2011.6.22

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
最期の場所~高齢化ニッポンの行く末~
(制作:福井テレビ

福井県おおい町名田庄地区で唯一の医療機関「名田庄診療所」。所長の中村伸一医師(48)は、この地で暮らす一人暮らしや寝たきりの高齢者が最期まで自宅で暮らせるよう見守っている。一方で、中村医師が診察している患者の多くが「老老介護」「在宅看取り」などの問題を抱えている。中村医師の活動を軸に、日本社会がこれから直面していく「高齢化」「多死時代」などの問題を浮き彫りにしていく。

<2011年6月29日(水)26時10分~27時5分>


 日本は1950年代以降、それまで当たり前だった在宅での看取り、いわゆる「在宅死」が減り続け、病院に入院したまま最期を迎えるいわゆる「病院死」が増え続けている。今では年間死亡者のうち8割が「病院死」というデータもある。そうした中、国の推計では、年間死亡者が約30年後の2040年には現在から40万人余り増えて166万人とピークに達するとみられている。医療費抑制のため病院のベッド数が削減されるなか、日本人の8割がこのまま病院で最期を迎えるとすると数十万人の「死に場所難民」が発生するとも指摘されているのだ。第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『最期の場所~高齢化ニッポンの行く末~』(制作:福井テレビ)では日本社会がこれから直面していく「高齢化」「多死時代」などの問題を浮き彫りにしていく。国はこうした状況を改善しようと、「病院」から「在宅」へと医療や看護・介護、そして看取りの場をシフトさせようとしている。ただ、その前提となる「家族」そして「社会」は核家族化や高齢化が進み、その結果として今では高齢者の単身世帯・夫婦世帯が急増。身寄りのない高齢者の実態は「無縁社会」として取り上げられ、「老老介護」に苦しむ高齢者が悲惨な結末を迎えるニュースなどが世間を騒がせている。そして日本の医療政策自体、臓器別の専門医を大量に育成してきた経緯もあり、「最期の時まで在宅」を掲げて患者と向き合う医師が少ないのも現状だ。こうしたいくつもの要因が重なって、国の政策理念とは裏腹に「在宅」へのシフトはなかなか進まないのが現状なのだ。

 日本は"超高齢社会"に突入し、今後「多死時代」を迎える。その時、誰もが「どこで最期を迎える」かという問題に直面する。番組ではそうした問題意識を基に、福井県の南西部にある、おおい町名田庄地区の在宅医療の現場を取材した。地区唯一の医療機関である「名田庄診療所」。ここで20年間にわたり在宅での「看取り」を続けているのが所長の中村伸一医師(48)。彼は訪問看護師、介護ヘルパー、保健師らと緊密に連携を取り合う形で、高齢者が最期まで在宅で過ごすことのできる医療スタイルを確立。いまや名田庄の在宅死の比率は4割に達するまでになった。

 その中村医師は「日本人の最期の場所」という問題と向き合い始めている。休診の週末には全国に出かけていって講演会を開催。実体験を交えながら、「死」とどうやって向き合うのか、最期まで在宅で暮らすとはどういうことなのか、などを訴えている。中村医師を通して見えてくるのは、「病院で死ねなくなる」「在宅での看取りをどうやって進めるのか」という問題は、単に国や地方自治体に任せておけばよいのではなく、国民一人一人が考えなくてはいけないということだ。

南谷寛郎ディレクターコメント

 当初の私たちの取材の狙いは、地域医療の崩壊が叫ばれるなか、一人で診療所を運営している中村医師の活動を通して、医療再生に向けた処方箋を提示することでした。しかし、取材を通していくうちに、中村医師が「日本人の死に場所がなくなる」ことに憂慮と危機感を抱いているということを知りました。年間の死亡者数が166万人とピークに達したとき、社会にどのような影響が生じるのでしょうか。正直、日本の近未来を描くことに対して、どのような手法で臨めばよいのか分からない日々が続きました。でも、この名田庄で起こっていることを丹念に描けば、番組を通して視聴者がそれぞれに受け取ってくれるのではないかと思い取材を進めました。作り手の私たちも大いに悩んだこの番組を見て、いろいろなことを考えていただければ幸いです。


<番組概要>

◆番組タイトル

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『最期の場所~高齢化ニッポンの行く末~』
(制作:福井テレビ)

◆放送日時

2011年6月29日(水)26時10分~27時5分

◆スタッフ

プロデューサー
 豊岡 猛(FTB)
ディレクター
 南谷寛郎(FTB)
取材
 重田貴子(FTB)
撮影・編集
 西村大輔(FTB)
構成
 関 盛秀
ナレーター
 根岸 朗

2011年6月22日発行「パブペパNo.11-140」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。