2010.6.3

第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
手紙~交通事故それぞれの10年~
(制作:関西テレビ

日々起きる交通死亡事故。命の重さ、
家族を失った悲しみの深さは殺人事件と何ら変わらないがニュースにすらならない。
9年の取材を経て、たどり着いたテーマが「償い」。
被害者、加害者にとって「償い」とは何なのか?
「償い」、そして「生きる」ことの意味を問う。

<2010年6月7日(月)26時55分~27時50分放送>


 日々起きる交通死亡事故。命の重さ、家族を失った悲しみの深さは殺人事件と何ら変わらないのに、ニュースにすらならない。2010年6月7日(月)26時55分~27時50分放送の、第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『手紙』(制作:関西テレビ)は、交通事故の被害者遺族、加害者への9年に及ぶ取材を通し、被害者、加害者にとっての「償い」とは何か? そして「生きる」ということの意味を問う。

 取材は2001年秋、ある父親との出会いから始まった。大阪市阿倍野区の米村幸純さん。彼の長男、泰彦さん(20)は1996年、通学中に信号無視のトラックにはねられ亡くなった。家を出る前、泰彦さんは彼女から借りたマフラーを何度も家族に見せびらかしていた。
 「このマフラーええやろ。彼女に借りてんねん。あったかいで。」
 「はよ、行きなさい!」
 何げない親子の会話。それが米村さんにとって今も「悔い」となっている。
 交通事故の死者は年間4,914人(2009年)。命の重さ、悲しみの深さは殺人事件と何ら変わらないのに、あまりに日常的な悲劇はニュースにすらならない
 2001年に始まった「生命のメッセージ展」は事件や事故などで理不尽に命を断たれた人々の生きた証しを伝えながら全国を回っている。展示されるのは犠牲者と同じ背丈のオブジェと生前愛用していた靴。仲の良い幼い姉弟のサンダルとスニーカー、成人式を楽しみにしていた女性のハイヒール…そこにはこれまで数字でしか語られてこなかった犠牲者の輪郭が、人生がくっきりとあった。
 「自分は何も伝えてこなかった」、そう思い知った。
 「生命のメッセージ展」のオブジェは神奈川県座間市の造形作家、鈴木共子さんのアトリエで作られる。彼女の一人息子、零さん(19)は10年前、歩道に乗り上げてきた暴走車に友人とともにはねられ、即死した。大学の入学祝いの帰りだった。中学生のときに父をガンで失って以来、母を「共子さん」と呼ぶようになったわが子。支えあって生きてきた2人の暮らしは突然、終わった。
 加害者は飲酒・無免許・スピード違反。過去にもひき逃げ事件を起こしていた。しかし下された刑は懲役5年6カ月。当時の法律ではそれが限界だった。「奴さえいなければ…」。共子さんが求めたのは「厳罰」だった。
 同じ年の同じ月に、同じく大学に入ったばかりの一人息子(18)が交通事故に遭った母親がいる。堺市に住む澤野真寿美さん。一人息子の祐輔さんは一命をとりとめたものの10年経った今も寝たきりの状態だ。医師の診断は「遷延性意識障害」、指一本自力で動かすことはできず、終日たんの吸引が欠かせない。
 ふとしたことから、面識のない2人の母親の文通が始まった。大阪と神奈川。2人の間を行き来した手紙に込められたものとは?

 一方、加害者が書いた手紙がある。長男を失った米村幸純さんのもとに刑務所の中から送られたものだ。便せんに2枚、「おわび」、「反省」、「償い」…謝罪の言葉が並ぶ。手紙は「刑務所を出たら家にお伺いしたい」という言葉で締めくくられていた。しかし、彼は来なかった。「初めて謝ってくれたと思ったのに…加害者を信じて期待した分だけ息子に申し訳ない」と妻の純子さんは話す。
 2009年、兵庫県加古川市の交通刑務所で「生命のメッセージ展」が初めて開かれた。矯正教育の一環として刑務所が遺族に協力を求めたのだ。「加害者」と対峙するオブジェ、そして遺族たち。「厳罰」を求めてきた共子さんが受刑者に伝えたメッセージとは?
 「償い」って何だろう。「許す」って何だろう。一生考えても誰も答えを導き出せないようなテーマだ。見えてくるのは、時には鋼のように強く、時にはガラスのようにもろい人間の悲しさ。「償い」、そして「生きる」ことの意味を問うドキュメンタリー番組。

青瀧博文ディレクターコメント

 取材を始めた9年前、ある遺族がふと漏らしました。「謝罪を受けられない遺族って不幸なのよ。一生、憎み続けなきゃいけないからね」その時は「ああ、そうなんだ」と思っただけでした。その後、さまざまな遺族にお会いしました。ある時期が過ぎてからは加害者についても取材するようになりました。責められるべき過失があったとしても、交通事故は望んで起こしたものではありません。彼らの心の中にはどこか「自分も被害者」という意識が見え隠れしました。これまでにニュース番組で放送した特集は32本、たどり着いたテーマが「償い」です。答えのない、おっかないテーマです。でも今なら少しは近づくことができるような気がしました。初めてのドキュメンタリーは視聴者はもちろん、遺族の方々、加害者、そして9年前の自分への「手紙」でもあります。


<番組概要>

◆番組タイトル

第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『手紙~交通事故それぞれの10年~』
(制作:関西テレビ)

◆放送日時

2010年6月7日(月)26時55分~27時50分

◆スタッフ

プロデューサー
兼井孝之
ディレクター
青瀧博文
ナレーター
豊田康雄(関西テレビアナウンサー)
撮影
関口高史
編集
日下修平
制作
関西テレビ

2010年6月3日発行「パブペパNo.10-102」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。