2008.6.11

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『大陸の風はいま
 〜越境する環境汚染〜』(制作:テレビ西日本)

中国から日本へ、そして 日本から中国へもたらす越境汚染に焦点をあてたドキュメンタリー

<2008年6月21日(土)深夜3時25分〜4時20分放送>


<内容>

 第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『大陸の風はいま〜越境する環境汚染〜』(制作:テレビ西日本)は、中国から日本へ、また日本から中国へもたらす越境汚染に焦点をあてる。2007年5月以降、各地で発生した光化学スモッグ。多くの研究機関が、中国からの越境汚染を指摘した。中国で毎年36万人の死者を出していると推定される深刻な大気汚染の影響が、日本にも及び始めた。だが、こうした声は中国の市民からは反発をもって受け止められている。こうした対立関係をどうやって解消するのか。かつて「七色の煙」、「死の海」と呼ばれた深刻な公害と闘った北九州市の国際協力にスポットをあて、地方都市間の交流を足がかりにした問題解決を探る。

(番組内容)

 2007年5月以来、九州や日本海側の各県で、相次いで光化学スモッグ注意報が発令された。これに対して日本の多くの研究機関が、中国からの「越境汚染」を指摘した。北九州市では2007年には85の小学校の運動会が、光化学スモッグのために中止になるなど、市民生活にも影響が広がり始めた。
 番組の取材は、この運動会中止問題をきっかけにスタートした。まず注目したのは中国の人々が、「越境汚染」の指摘をどのように受け止めているか。取材班はオリンピックの開催地となる北京に渡り、中国政法大学の王燦発教授にインタビュー。日本の研究者が解析した越境汚染のメカニズムについて意見を聞いた。その結果、確認できたのは、容易に歩み寄ることができない、深い「対立の構図」が、両国の間に作り上げられていることだった。王教授の指摘は「日本が中国を汚染している」というもの。街頭でインタビューした北京の市民の多くが、こうした意見に同調した。
 「日本からの越境汚染」とは、どのようなものなのか。取材班は広東省のある村に足を運んだ。スワトウ市のグイユ村は、日本をはじめ、先進国から運ばれてくる電子ゴミによって汚染されており、子どもに深刻な健康被害が出ていた。こうした例は、両国の市民の感情的な歩み寄りを難しくするものでもある。
 一方で、光化学スモッグの越境汚染の影響は、目に見える形で広がりを見せ始めた。2008年4月、北九州市立大学の研究チームに同行し、長崎県壱岐を訪れた取材班は、農作物として栽培されていた「たばこ」の葉に、細かいキズが現れているのをカメラにとらえた。後に遺伝子レベルでの解析の結果、このキズは、光化学スモッグによる被害だったことが明らかに。壱岐は九州の西北に浮かぶ自然豊かな離島。偏西風の影響下に入る春先は、中国大陸の影響で九州の都市部よりも光化学スモッグの濃度が高くなる傾向にある。取材班は、北九州市立大学の一連の研究に密着取材する中で、越境汚染による農作物への影響の動かぬ証拠を突き止めた。
 越境汚染の影響が拡大する中、いま、日本の私たちは何をすべきなのか。これが、後半の取材のテーマになった。注目したのは、地方都市レベルの交流で、中国の環境対策に大きな成果をあげた、日本の環境都市、北九州の海外協力事業だ。高度経済成長期には、工場群がはき出す七色の煙に覆われ、排水が流れ込んだ洞海湾は死の海とも呼ばれた北九州市。しかし、「青空がほしい」と題された婦人団体の記録映画(1968年)をきっかけに、公害への取り組みを強め、8000億円の費用と20年の年月をかけた闘いの末に公害を克服した。
 北九州市はいま、自らの経験を生かすために、海外協力に取り組んでいるが、その大きな成功事例の一つが、中国・大連の環境改善だ。わずか10数年前までは公害の「るつぼ」だった大連は、北九州の技術援助などを受けて、今では中国の環境モデル都市となっている。
 取材班は、現在も続いている大連との技術交流の様子を現地取材した。北九州の民間企業OBが講師を務めたセミナーでは、中国の公害対策の「甘さ」が浮き彫りに。これに対して、公害を克服した北九州の、そして日本の経験が伝えられていった。その光景は、越境する環境汚染の問題を解決するための歩み寄りが、地方都市の交流からきっと生まれてくるであろうことを予感させた。
 越境汚染の問題は、両国に暮らす人々の未来のために、共同して取り組まなければならないものだ。大陸の風を変えるために、私たち一人一人に何ができるか。その答えを視聴者自身に見つけてもらいたいというのが、番組の狙いだ。

<ディレクター・調 崇史(テレビ西日本報道制作局報道部)のコメント>

 九州や日本海側の各県で、相次いで光化学スモッグ注意報が発令されたのは07年5月。中国からの越境汚染が指摘されたことから、九州の各地方自治体が、中国との協議などを国に求めてきましたが、これまでに大きな進展は見られていません。北京オリンピックの前には取り上げにくいテーマだからでしょう。
 こうした中で、環境問題をテーマにした工場見学・セミナーの開催のために、北九州市の関係者が大連市に渡ったことは、非常に印象深いできごとでした。北九州市は、5月の日中首脳会談の席でも、両首脳が見守る前で天津市と環境協力の覚え書きを交わしました。こうした動きは、国同士のレベルでは進めにくい分野の協力をこれからの地方都市の交流が担っていかなければならないということを物語っているように思います。日本には北九州以外にも公害を克服した多くの街があり、その中には、中国の地方都市と姉妹関係を結んでいるものもあります。日本の一都市が、中国の一都市を変えることができれば…。きっと違った未来が見えてくると思います。


<番組概要>

◆番組タイトル

第17回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『大陸の風はいま〜越境する環境汚染〜』(制作:テレビ西日本)

◆放送日時

2008年6月21日(土)深夜3時25分〜4時20分 放送

◆スタッフ

ナレーション
田久保尚英(テレビ西日本)
プロデューサー
小島 洋(テレビ西日本)
ディレクター
調 崇史(テレビ西日本)
構成
吉武雄二(VSQ)
撮影
江崎 新(VSQ)
編集
利光英樹(VSQ)
音楽
西 博司(ミュージックリザーブ)

2008年6月11日発行「パブペパNo.08-155」 フジテレビ広報部
※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。