のことを「日本滞在エンジョイ型」と呼ぶ施設もあった。この制度の問題点は試験の難しさだけなのか。真実の現場の声を知りたいと、2年にわたる取材が続いた。

 さくまの里の秀さんは、介護の職に誇りを持つベテラン職員だ。自分の娘と同じ年ごろのクリスティーンとジャニスを一人前の介護職員にしようとあれこれ世話を焼く。日本の母になろうとした。しかし、2人の心がだんだんと離れていくにつれ落胆を隠せない。認知症のお年寄りのお世話、亡くなっていくお年寄りのお世話、プロの介護職員として誇りを持ってお世話をする秀さんの姿は2人には見えていないのだろうか。そして、クリスティーンは一時帰国してしまう。

 一方で、フィリピンの現地取材からは、日本に来るフィリピン人介護職員の本当の目的が見えてくる。彼女たちは、家族を支えるためにお金を稼ぐという使命を背負っているのだ。「お金を稼いで早くフィリピンに戻り、家族に楽をさせたい」そう願う彼女たちの気持ちを誰が責められるだろうか。
 すれ違う双方の願い。3Kと言われる介護の仕事を日本人がしないからといって、外国から人を呼んできて任せようという考えの甘さに気づかされた。と同時に、この制度の根本的な矛盾点が見えてきた。
 それでも介護が大好きで、やりがいある一生続けたい仕事と言い切る秀さん。秀さんの言葉は、外国人職員にだけ向けられたものではなく、介護の職に就こうとしない日本の若者に向けられたメッセージのように感じられる。
 将来、私たちは家族の介護を、そして自分自身の介護を誰に託すのか。高齢社会を迎え、私たちが知っていなくてはならない、現場の声を伝える。

河村悦代ディレクターコメント

「取材を始めて半年近く経ったころ、クリスティーンとジャニスから突然撮影を拒否されました。いったいなぜなのか。私は必死で考えました。行き詰まった末、これを契機に主役を世話係の秀さんに変更しました。結果として、外国人職員の苦労ばかりに向けていた目を、日本人職員が外国人職員をどう感じているのか理解する良い機会となりました。秀さんはじめ、日本の介護職員のプロ意識は高く、外国人が一朝一夕にまねできるものではありません。
 記者になって9年目。憧れていたドキュメンタリー番組に初めて挑戦しました。日々のニュース取材に追われている身では、きっと外国人職員の良い所しか見えなかったでしょう。
 自分でカメラを回した部分も多く、撮影手法や演出は未熟ですが、現場の生の声が皆さんに、そして制度を作る方々に伝わればと願っています」


<番組概要>

番組タイトル

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『すれ違う心 すれ違う介護~外国人職員を迎えて』
(制作:テレビ静岡)

放送日時

2011年11月16日(水)26時10分~27時5分

スタッフ

プロデューサー
榛葉晴彦
橋本真理子
ディレクター
河村悦代
編集
堀越洋一
撮影
池田高彦
植田孝雄
江間 達
中田 伸
音声
遠藤健太
題字
西川清美
デザイン
白馬寛子
ナレーション
湯浅真由美
吹き替え
泉久実子
日比愛子
渡辺雅彦
鈴木敏弘
菰田玲子
出射由佳
永井俊樹

2011年11月15日発行「パブペパNo.11-284」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。