2009.8.26

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『なぜ息子が 〜失われた命、踏み出した一歩〜』
(制作:サガテレビ)

授産施設から毎日、決まった時間に帰ってきた安永健太さん。
自転車で帰宅途中の安永さんを巡回中のパトカーが呼び止めそして…。
「知的障害者とわからなかったのか?」父の言葉が重くのしかかる。
知的障害のある1人の青年の死は、何を訴えたのか。
遺族や施設運営に携わる人たちは、「二度と繰り返さない」ために、苦悩の中それぞれの一歩を踏み出す。

<2009年8月27日(木)深夜3時〜3時55分放送>


 2007年9月25日18時ごろ、いつものように授産施設から自転車で帰宅途中の青年が、自宅まであと少しのところで命を失った。安永健太さん=当時(25)。知的障害のある青年だった。佐賀県警は、安永さんが「車道を自転車で蛇行運転し、パトカーの停止命令に従わず信号待ちのバイクにぶつかり倒れた。激しく暴れ続けたため、やむを得ず後ろ手に手錠をかけた」と。うつ伏せ状態の安永さんはその場で心肺停止。県警は「知的障害者とわからず、精神錯乱状態と判断。“保護”は妥当。自傷、他害の恐れがある場合は、身を賭して保護することが警察官の任務」と説明。遺族は納得するはずがない。父の孝行さんは「死んで保護はない」と憤る。その前の年「障害者が安心して暮らせる社会の実現を目指す」とした障害者自立支援法が施行されていた。「こういう子たちは、わからないだけで、どこにでもいると思います。逆に警察官に助けてもらう立場」と父。こういうことがあるなら授産施設に通わせない方がよかったと、父は自責の念にかられる。安永さんは、人と会うのが好きで、いつも笑顔だった。それは数々の写真が物語っている。
 しかし「障害者を家から出すな」と、非情な手紙が父に届いた。社会との接点を増やしたいと願う父の切なる思いと現実とのギャップ。一体どうすれば…なぜ息子は命までも落とさなければならなかったのか。見えない答えを探し続ける。二度と繰り返してはならないと、施設関係者も立ち上がる。当時、佐賀県授産施設協議会の会長を務めていた村上さんは、先頭に立って理解を求める活動を起こす。どうすれば知的障害者とわかって接してくれるのか? 村上さんは、自分の施設の利用者に、障害者と見分けがつくよう身分証明を新たに作る。「付けていて助かるものであれば…しかし悪用される恐れも」。

 苦悩が続く中、安永さんが亡くなって1年が過ぎた頃、遠くから一通の封書が届いた。東京都町田市に住む知的障害者の母親からだった。それは父や施設関係者に一筋の光をもたらす。封書には、パニックになった知的障害者への接し方を記した「SOSボード」が。母親はグループをつくり「SOSボード」を手弁当で作成して町田市内に配って歩いたのだ。母親は「健太さんは私の息子に良く似ています。放っておけない気持ちで一杯でした。遠くの東京ですけど、このような活動も広がっています。健太さんの死は無駄になっていない」と。
 安永健太さんは、1999年、アメリカで開かれた障害者のスポーツの祭典、スペシャルオリンピックスの日本代表に佐賀県から初めて選ばれリレーで銀メダルを獲得。そうした大切な思い出をリュックとバッグに分けていつも傍らに置き、あの時も自転車の前かごに乗せていた。「自転車は修理して乗ろうかな」息子の思い出を乗せて前にこぎ出そうとする父。そして、安永さんが亡くなって1年半が過ぎた頃、佐賀市役所に食堂がオープンした。運営するのは、村上さんの授産施設。施設の利用者4人がレジに厨房にと懸命に働く姿があった。「理解して下さいと言うだけではいけない」村上さんはそう語りかけ、障害者も社会の一員であることを知ってほしいと願う。これまで表立って伝わることのなかった知的障害者の保護者や施設運営者の“声なき声”を通して、失われた命を考える。

<制作者コメント> サガテレビ報道制作部 村岡 格

 「警察官による暴行の有無」この問題を検証する上で、まず避けては通れないことです。そこで何が起きていたのか、事実を知るため目撃者探しに奔走しました。一方で、手錠をかけられ、コンクリートにうつぶせにされた時、安永さんは警察官に何を伝えたかったのだろうか…そのことを考えると、胸が締め付けられる思いにかられました。この問題は、民事訴訟と刑事裁判で真相が争われていて、数年はかかる見通しです。知的障害者が事件を起こすことも事実ですし、警察寄りの考えがあることも付け加えておきます。
 安永さんが伝えたかったことは…少しでも代弁者になれればという思いを込めました。


[番組概要]

◆番組タイトル

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『なぜ息子が 〜失われた命、踏み出した一歩〜』
(制作:サガテレビ)

◆放送日時

2009年8月27日(木)深夜3時〜3時55分放送

◆スタッフ

プロデューサー
池田昭則
ディレクター
村岡 格
構成
村岡 格
ナレーター
坪内晋司
編集
岸本佳奈

2009年8月26日発行「パブペパNo.09-210」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。