2011.6.20

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
ぼけやへん~素人ちんどん 人生のキセキ~
(制作:テレビ愛媛

愛媛県北宇和郡鬼北町。ここで活動している四国唯一の素人ちんどん「愛治ちんどんクラブ」は平均年齢は約70歳。「ぼけ防止」にと趣味で始めた素人ちんどんは結成から15年たって、はだかる「老い」に悩んでいた。気力も体力も昔のようにはいかない中、「まだやりたい」思いを察した若手メンバーが8年ぶりに新曲を提案。老人たちに気力が戻ってくるも、そんな最中に未曾有の大震災が日本を襲います。そこで老人たちは自らチャリティーコンサートを主催。これまでの自分たちでは思ってもみなかった行動に戸惑いながらも体当たりでぶつかってゆきます。

<2011年6月28日(火)25時50分~26時45分>


 愛媛県の南西部に位置する高知県との県境の町、北宇和郡鬼北町。ここで活動しているのが四国唯一の素人ちんどん「愛治ちんどんクラブ」だ。メンバーの平均年齢は約70歳。「ぼけ防止」にと近所のお年寄りが集まり、15年前に趣味で始めた素人ちんどん。楽器はおろか音符さえも読めなかったメンバーだが、今やレパートリーも懐メロから演歌・歌謡曲など30曲を数えるまでになった。その見た目のハデさや、曲調の親しみやすさから県内各地でのイベントに呼ばれての公演活動は年間10回を数え、高齢にムチ打っては出かける日々を送っていた。第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『ぼけやへん~素人ちんどん 人生のキセキ~』(制作:テレビ愛媛)は、高齢者による素人ちんどんクラブの1年を追った。

 結成して15年。等しく流れゆく時間は、メンバーに「老い」という現実をつきつけはじめた。気力も弱まり、昔は面白おかしくやっていた口上や寸劇など工夫を凝らす公演をするでもなく、「まだまだやりたいのに」という思いとままならない現実のはざまでただ淡々と週2回の練習に集まる日々。誰も面と向かっては口にはしないが、メンバー間には「しょうがない日常」が砂漠のように広がっていた。そんな思いを察した若手メンバー(57歳)がある日、新曲の練習を提案。曲は、愛媛県出身のテノール歌手秋川雅史さんのヒット曲「千の風になって」。この歌詞を農村応援歌版に替え歌にして歌おうというのだ。メンバーにとっては実に8年ぶりの挑戦となる新曲の練習。これに応えて15年前ちんどんメンバーにドレミを教えてくれた恩師(78歳)も久々に指導に復帰。しかし先生は耳の病でほとんど聴力を失っていた。教える先生も指導を受ける生徒も共に高齢者。久々にまた、あの楽譜との格闘の日々が戻ってきた。

 体当たりの練習が続く中、そんなメンバーの思いを受けて、小さな山里は3月の初旬、新曲の初披露の場を作ろうと町をあげてのひな祭りを計画。地元の風習に従って旧暦の節句(4月3日)にひな祭りは公民館で開かれることになった。その矢先―。3月11日東日本大震災発生。被災地から1500キロ。遠く離れたここ鬼北町でもイベント自粛があいつぎ、ひな祭りも中止になった。せっかく祭りに向けて動き出した気持ちのやりどころは? もやもやとした思いの中で新曲の練習が続く中、メンバー出した答えは、愛治ちんどんクラブが主催してのチャリティー演奏会だった。これまでイベントに呼ばれることはあっても、イベントを主催したことはなかった。今までの自分たちでは考えられなかった行動に、戸惑いながらも演奏会実現に向けてひたむきに頑張る姿は自粛ムードだった町の人を再び動かし始めた。

 4月。町の小学校で開かれた手作りのチャリティー演奏会には、メンバーの予想を反して満席御礼の盛況。笑顔をも忘れての力いっぱいの演奏。ちんどん化粧で白塗りにするも、農作業で焼けた黒い顔。汗だくになって、目には涙をためながらクラブの会長が集まった町の人々に語りかけたことは―「ここにいる人のために演奏する」。この場所に生まれ、この場所で死んでゆく。そんなふるさとが自分たちをちんどんを育ててくれた。そんな町に感謝し、自分たちはまた明日を迎える。
 元気な者が、困っている人を助けるのが道理なのだと。超高齢化社会が幕をあけた日本。誰もが抱える「生」と「老い」への不安。それは「死」をもしのぐものだと老人たちは口をそろえる。

「幸せに老いるには」というテーマのもとスタートした取材はいつのまにか、「人が明日を生きる力」を見つめていた。変わらずやってくるはずの明日は、もはや当たり前の明日ではないかもしれない。震災を境にそうした日常に対するいとおしささえ感じるようになった今、彼らが年を重ねてこそ見出した生き方に今日もまた励まされる。ここには、「まだあの日本がある」。ここには、明日を生きる全ての人にエールを送る、「お達者リアルライフ」がある。

水沼智寿子ディレクターコメント

 番組の舞台は山深い高知県との県境の町、北宇和郡鬼北町という町、人口1000人あまりの小さな集落です。過疎、高齢化、老人の独居。全国の地方が等しく抱える問題の縮図が ここにはあります。ここで活動する高齢者による素人ちんどんクラブの1年を追いました。クラブ結成15年目を迎え、メンバーの平均年齢もほぼ70歳となった今、彼らの目の前には体力、気力、さまざまな「老い」が現実となって忍び寄ります。自らの「限りある生」に気持ちの折り合いをつけながらどう残された時間を生きるのか。そんな毎日に彼らがおのずと見出した明日を生きる力、それは「意欲を持つ」ことでした。今回取材の間に私たちは、彼らがこの「意欲」に突き動かされ、自分たちでは思いもよらなかった力を発揮するさまを目の当たりにしました。そんな姿を淡々と描くことで、さまざまな明日を生きる力にエールを送りたい。そんな思いで制作に取組みました。


<番組概要>

◆番組タイトル

第20回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ぼけやへん~素人ちんどん 人生のキセキ~』
(制作:テレビ愛媛)

◆放送日時

2011年6月28日(火)25時50分~26時45分

◆スタッフ

ナレーター
由紀さおり
撮影
猪田尊雅
中岡元紀
音声
西森 悟
EED
井上達生
CG
秋庭貴泰
MA
迫久寿雄(AZABU PALAZA)
音効
谷川正幸(PROJECT80)
ディレクター
水沼智寿子
プロデューサー
大出知典

2011年6月20日発行「パブペパNo.11-136」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。