2010.11.05

第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
人生楽しく生きた者勝ち
(制作:さくらんぼテレビ)

舞台は600人ほどが暮らす、山形県鶴岡市山五十川地区。地方にある他の集落と同様、少子高齢化が進んでいるが、この地区ではお互いに支えあいながら若者からお年寄りまでが生き生きと暮らしている。その象徴として、地区には人々が守り伝えてきた「能」と「歌舞伎」があり、また、様々な風習や行事を通じて、今も世代を超えた交流が盛んに行われている。一方、今の日本では、「地域のきずな」が失われつつある。時代の流れとともに、ライフスタイルの都市化が進み、地域だけでなく、家族内の人間関係も希薄になっていている。果たしてこのまま社会の無縁化を進めてしまって良いのだろうか?番組は、山あいで暮らす人々の生活から、あらためて「地域のきずな」、「人と人のつながり」の大切さや意味を考えていく。

<2010年11月8日(月)26時40分~27時35分放送>


 娘から贈られた手書きのメッセージカードが客の歓談を静かに見守る中、古希間近のおかみが笑顔で食堂を切り盛りしている。食堂の名前は五兵衛食堂。誰もが自宅で食事を済ませそうな小さな山間の集落にもかかわらず、店には連日さまざまな世代が訪れ歓声が絶えることがない。かつてこの国のどこにでもあった「人と人とのつながり」や「地域のきずな」が、この集落で今も色濃く残っている証しの一つだ。第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『人生楽しく生きた者勝ち』(制作・さくらんぼテレビ)は、地域の集いを特別なものと捉えず、支えあって生きる山五十川地区の暮らしぶりを丹念に紹介し、現代社会が抱える「孤立と孤独」の克服に何が必要なのかを考える。

 山形県鶴岡市にある山五十川地区は、人口約600人、170戸ほどが寄り添う集落。ともに数百年の歴史をもつ「山五十川歌舞伎」と「山戸能」、2つの民俗芸能を継承する文化の里として知る人も多いが、地方集落が抱える社会構造の変化は、むろんこの地区にも無縁ではない。高齢化率は30%を超え、働き手は都市部に流出。少子化の影響で小学校の複式学級化も進んでいる。ではなぜ、山五十川は過疎地に見られる地域活動の停滞や、核家族化による孤立と無縁でいられるのか。地域の自治会長や歌舞伎の座長を歴任してきた三浦和男さん(67)の言葉に、その理由が垣間見える。「地域作りは人づくり。その輪が広がることによって地域が活性化していく」。

 伝承芸能の関係者は一年の半分にも及ぶ期間を集団での稽古に費やす。歌舞伎一座は20代の役者から60代の師匠方まで、幅広い世代が稽古で同じ時間を共有する。さらに大道具や床山、着付けを担当する女性グループなど、約30人が一つの舞台を作り上げるために通年で努力を重ねている。こうした集団での活動を通じて地域は無意識のうちに“話題”を共有し、そこから趣味の会など、さらに新たな“場”が生まれると言うのだ。場の数を証明するのが地区の公民館。わずか600人が利用する公民館だが、自治会活動や趣味の活動を合わせ、去年一年間だけで90種の集まりに利用されたという。年間利用者はのべ1万8000人、1人平均で年に30回も利用している計算だ。週に5日は地域活動に携わる、地域では中堅世代の本間長志さん(47)は、「農業や歌舞伎が集まる理由だが、結局続けられているのは人が好きなのかも」と話す。そしてつながりを生む地域性は、集落をすでに出た人の心にもしっかりと根を下ろしている。少子化の影響で解団が決まっている地域唯一のスポーツ少年団(ミニバスケ)が、県大会で初優勝。最初で最後の檜舞台となった東京の全国大会には、高度成長期に地域を離れた50人を超える出身者も応援に訪れ、まるでわが子のように子供たちに声援を送った。山五十川からは地域人口の6分の1にあたる約100人が応援に向かった。たとえ1人の力は小さくても、みんなでやれば大きな力になることを地域全体で子供たちに証明したのだ。

 五兵衛食堂の一人おかみ、三浦美恵さん(68)は、開店資金を借りる際、金融機関から「そんな山奥で店が成り立つはずがない」と言われたと振り返る。それから17年が過ぎた。各種のサークル活動など、地域の“場”が集うサロン的な役割を担っている五兵衛食堂は、山五十川のきずなを象徴する場所として、地に足をつけて営業を続けている。人付き合いのわずらわしさのみを捉え、近所付き合いが簡素化されている現代社会。一方で、“孤独と孤立”の問題が表出している。“地域のきずな”を再生するためには何が必要なのだろうか。そのヒントを見出そうと、カメラは山五十川の人々暮らしぶりを丹念に追いかけた。「人生楽しく生きた者勝ち」この言葉は山五十川で暮らす人々が、地域の関わりの中で学んだ人生訓ではないだろうか。そんな言葉に見守られ、山五十川の人々は今日も集い笑顔で語り合っている。

高橋正貴ディレクターコメント

 山五十川地区のことを知ったのは、この地に残る村歌舞伎の公演を取材に行ったときのことです。初めは伝承芸能の現状を知りたくて訪れたのですが、地域の方の話を伺うたびに、この地域が持つ温かさそのものにひかれて行きました。人口600人程の集落なのに毎日明かりがついている公民館。1人暮らしをする高齢者への毎日の声がけや、お裾分けが当たり前にある生活。住民同士のつながりは、同じく田舎育ちの私ですら驚くほど強いものでした。今、日本中で、都会でも村でも「孤立と孤独」が問題となっていますが、どう克服していくかは答えが出ていません。取材の終盤、五兵衛食堂の三浦美恵さんからこんな言葉を聞きました。「楽しみは与えられるものじゃない、自分で作るもの」。人付き合いのわずらわしさを楽しみに変えるすべを、山五十川の人たちは知っているのだと感じました。地域ってなんだろう? この番組がそのことを考えるきっかけになってくれればと思います。


<番組概要>

◆番組タイトル

第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『人生楽しく生きた者勝ち』
(制作:さくらんぼテレビ)

◆放送日時

2010年11月8日(月)26時40分~27時35分

◆スタッフ

プロデューサー
佐藤武司
ディレクター
高橋正貴
構成
高橋 修
撮影
大友信之
編集
長南亜希子
ナレーター
矢田耕司

2010年11月2日発行「パブペパNo.10-209」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。