2011.6.21

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
脱北者たち 大阪・八尾に生きて…
(制作:関西テレビ

大阪府八尾市には約30人の脱北者が、支援者を頼り、ひっそりと暮らしている。彼らは「地上の楽園」と宣伝された「帰国事業」で、北朝鮮に渡ったものの、食糧不足や政治弾圧に絶望した在日朝鮮人や日本人だ。最近、脱北した夫妻は、八尾での生活をスタートしたが、日本語も話せず、仕事もない日本社会の厚い壁に直面している。彼らを取り巻く日常を通じて、日本で暮らす脱北者の日常を描く。

<2011年6月28日(火)26時45分~27時40分>


 大阪府八尾市。今この街で、約30人の脱北者たちが身を隠すかのように、ひっそりと暮らしているという事実は、あまり知られていない。彼らは1959年、朝鮮総連などが「北朝鮮は地上の楽園」と宣伝した「帰国事業」に乗じて北朝鮮に渡ったものの、北での食糧不足や政治的弾圧に絶望し、命がけで脱北した在日朝鮮人や日本人妻たちだ。第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『脱北者たち 大阪・八尾に生きて…』(制作:関西テレビ)では彼らを取り巻く日常を通じて、日本で暮らす脱北者の現実を描く。

 日本政府は人道的立場から、脱北した帰国者たちの日本への入国と定住を受け入れてはいるが、日本語の習得や、日本社会への適応、そして就職など、多くの壁に直面する彼らに対する公的支援は、事実上、生活保護以外には行われていない。脱北者たちが八尾で暮らす理由、それは彼らを献身的に支援してくれる山田文明氏(大阪経済大学准教授)がこの街に住み、心の支えになってくれるからだ。山田氏は、脱北者支援のための非政府組織「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の副代表として、これまで十数年にわたり、中朝国境での脱北者の保護や、八尾で暮らす脱北者たちの生活自立のため、尽力してきた。大学准教授としての収入は、ほぼ全て脱北者支援のために使い果たし、自らの生活は、妻の収入に頼っているのが実状だという。山田氏の過去を探ると、2003年には中国・上海で脱北者とともに公安当局に拘束され、国外退去処分を受けたほか、2006年には北朝鮮の人民保安省から「北朝鮮人拉致・誘拐の罪」で逮捕状が出されるなど、学者に似つかわしくない、勇ましい経歴がある。山田氏は、「1990年代、北朝鮮の実態を知り、自然と脱北者支援を始めるようになった」と話す。帰国者の家族から、北の惨状や帰国者に対する差別・抑圧の実態を直接聞いたことが、活動の原点だという。

 つい最近、山田氏を頼って、また新たな脱北者夫婦が八尾にやってきた。呉さん(仮名)夫婦(夫:60歳代、妻:50歳代)は、中朝国境を越えて脱北した後、アジアの第三国を経由して日本にたどり着いた。呉さん(妻)は幼少期まで、西日本のある街で過ごしていた在日朝鮮人だ。1960年代に、家族とともに北に渡り、その後、北朝鮮で現地の夫と結婚。子どもも生まれたが、夫が北で不法逮捕されそうになったことをきっかけに脱北を決意。しかし、何度か脱北に失敗し、夫婦ともに逮捕され、政治犯収容所では拷問も受けた。当初、支援者の家に身を寄せていた呉さん夫婦は、日本での自立をめざし、つい最近、アパートを借りて、八尾での生活をスタートさせた。しかし、日本に来てまもない二人は、日本語を十分に話すことができず、就職もできないまま、日本社会の「さまざまな厚い壁」に直面しながら、日々を過ごしている。呉さん夫婦を支援するため、日本語の習得には、先輩格の脱北女性が協力しているほか、山田氏も、呉さん夫婦の日本での就職のために、日々奔走している。

 この番組では、八尾で新しく生活を始めた呉さんや、彼らを助ける、別の脱北者たちの「生きざま」を描く。なお、ナレーションは、同じ脱北者の一人で、関西在住の女子大学生、リ・ハナが担当する。

(リ・ハナ氏 プロフィール)

大阪在住。1980年代半ば、北朝鮮で生まれる。両親は帰国者で、2005年日本にやってくる。
アルバイトをしながら夜間中学校に通い、日本語を勉強して2009年、大学に合格。現在通学中。

井筒慎治ディレクターコメント

 「脱北者」とは、「自分とは関係のない遠い世界にいる人たち」と、考えていましたが、自分たちの取材エリアである大阪府八尾市を拠点に、山田文明氏らが、 15年以上も前から、脱北者の日本への入国、そして定住のための支援活動を行っていると知ったとき、己の無知を恥じました。理不尽な「金王朝の独裁」を乗り越え、命がけで脱北した彼らは、日本に入国後も、日本語の習得や就職など、「日本社会の厚い壁」に直面して、苦しみ悩み続けることになります。番組に登場する呉さん夫婦が取材中に漏らした「北朝鮮でも中国でも死にたいとは思わなかった。日本に来て初めて死にたいと思った」という言葉は、実に重いと感じました。事実上の「難民」である彼らに対し、今後どのような支援策を構築すべきか? 番組を通して、考えていただければと願っています。


<番組概要>

◆番組タイトル

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『脱北者たち 大阪・八尾に生きて…』
(制作:関西テレビ)

◆放送日時

2011年6月28日(火)26時45分~27時40分

◆スタッフ

プロデューサー
土井聡夫
ディレクター
井筒慎治
撮影
孝岡則夫(エキスプレス)
編集
中島福夫(TEFU2)
監修
徳永俊彦(関西テレビ社友・芦屋大学講師)
MA
中嶋泰成(テレコープ)
効果
西原長治(テレコープ)

2011年6月21日発行「パブペパNo.11-137」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。