2009.9.2

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
村の記憶 〜むかし医師ありけり〜
(制作:テレビ長崎

長崎県の民家に残されていた、70年ほど前に撮影された18巻200分あまりのフィルムがよみがえった。
高い倫理観と使命感を持って人々のために生きた村の医師・原口徳寿氏が後世の我々に遺したフィルムを通し、国家がいや応なく庶民を戦争へと巻き込んでいく様子を描く。

<2009年9月3日(木)深夜2時55分〜3時50分放送>


 2009年9月3日(木)深夜2時55分〜3時50分放送の、第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『村の記憶〜むかし医師ありけり〜』(制作:テレビ長崎)は、高い倫理観と使命感を持って人々のために生きた村の医師・原口徳寿氏が後世の我々に遺したフィルムを通し、国家がいや応なく庶民を戦争へと巻き込んでいく様子を描く。

 今から70年前、長崎県の農村で村の記録を16ミリフィルムで撮り続ける医師がいた。撮影機が一般にはまだ珍しい頃、当時の北有馬村の開業医・原口徳寿氏は、高価なフィルムを苦労して入手しながら村の行事を撮影していた。動機は、動く映像で村の様子を後世に伝えようと思ったからである。原口氏が撮影を始めたのが昭和11年、ちょうどその年に二・二六事件が起こり、日本は軍部の圧力が一層強まろうとしていた。そして翌年には盧溝橋事件をきっかけに日中戦争が始まり、日を追うごとに銃後の生活は戦時色を強めていった。長崎県島原半島の西に位置する小さな北有馬村でも、戦場での突撃を模した徒競走や負傷者運び競争などが小学校の運動会で行われるようになっていた。同時に、村からも青年たちが次々と戦場に送られていった。原口医師は見送りの行列が医院の前を通るたびに診療を中断し、機材を抱えて駅に急ぎ、彼らを撮影した。原口医師が撮影した出征兵士の数は110人あまりを数える。ひとりひとりを腰から上のサイズで正面から撮っている。それぞれ夫や息子である彼らの面影を残すためである。
 また昭和18年には機材を担いで自ら中国の東北部(満州)に渡り、村から移住した開拓団の様子を撮影している。「満蒙開拓団」の日常を民間人の目でとらえた映像は他にほとんど現存しておらず、これは昭和史の貴重な記録である。開拓団員たちは国策に沿ってソ連との国境地帯に入植させられ、冬場には零下20度を下回るという厳寒の荒地で食料生産に取り組んでいた。原口氏のフィルムに映る開拓団の家族たちは皆にこやかである。厳しい風土の中で共に苦労し、そして収穫を共に祝う喜びが感じられる。しかし彼らを待ち受けていたのは、死の逃避行であった。敗戦時、頼みにしていた関東軍はいち早く逃げ、開拓団員は敵地となった満州に置き去りにされた。老人と子供の多くは逃亡中に死亡し、幸運な子供は中国人に拾われた。時代に翻弄され辛酸をなめるのは、いつも庶民である。
 医師としての原口氏は村の「赤ひげ」であり、村民の「掛かり付け医」であった。当時は医療保険も生活保護の制度もなく、治療代を払えない患者も多かったが、原口医師はそのような人たちを無料で診療すると同時に米や野菜を分け与えていた。そして夜の往診も決していとうことなく、時折、病人とともに枕を並べて寝て、治療の具合を診ていた。
 敗戦後、原口医師が最後に撮影したのは、昭和26年5月3日に長崎市の浦上天主堂跡で行われたヒバク医師、永井隆博士の葬儀の模様である。「この子を残して」の著者としても知られる永井博士の葬儀を映したフィルムは他になく、これも貴重な記録となっている。
 原口医師の膨大なフィルムは、長女の原口勤子さんが北有馬町の自宅に保管していた。フィルムは70年前後を経ているため劣化が激しく、すでに映写機にはかけられない状態であった。テレビ長崎では、全18巻200分あまりのフィルムを借り受けて専門の業者に修復を依頼し、今回ようやく二世代以上も前の映像がよみがえった。

 若者たちが村の神社で武運長久を祈っている。その同じ神社に、今は、帰って来なかった者の名を刻んだ碑が建っている。見送り行事に動員された小学生や在郷軍人たちで鈴なりになったホーム。村人の万歳を背景に、じっとカメラを見つめる出征兵士たちのまなざしは胸を打つ。若者たちを乗せて列車が動き出す。子供たちが線路に下りて走って見送る。楽隊の演奏や人々の万歳が聞こえて来そうだ。あれから70年あまりがたった。ローカル線は既に廃線となりレールも取り外された。草生した風景の中で、つらい時代の村の記憶をとどめるように、駅舎が荒れ果ててひっそりと残されている。
 ドキュメンタリー『村の記憶〜むかし医師ありけり』は、高い倫理観と使命感を持って人々のために生きた村の医師「原口徳寿氏」を掘り起こし、彼が後世の我々に遺したフィルムを通して国家がいや応なく庶民を戦争へと巻き込んでいく様子を描いていく。

<制作者コメント> 山本正興プロデューサー

 むかし長崎県の小さな村に、高い倫理観を持った原口徳寿氏という医師がいたことを多くの人に知ってもらいたいと思いました。彼のことを知る人たちに話を聞くたびに、原口氏への尊敬の念が増していきます。どうすれば私たちはこのように志を持ってしっかりと生きることができるのでしょうか? 決して有名人でもまた歴史上に名を残した人でもありません。本当に市井のお医者さんです。そういった普通の人であるからこそ、かえって私たちに強い感動を与えるのだろうと思います。そして彼が後世に面影を残そうとした若者たちの半分は、村に帰って来ませんでした。駅に動員された村人の万歳を背景に、出征する若者たちが一人ずつ正面を見つめています。その映像から深い悲しみが伝わってきます。原口氏の卓越した演出力を感じます。武運長久のタスキをかけた出征兵士にただじっとレンズを見つめさせることで、彼は戦争の残酷さや不条理さを確実に表現しました。強いチカラを持った反戦の記録映像だと思います。多くの人にぜひ見てほしいと願っています。


<番組概要>

◆番組タイトル

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『村の記憶〜むかし医師ありけり〜』

◆放送日時

2009年9月3日(木)深夜2時55分〜3時50分

◆スタッフ

プロデューサー
山本正興(テレビ長崎)
ディレクター
高柳亮爾(テレビ長崎)
構成
山本正興
ナレーター
清水輝子
撮影・編集
井上康裕
  

2009年9月2日発行「パブペパNo.09-218」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。