2008.6.26

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『偽りの豊饒
 〜コメ農家に迫る廃業の危機〜』(制作:さくらんぼテレビ)

山形県内の稲作農家の廃業危機を通じて、日本の農業政策の行く末に警鐘を鳴らすドキュメンタリー

<2008年7月5日(土)深夜3時25分〜4時20分放送>


番組のみどころ

<企画概要>

 コメの収穫・出荷を終えた2007年秋。コメどころ山形県には激震が走っていた。県都・山形市では米価急落に反発したコメ農家が1000人も集まり大規模なデモ行進を行った。取材はこのデモ行進から始まる。
 「このままでは稲作をやっていけない」と口をそろえて訴えるコメ農家。その大きな要因は農家がJAへの出荷時に手にする価格の下落だった。昭和60年代には1俵(60キロ)で1万9000円だった価格が今シーズンは1万1000円。およそ6割も下落し、コメ農家は同じ作業をしてもまともな収入を得られない事態に陥っていた。
 果たして収入が激減したコメ農家はどうやって生活しているのか…。私たちは山形県の中でもコメの生産が盛んな庄内地方へと向かった。そこで浮き彫りになったのは長い歴史の中で徐々に崩壊して来た日本の稲作農業の危機的状況だった。
 実はコメを生産するにはトラクターなどの農機具代、農薬・肥料代、農地の受託料など膨大な経費がかかる。収入は減っても、減ることのない経費がコメ農家の生活を逼迫させていた。さらに稲作農業を支えているのは65才以上のお年寄りが大半。しかもその多くで後継者がいないという深刻な問題も抱えていた。
 将来に希望が持てないコメ農家の中には廃業を選択する人も少なくない。減反政策と共に訪れた農家の高齢化、そして廃業の危機は耕作放棄地の増加にもつながっていた。実はこの耕作放棄地の増加は水田が持つ土砂災害の防止機能の喪失を意味し、国土の崩壊も招きかねない深刻な問題でもある。
 かつて瑞穂の国と称された日本に訪れている、稲作農業崩壊の危機。番組では庄内地方のコメ農家の悲痛な叫びから、国の農業政策の矛盾を検証する。

<番組内容>

 山形県鶴岡市でおよそ40年もコメを作り続けて来た高橋和夫さん(55)。コメの販売収入が振り込まれた秋、農業関係の収支を一括している営農通帳はマイナス280万円と記されていた。春から汗水流して農作業をして残るのは赤字の通帳。こうした状態が数年続いているという。「5年後にはさらに多くの農家が廃業する」と高橋さんは語った。
 実は高橋さんの生活を支えているのは農閑期の冬に行っている東京でのタクシー運転手の出稼ぎ。しかし、バブル崩壊後、その収入も減っていた。本業・副業とも収入が減る中、コメ作りを続けるために必死に模索を続ける高橋さん。取材を進めると高橋さんの嘆き、不安が、日本の稲作農業に迫っている危機的状況をズバリ言い当てていることが分かってくる。
 高橋さんと同じ鶴岡市で50年以上もコメ作りをして来た74才のコメ農家はこの秋、廃業を決めた。その大きな理由は米価の下落。義理の息子と同居はしているが、後を継がせる事は出来なかった。廃業を決めた時には泣いたと話したこの男性は「時代には勝てない」と悔しさをにじませた。国はコメ農家の収入確保を目指し、農地を集積化し農作業を共同化する集落営農を奨励している。しかしそれは実際の現場を見る限り机上の空論とも言えるものだ。

 今や自由競争の波にさらされている日本のコメ。果たして今後、この危機的状況と国はどのように向き合っていくのか…後継者もほとんどいない状況の中、コメ作りに明るい希望を持たせなくてはならないハズだがその方策は何も示されていない。
 これまで減反など国の政策に我慢をして従ってきた多くのコメ農家。しかし普通の生活をすることができない状況が続く限り、廃業へと向かう農家は増えるに違いない。
 お店に行けばいつでもコメが買えるという生活は、いつしか崩壊するかもしれない。その危機を誰よりも強く感じているコメ農家の声は、日本農業の未来図を指し示しているに違いない。

制作担当者のコメント (さくらんぼテレビ ディレクター 野口 剛)

 2007年の秋に山形市内で行われたコメ農家によるデモ行進。その光景を目の当たりにした時、私は小さい頃にテレビで見ていた公定米価の引き上げなどを訴える人々の姿を思い出しました。正直言って取材に入る前は、コメ農家が向き合っている厳しい現状をあまり理解できていませんでしたが、取材を重ねる度にこのままでは日本の農業は危ないという気持ちが強くなりました。
 「農家を辞める」「赤字しか残らない」…もちろん、コメ農家はボランティアではありません。お金を稼げなくては、働く気力が失われていくのも当然のことです。こうした危機の大きな要因は国がコメの価格を完全に市場原理に任せたこと。今、国は集積化・大規模化に打開策を見い出そうとしていますが、農家に話を聞く限り順調に進むものではありません。多くのコメ農家は将来に強い危機感を抱いています。それは自分たちの生活のためもありますが、子孫に安心・安全なコメを食べさせたいという思いも持っています。大きな危機を迎えている日本の稲作は、コメ作りに誇りを持つ農家の強い意志と優しさで支えられていると感じました。
 今回の企画では、一人でも多くの視聴者に稲作農業に迫る危機を感じてもらおうと、農家の声に極力、耳を傾けるようにしました。その言葉からは国の農業政策への怒りも感じましたが、その裏にはあきらめ、落胆があるような気がしました。一度失ってしまったら簡単には取り戻せない、農家、そして水田。それを守るためには一刻も早く対策を講ずる必要があります。その役割を果たせるのは国の他はありません。
 コメ農家の危機は日本の食糧問題、そして国土保全の問題へとつながっていくことをあらためて考え直す時が来ているはずです。


<番組概要>

◆番組タイトル

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『偽りの豊饒〜コメ農家に迫る廃業の危機〜』
(制作:さくらんぼテレビ)

◆放送日時

2008年7月5日(土)深夜3時25分〜4時20分 放送

◆スタッフ

ナレーター
津賀有子
撮影
大友信之
編集
長南亜希子
構成
高橋 修
ディレクター
野口 剛
プロデューサー
太田 健

2008年6月26日発行「パブペパNo.08-177」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。