2010.10.28

第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
フェンスの中の沖縄
(制作:沖縄テレビ放送)

政権交代を経てクローズアップされる沖縄の米軍普天間基地の移設問題。1996年の返還合意から14年たったが、行く末は不透明だ。
移設問題に揺れる沖縄の様子とともに基地建設のため土地を奪われた地権者や、安定した職を求めて基地で働く日本人従業員の声などを伝える。基地のフェンスが隔てたものは何だったのか…

<2010年11月4日(木)26時~26時55分放送>


 2009年の政権交代でクローズアップされた沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設問題。沖縄県では鳩山総理の「最低でも県外」発言への期待が裏切られ、日米両政府の県内移設に向けた協議が進んでいることに対し、失望感が漂っている。全国のニュースや新聞では「政府VS沖縄県」の構図や日本に駐留するアメリカ軍の抑止力についての報道が多いが、第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『フェンスの中の沖縄』(制作:沖縄テレビ放送)ではニュースで報道されることのないリアルな沖縄の姿や地元の人を取り巻く状況を取り上げ、長きにわたり沖縄に駐留するアメリカ軍の存在がもたらしたものを浮き彫りにする。

 今回は普天間基地に注目し、地元に住むわれわれでさえも「基地」としか見ていない土地にそもそも何があったのか。 故郷に戻ることができない人たちは今何を思っているのか、などを取材した。取材のきっかけとなったのは、基地の中に祖先のお墓を残している家族との出会いである。その家族は祖先に手を合わせ、花をたむけることさえ、米軍の許可を得なければできない現状が続いている。フェンスの向こう側は、たとえ大切なふるさとであっても、自由に足を踏み入れることができない異国なのである。

 現在、沖縄では県民大会などが行われ、多くの県民が心を一つにして「基地反対」を訴えている。この模様は全国ニュースでも毎日のように取り上げられているが、しかし中にはこの運動を複雑な心境で見守る人たちもいる。たとえば「軍用地主」の存在もその一つである。軍用地主とはアメリカ軍や自衛隊に土地を提供せざるを得なかった地権者のことで、普天間基地には約 3,000人、県全体では40,000人を超える軍用地主がいる。現在も土地を提供せざるを得ないことから、軍用地主はその代償として国から借地料を得ている。戦後アメリカ軍統治下で、当初二束三文だった借地料は本土復帰以降、幾多の交渉の結果、現在約900億円までになっている。彼らは国から借地料をもらっているという立場上、ほとんどメディアに出ないことから、戦後65年たった今では、土地を奪われたという歴史的背景は忘れ去られ、「どんどん値上がりする不労所得で生活する存在」として誤解されることが少なくない。普天間基地の移設問題が注目される今、軍用地主たちの思いをあらためて聞く必要があると感じ取材を進めると、「返還されても跡地利用が決まらないうちは、軍用地料は入らず固定資産税だけとられ理不尽だ」「生活費の一部になっているから返還されると困る」など考えはさまざまで複雑な状況であることがわかった。

 同様にアメリカ軍基地で働く日本人従業員も米軍再編が進めば職を失うのではないかと不安を抱えている。現在沖縄には約9,000人の基地従業員がいる。普天間基地の中で200人、日米政府で合意した米軍再編(例:2014年までに普天間基地の代替施設が名護市辺野古にできれば、嘉手納基地より南の複数の基地の返還)が進めば約2,000人が転勤や失業などの影響がでるのではないかとある基地従業員組合幹部は考えている。人々の前に立ちはだかるアメリカ軍基地のフェンスは何を隔て、何をもたらしたのか。基地反対と声をあげつつも、いろんな立場で考えが微妙に異なる戦後65年の沖縄の現状を伝える。

嘉数鉄太郎ディレクターコメント

 1996年の返還合意から14年たっても決着しない普天間基地の移設問題。今回の番組はニュースで取材できなかった人々、伝えてこなかった部分を掘り下げようという思いからスタートしました。普天間基地の移設問題と絡めるため宜野湾市を中心に取材しましたが、基地問題についてインタビューを求めると皆口を閉ざします。それは多く押し寄せるマスコミへの対応疲れもありますが、地元の住民が基地従業員として働いていたり、軍用地主であったり、基地と密接にかかわって生活している人が少なくないからです。沖縄県は、全国一失業率が高いこともあり、基地従業員は公務員に次ぐ安定した職場として認知されています。番組ではニュースで語られることのない沖縄の現状の一部に触れていますが、その一方で、基地は故郷を破壊し、地域を分断したことで途絶えた文化や芸能もあることをあらためて訴えたいと思いました。この番組を全国の視聴者に見ていただき、アメリカ軍基地の存在を「抑止力」だけで語られることのないことを願います。


<番組概要>

◆番組タイトル

第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『フェンスの中の沖縄』
(制作:沖縄テレビ放送)

◆放送日時

2010年11月4日(木)26時~26時55分

◆スタッフ

プロデューサー
我那覇勉
取材(ディレクター)
嘉数鉄太郎
構成
伊藤麻由子
題字
書浪人善隆
ナレーション
うちなー噺家
藤木勇人
撮影
永山敏也
編集
真壁 進

2010年10月28日発行「パブペパNo.10-202」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。