2009.5.29

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『父の国 母の国 −ある残留孤児の66年−』
(制作:関西テレビ)

昨年4月中国残留孤児への支援策「改正中国残留邦人支援法」のスタート後を取材し、社会がどう帰国者たちに向き合うべきかを考え直してゆくドキュメンタリー

<2009年5月29日(金)深夜3時20分〜4時15分放送>


 2009年5月29日(金)深夜3時20分〜4時15分放送の第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『父の国 母の国 −ある残留孤児の66年−』(制作:関西テレビ)は、昨年4月中国残留孤児への支援策「改正中国残留邦人支援法」のスタート後を取材し、社会がどう帰国者たちに向き合うべきかを考え直す。

<企画意図>

 終戦前後、中国東北部に残され、肉親とも生き別れながら、かろうじて生き永らえた「中国残留孤児」。孤児らが「国の支援策が不十分」として訴えた集団訴訟を経て、去年4月からようやく「改正中国残留邦人支援法」に基づく支援策がスタートした。
  しかし、この支援策で本当の幸せを見出せるようになったのだろうか? 支援策後の生活を取材することで、社会がどう帰国者たちに向き合うべきかを考え直す。

<番組内容>

 中国残留孤児の兵庫訴訟で原告団長を務めた初田三雄さん、66歳。初田さんの人生は、「生命の危機」と「貧困」の連続だった。終戦時は2歳。もちろん当時の記憶はない。旧満州の奉天、現在の瀋陽で中国人に育てられたが、1960年代後半から始まった「文化大革命」では、日本人だという理由で迫害を受け、1972年の日中国交回復後も農村などを転々とした。祖国・日本への思いは強まった。
 しかし、残留孤児が本格的に帰国できるようになったのは、9年後の1981年。多くの孤児が、中年になってからだった。政府は日本語の不自由な人々に十分な支援をせず、7割もの孤児が生活保護のもと、厳しい制約をうけながらその後生活している。
 初田さんは、44歳になって日本に帰国。その後、肉体労働を続けたが60歳でその仕事も定年となり、定年直後の収入は厚生年金の月5万円のみだった。「働けるうちは自立したい」と、アルミ缶を拾って兵庫県伊丹市の県営住宅で妻と生活している。孤児たちはこうした帰国後の苦しみを、裁判に訴えた。
 全国15カ所で裁判が行われたが、神戸地裁だけは「明確な国の責任」を認め、国による新しい政策をスタートさせる原動力になった。

 新しい支援策は、全国の原告・弁護団が裁判の取り下げと引き換えに受け入れたもので、明るいニュースのはずだったが、初田さんは納得がいかない。それは、この制度が「社会保障」という位置づけのため、「生活保護」をベースにしていて、全員が平等に受けられるものではなく、制約も多かったからだ。
 多くの残留孤児は、国の責任が認められないままであることには不満を抱きながらも、支援策を受けて生きることを選択したが、初田さんは「給付金」の申請を拒否して、まだアルミ缶を拾い続けている。
 なぜ、初田さんはそこまでこだわるのか…。

 初田さんの人生を知るため、今年3月、中国・瀋陽に同行した。そこで取材班が目にしたのは、養母の墓参りすら出来なかった初田さんの深い心の傷だった。墓に向かって初田さんは語りかける。

 「お母さん、あなたは私に怒るでしょう、愚か者だと。しかし息子は今になってわかった。一番大事なのは誇りを持って生きること。恥ずかしくない生き方をすること…」
  そして小さなお墓にしがみつき「小さい墓を見て申し訳なく思う」と号泣した…。
 政治的には「解決した」残留孤児問題。番組の中でこの問題をどう考えて、どのように帰国者に向き合うべきかを考えてゆく。

<ディレクター・柴谷真理子コメント>

 中国残留邦人のための「新しい支援策」は、驚くほど人によって評価が違います。
 取材していると、どう評価すればよいのか混乱します。弁護団にも、「あれで最善」「社会情勢を考えれば妥当」と評価する人がいる一方で、この結果に悔やみ、苦しんでいる人もいます。「残留孤児」の中にも「生活が良くなった」と感謝する人もいれば、「尊厳が回復されていない」と声を荒げる人もいます。「政治的な解決」の結果は、こういうものだろうか? と考えさせられます。
  私は、「制約のある支援策」となった背景が、「国民の理解が得られないから」ということには、違和感を覚えています。「理解」といっても、国民のほとんどは、「国が残留孤児に何をしてきたか」を知らないと思います。こうした背景には、われわれメディアにも責任の一端があるのではないかと感じています。


<番組概要>

◆番組タイトル

第18回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『父の国 母の国 −ある残留孤児の66年−』

◆放送日時

2009年5月29日(金)深夜3時20分〜4時15分

◆スタッフ

ナレーター
優香
プロデューサー
土井聡夫(関西テレビ)
ディレクター
柴谷真理子(関西テレビ)
撮影
吉川浩也(コールツプロ)
編集
野上隆司(関西テレビ)
素材協力
フジテレビジョン ほか

2009年5月29日発行「パブペパNo.09-123」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。