2009.6.10

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『笑顔の理由 〜小谷村伊折の人々〜』
(制作:長野放送)

「百姓仕事は楽しくやったほうがいい」と話すのは小谷村の伊折農業生産組合の藤原信夫組合長。藤原さんをはじめ、伊折集落のお年寄りは笑顔が絶えない。藤原さんは荒れたまま放置されていた集落の農地を一人で回復させ、さらに小さな農業生産組合を設立。主力の組合員は60〜70代のおばあちゃんたちだ。現金収入をもたらされ、集落のまとまりも強まった。しかし集落の高齢化は止まらない。過疎と高齢化が押し寄せる山里で、不安を抱えながらも、力を寄せ合って生きる高齢者の1年を追った。

<2009年11月15日(日)深夜2時40分〜3時35分>


 「百姓仕事はわいわい、楽しくやったほうが良い」と話すのは小谷村の伊折農業生産組合の藤原信夫組合長。組合長をはじめ、伊折集落のお年寄りは笑顔が絶えない。
 「スローライフ」や「限界集落」などの言葉が駆け巡った2007年、厳しい条件の中でも豊かに暮らしている山里はないかと方々を探した。豊かな暮らしの尺度は山村と都会で変わってくるかもしれないが、共通しているのはそこでの暮らしに対する満足度ではないだろうか。小谷村伊折集落は村役場から「お年寄りががんばっていますよ」ということで紹介された。
 伊折集落は12戸31人、高齢化率58%の過疎と高齢化が進んだ小集落だ。建設業を引退した藤原信夫さんは、荒れ果てたかつての田畑を見て「もったいない」と、1人重機を使って「開墾」した。さらにその農地を活用し、農業生産組合を設立した。やがて組合活動は軌道に乗ったが、藤原さん自身は農作業から遠ざかる。心臓の難病で体の自由が利かなくなっているためだ。
 組合員の主力は60〜70歳代のおばあちゃんたちだ。彼女たちの活躍で徐々に手掛ける作物は増え、育苗、山菜採り、ミニトマト・雪中カンランの収穫と今は季節ごとに仕事がある。休憩のお茶の時間は笑い声でにぎやかだ。お年寄りが家でぽつんと一人でいる時間もかなり減った。さらにささやかな現金収入がお年寄りを元気づけ、力を寄せ合って稼ぐことで集落のまとまりは一層強まった。そういう集落に魅力を感じ、新たに住みつく人が出てくるのも不思議ではない。伊折の影響で他の集落でも「開墾」が始まっている。
 しかし不安もある。高齢化は徐々に進み、いつまで組合を維持できるかは誰もわからない。50歳代から下の住民の中には集落自体の維持に危機感を抱く者もいる。ただお年寄りたちに殊更、悲壮感がないのは次の世代に残せるものがあるからだろう。それは「組合」という組織ではなく、住民、家族が支え合えば厳しい山間地でも生きていけるという姿だ。
 2009年度末で過疎法が期限切れを迎える。10年先、20年先の地方、過疎地の姿を考える議論がこれから本格化する。集落営農を支える国の助成制度「中山間地直接支払い制度」の再設計もこれからだ。
 伊折のお年寄りの笑顔。すべてに満ち足りたとまでは言えないまでも、山里らしい豊かな暮らしぶりを感じることができた。将来への不安を抱えつつも、今できることを住民みんなで取り組む伊折のお年寄りたちから集落再生のヒントを読み取りたい。

制作担当のコメント (ディレクター 長野放送報道部 嶌田哲也)

 日本海へ流れる姫川に沿って国道が走り、そこから細く曲がりくねった道を登ると伊折があります。突然、視界が開け、花、お地蔵様、田畑と美しい風景が広がり、初めて見た時、「ここだ」と思いました。当初のニュース取材から住民は協力的でした。自分たちのやっていることに誇りや自信があったからではないかと思います。その後、一部の住民から「もっと取材して番組にしたら」と逆提案があり、伊折通いが始まりました。どういう番組内容にしようか悩みましたが、お年寄りの笑顔に何度も癒やされ、励まされました。
  伊折通いはまだ終わっていません。住民に3年後、5年後も見に来てほしいと言われているからです。それにおばあちゃんたちから山菜の料理方法は詳しく教わりましたが、肝心の山菜の見分け方をまだ教えてもらっていないからです。


<番組概要>

◆番組タイトル

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『笑顔の理由 〜小谷村伊折の人々〜』

◆放送日時

2009年11月15日(日)深夜2時40分〜3時35分

◆スタッフ

ナレーション
近藤サト
撮影
岡田竜太
桜井幸紀
編集
梨子田 眞
EED
石川陽子
音響効果
プロジェクト80
タイトル
平林昌子
構成
山口慶吾
ディレクター
嶌田哲也
プロデューサー
宮尾哲雄

2009年6月9日発行「パブペパNo.09-133」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。