2008.11.27

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『私と家族と湖と〜水質・全国ワースト1と呼ばれて〜』
(制作:テレビ静岡)

静岡県浜松市にある佐鳴湖は、環境省による水質調査で、6年連続で全国ワースト1となっている。杉山恵子さんは、そんな湖でウナギを捕る漁師。彼女は、環境省の調査方法に疑問をもち「佐鳴湖は汚くない」と訴える。そして、湖の実情を人々に知ってもらうための広報活動や環境教育に力を注ぐ。彼女が懸命になる理由、それはガンと闘う姉のため。汚名を晴らし、本当の姿を分かってもらう活動には、湖畔で生きてきた姉妹の切なる願いが込められていた。

<2008年11月29日(土)深夜3時5分〜4時放送>


 静岡県浜松市にある佐鳴湖は、環境省が、毎年、湖沼の汚濁度を測定する水質調査で、6年連続で全国ワースト1となっている。それほど大きな湖ではなく、浜名湖とは違って観光地でもないが、静岡県民には広く名前が知れ渡っている。そして、圧倒的多数の人が“悪いイメージ”を持っている。実際、浜松市が行った意識調査では、市民の94%が佐鳴湖の水質について「好ましくない」あるいは「あまり好ましくない」と答えている。

 今夏の洞爺湖サミットでは「環境」が主要なテーマとなったように、最近、環境問題に関する話題がよく取り上げられている。だが、人々の関心が高まっているかと言ったら、疑問を感じる。そして、何らかの行動に移そうという人は、もっと少ないのではないか。

 今回の番組では、一番の狙いを「環境への加害者意識」を持ってもらうことに置いた。よく、人間は「被害者意識を持つことは簡単にできるが、自分が加害者であることには、なかなか気付けない」と言われる。だからこそ、佐鳴湖を「汚い湖」と忌み嫌う市民に、自分たちの何げない日常生活が、湖をワースト1へと追い込んでいることに気付いてもらいかった。

 番組取材を始めることになったのも、私自身の認識不足と驚きにある。
 私は報道部の記者で、浜松の駐在員だった時に、佐鳴湖から数百メートルの所に住んでいた。そして、休日に家族と佐鳴湖公園へ出かけたり、湖畔をジョギングしたりしていた。当時は、ワースト1となっている事実を知っているだけで、周辺はきれいなのに、水の色は汚いなあと思う程度だった。また、漁船があることには気付いていたが、浜名湖へ下って漁をしているのだろうと思い込んでいて、佐鳴湖に漁師がいるとは思いもよらなかった。だから、別の佐鳴湖の取材の際に、ウナギ漁師がいること、さらに女性漁師がいることを知った時、驚くとともに強い興味を持った。

 そして、杉山恵子さんに初めて会った時、まず感じたのは気持ちの強さだった。
 佐鳴湖がワースト1と言われることへの憤り、本当の姿を皆に知ってもらいたいという思いの切迫感。何がこの女性をそこまで駆り立てるのか、そこで感じた疑問が、結果的に、今回のドキュメンタリー番組取材を始める一番のきっかけとなった。

 杉山さん一家は、これまで貸しボート屋として、漁師として生きてきた。家族にとって、佐鳴湖はかけがえのない存在だ。そして、環境省のワーストランキングの発表は、1年の内で12月の1回だけ。ワースト1でなくなった佐鳴湖を、ガンと闘病中の姉に見せる機会は、いったん逃すと1年間も待たなくてはいけない。だからこそ、杉山さんは必死に活動する。そんな精力的な彼女と、それを応援する姉、そしてウナギ漁師として、一家の長として見守る父親の存在も、番組の見どころの1つとしていただきたい。

 また、杉山さんは単にCODだけを下げてワースト1を抜け出すことには反対している。そして、番組においても、佐鳴湖には生き物が多くて豊かであることを大切にしようと考えた。
 かつて、環境省のワーストランキングで、27年連続ワースト1であった千葉県の手賀沼は、利根川からの導水によって、水を希釈させ、CODを低下させた。ただ、それにより生態系が変わってしまったという地元の声がある。
 佐鳴湖の場合も、天竜川から導水を行う方法が選択肢としてある。その他に、湖の南岸に段差や堰を造って、下流の川からの逆流を防止する方法もある。

 だが、杉山さんは、豊かな生態系を守れる保証がないのなら、COD低下だけを目的とした方法には疑問を呈する。彼女が、病に冒された佐鳴湖で生き物たちを守りたいと願う気持ちは、ガンと闘う姉を救いたいとの願いとも重なる。
 そして、彼女が選んだ道は、市民に、家庭排水を出す場合に、食べ残しや洗剤などに気をつけるように呼び掛ける地道な啓発活動。それは途方もない時間を要し、すぐにワースト1を抜け出すことはきわめて難しいと思われる。それでも、そちらの道を選んで活動する事を決めた杉山さんの決意や、姿勢もぜひ見どころとしていただきたい。

制作担当者のコメント ディレクター:加藤洋司

 「ウナギ食わしてやるで」父親の田辺陽三さんにそう言われ、かば焼きを目の前に出された時、正直、相当に戸惑いました。湖は有害物質で汚染されているわけではない、魚は安全だと分かっていても「本当に大丈夫か?」と尻込みしてしまう。自分自身も、「佐鳴湖=汚い」というイメージが根深かったことを痛感しました。ちなみに、頂いたウナギは身がふっくらしていておいしかったです。 
 環境省の調査でワースト1の佐鳴湖ですが、酸素量だけでは湖の一面しか測れないとの指摘もあり、実は、国土交通省が、透視度や景観、市民の親水度など多項目を盛り込んだ新指標による調査を試験的に始めています。番組でも市民参加の試験調査などを取材しましたが、ワースト1の現実が人々の心を揺り動かすきっかけになると考えて外しました。
 環境問題の解決は当然のことながら容易ではありません。「99%の人は興味がない。興味がない人をどうするかが大切」会議の参加者の一言が重くのしかかる感じがします。


<番組概要>

◆番組タイトル

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『私と家族と湖と〜水質・全国ワースト1と呼ばれて〜』

◆放送日時

2008年11月29日(土)深夜3時5分〜4時

◆スタッフ

ナレーション
大地康雄(俳優)
構成
関 盛秀(作家)
撮影
植田孝雄
音声
内藤裕貴
編集
古本孝子
効果
長田 渉
デザイン
森部道子
題字
西川清美
ディレクター
加藤洋司
プロデューサー
永井 学

2008年11月27日発行「パブペパNo.08-335」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。