2009.11.9

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
灯りを守り続けて
   〜栄枯盛衰・鉱山町の老映画館〜

(制作:秋田テレビ

かつて「鉱山の町」として栄えた秋田県小坂町。
鉱山閉山後、にぎわいを失った町は、鉱山で培った「製錬技術」を生かし、
今また、全国が注目する最先端のリサイクルタウンとして生まれ変わろうとしている。
その町の中心部に残る、全国でも数少ない明治生まれの映画館「花園館」。
町の栄枯盛衰を見つめながら、そこで映画のともしびを守り続ける人たちの思いに迫る。

<2009年10月10日(土)深夜3時35分〜4時30分放送>


 秋田と青森にまたがる十和田湖の湖畔に位置する秋田県小坂町。人口およそ6200人の小さな町は、地下資源が豊富で、かつては、いくつもの鉱山をかかえる「鉱山の町」として栄えた。鉱山最盛期の大正時代初期には、全国から労働者が集まり、秋田市に次ぐ、秋田県第二の人口を誇る町に発展した。中でも「小坂鉱山」は、日本三大銅山の一つに数えられ、一時は生産額日本一を記録した。町には、当時の繁栄を今に伝える文化遺産が数多く残り、国内で現役最古の木造芝居小屋「康楽館」もその一つである。しかし、天然資源の枯渇や輸入鉱石の台頭、円高などによって、次第に鉱山の規模は縮小。1994年(平成6年)、町にあった全ての鉱山が閉山に追い込まれ、人口も減少の一途をたどった。「花園館」は、1905年(明治38年)、鉱山で働く人たちに土産物などを提供する「勧工場」、現在のスーパーマーケットのような施設として開業した。その後、映画の上映を始め、芝居や歌謡ショーなども行う大衆娯楽施設として多くの人々に親しまれた。水害により、建物は1937年(昭和12年)に建て替えられたが、明治時代の終わりから100年余りにわたって、同じ場所で営業を続け、小坂町の移り変わりを見つめ続けてきた。
 「花園館」を経営する山口武四郎さんは、1927年(昭和2年)生まれの82歳。25歳の時に、先代から経営を引き継ぎ、夫婦で映画館を切り盛りしてきた。しかし、妻は10年前に他界。現在は、56歳になる長男・良一さんとともに営業を続けている。鉱山の閉山による人口減少に加え、テレビやビデオの普及による映画離れで、次第に経営が厳しくなっていった花園館。住み込みの映写技師や看板を専門に描く職人なども辞め、現在は、映写はもちろん、営業から大型看板の制作まで、できることはすべて自分たちで行っている。
 そんな花園館が、長年続けているのが、地域の公共施設などでの“出張上映”。映画館に人が来ないなら、自分たちが映写機を持って地域に出かけ、そこで映画を見てもらおうという、いわゆる「映画の出前」である。以前は秋田県内各地に出かけ、学校などでも上映していたが、最近は小坂町の周辺市町村に限られるようになった。思うように客が入らない日もあり、体力的にも決して楽ではないが、武四郎さんは「出張上映を続けてきたから、今の花園館がある」と話す。そして、何よりも「子どもたちに、良い映画を見せたい」という思いが、出張上映を続ける原動力となっている。
 一方、鉱山の閉山以来、活気を失っていた小坂町に、新たな時代の波が押し寄せて来た。資源の再利用「リサイクル」である。長年、「黒鉱」と呼ばれる、たくさんの金属を含む鉱石の製錬を続けてきた「小坂製錬」は、その高い技術と経験を生かして、「金属リサイクル」の分野への挑戦を始めた。天然資源が少ない日本。ところが、都市で大量に廃棄される使用済みの電子機器や携帯電話などを、天然鉱石に代わる資源として活用する「都市鉱山」には、「レアメタル」と呼ばれる資源が大量に眠っていることがわかった。小坂製錬は「都市鉱山」から、金、銀、銅をはじめ、資源量の少ない希少金属「レアメタル」をリサイクルすることで、世界から注目を集める企業へと生まれ変わった。そして、小坂町も、環境に配慮した資源循環型の町づくりを目指して、独自の取り組みを進めていて、新たな活気が生まれ始めている。
 厳しい時代を耐え、活気が戻り始めた町の未来に期待を寄せながら、映画館「花園館」の経営を続ける山口さん親子。ひとりでも多くの子どもたちに見てもらうために、映画を選び、上映スケジュールを調整する。施設は老朽化し、上映日数が少なくなっても、子どもたちに夢を与えるため…、これからも映画のともしびをともし続ける。

<制作担当者コメント> ディレクター : 石川有希子

 複数のスクリーンを持つシネコンが主流となった今、地方の小さな町に個人経営の映画館が残っていることに驚きました。建物こそ、昭和の時代に建て替えられたものですが、明治の終わりから同じ場所で営業を続けてきた映画館は、全国的に見ても貴重なものだと思います。設備は老朽化し、上映日も月に数回…。それでも、営業を続ける理由が知りたい、と取材を続けました。経営がどうやって成り立っているのか、その本質までは引き出せませんでしたが、「映画が好きだから。」「子どもに夢を与える商売だから。」これが、山口さん親子の思いでした。「100年に一度の不況」とも言われる厳しい時期を迎えている今、「良いときばかりじゃない、我慢が必要なときもある。」と頑張って営業を続ける花園館の人たちの思いを感じ取ってもらえればと思います。


<番組概要>

◆番組タイトル

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『灯りを守り続けて 〜栄枯盛衰・鉱山町の老映画館〜』
(制作:秋田テレビ)

◆放送日時

2009年10月10日(土)深夜3時35分〜4時30分

◆スタッフ

プロデューサー
京野仁彦
ディレクター・構成
石川有希子
撮影・編集
菊池誉啓
音響効果
加藤彦次郎
ナレーター
斉藤茂一

2009年11月6日発行「パブペパNo.09-271」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。