FNSドキュメンタリー大賞
80万年前の氷河期の個体のまま生き残り、今や絶滅危惧種となった「イバラトミヨ」という淡水魚を通して、人と自然が共生するヒントを探るドキュメンタリー。

第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『氷河期が生きる川 〜イバラトミヨに迫る絶滅〜』

(制作:さくらんぼテレビジョン)

<2007年11月5日(月)深夜2時20分〜3時15分放送>

<企画概要>

 山形県東根市大富地区。ここでは昔から清涼な地下水が各所で湧き出し、人々はその湧水と共に生活を営んできた。そしてその湧水を源流とする「小見川」(環境省選定の、日本の名水100選の一つ)も清涼さを保ったまま、大富の人々に自然の恵みを与えてきたのである。
 清流ならではの水草や生物が生息する小見川。川の中では人間界とは別に独特な生態系が形成され長い歴史が刻まれてきた。その住人の一人「イバラトミヨ」はヨーロッパ大陸北部や北海道、東北地方だけに生息する淡水魚。しかも最近の研究で大富に生息するイバラトミヨは雄物型と呼ばれ、80万年前の氷河期の個体のまま生き残ってきたことが分かっている。
 しかし今、古代と現代をつなぐタイムカプセルとも言える希少な「イバラトミヨ雄物型」の生息数が減少の一途をたどっている。環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種1A類に指定され、保全が求められているのである。
 今でも他の川と比べればきれいな流れを保っている小見川で、なぜイバラトミヨは減少してしまったのか。番組ではその原因をさまざまな角度から検証し探っていく。

<番組内容>

 東根市大富地区で生まれ育った植松與悦さん(76)。小さい頃から水遊びをし慣れ親しんできた小見川の変化に気がつき始めたのは戦後まもなくのこと。川の水量(湧水量)が減り、昔はどこにでもいたイバラトミヨが姿を消し始めたのである。植松さんは1993年に川に濁流が押し寄せ、イバラトミヨが絶滅の危機を迎えたことを機に「大富イバラトミヨを守る会」会長に就任した。
「イバラトミヨは身内だから。最近そんな気がするね」そう語る植松さんは、川の清掃や小学校に訪問しての授業など積極的に活動を進めてきたが、具体的な原因や対策が見当たらず苦悩していた。
 我々はイバラトミヨや湧水事情に詳しい専門家などから力や知恵をもらい、イバラトミヨが減少した背景を探った。そこで見えてきたのは山や宅地、農地の開発が原因とみられる湧水の減少。さらに小見川には生活排水の一部が流れ込み、堆肥や農薬が地下に浸透しているという悪環境が、イバラトミヨのすみかと大切なエサを奪っていたのだ。それに伴い、必然的にその数を減少させてきたのである。
 今、全国各地で湧水の減少が叫ばれている。しかしそれは単に湧水が減ることを意味しているのではなく、綿密に張り巡らされた生態系の仕組みの崩壊を招こうとしている。戦後、人々は便利さや豊かさを求め開発を進めてきたが、こうした行為の全てが否定されるものではない。
 今、私たちに警告を送っているイバラトミヨ。人間はこの警告をいかに受け止め、自然との共生を図るべきなのか…番組ではイバラトミヨとそれを守ろうとする植松さんや地域の人々の活動を通してそのヒントを探っていく。

<今野栄雄ディレクター コメント>

 取材は植松さんの活動に密着するところから始まりました。「イバラトミヨを絶滅させたくないんですよ」と私たちに話しながら、週に一度は川に入って清掃をし、毎日のように文献をあさっては守るための方法を探す日々。最初は、なぜここまでしてイバラトミヨを守ろうとしているのかということが、あまり理解できませんでした。「絶滅」と一言で言われても我々人間はいまいちピンとこないものですが、取材の際、ある大学教授がこんなことを話していました。「飛行機のボルトがひとつ外れたことを想像してみてください」と…。気づいた時には思わぬ代償が私たちに降りかかってくるかもしれません。
 番組ではイバラトミヨの貴重な生態を撮影しています。体長5センチの氷河期の生き証人は、川の流れの中で必死に命をつないで生きようとしていました。この番組を見ていただいた全ての人に、その小さな魚が発するメッセージを感じ取っていただき、自分にもできることを考えていただきたいと思います。


<スタッフ>


 ナレーター 丸尾知子
 撮 影 大友信之
山岡  衛
小崎和彦
 編 集 長南亜希子
 構成 高橋  修
 ディレクター 今野栄雄
 プロデューサー 太田  健

2007年11月05日発行「パブペパNo.07-336」 フジテレビ広報部