FNSドキュメンタリー大賞
かつて世界にその名を轟かせた造船城下町、広島県・因島で、伝承に奮闘する職人、受け継ぐ若者たちの姿を通して、もの作りの奥深さ、その心を突き動かす彼らの思いの底を探るドキュメンタリー

第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『因島造船物語 撓鉄と生きる人々』

(制作:テレビ新広島)

<2007年9月10日(月)深夜1時10分〜2時5分放送>
(関東ローカル)

 2007年9月10日(月)深夜1時10分〜2時5分放送の第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『因島造船物語 撓鉄と生きる人々』はかつて日本造船業で世界にその名を轟かせた造船城下町、広島県・因島で、伝承に奮闘する職人、受け継ぐ若者たちの姿を通して、もの作りの奥深さ、その心を突き動かす彼らの思いの底を探る。

<企画意図>
 国内の新造船建造量が過去最高を記録するなど、にぎわう日本造船業界。しかし、その一方で技術の伝承が充分になされぬまま、今日に至ってしまった2007年問題が存在する。かつて、世界にその名を轟かせた造船城下町、広島県・因島も例外ではない。番組では、景気の波に翻弄されながら生き抜いてきた造船職人たちに密着。伝承に奮闘する職人、受け継ぐ若者たちの姿を通して、もの作りの奥深さ、その心を突き動かす彼らの思いの底を探る。

<番組内容>
 広島県の東南部にある因島。名産のハッサクが実り、瀬戸内海の魚に恵まれた、穏やかな空気の流れる小さな島。そんな島に、明治時代から続く造船所がある。そこは以前、世界でも有数の工場だった。そして、そこで日々、鉄板を焼き続ける人々がいる。撓鉄という工程を担当する職人たちだ。かつて世界一だった日本の造船業界が、再び活況を呈している。好調な中国経済の影響を受けて、新船の需要が増大しているからだ。因島の造船所も、長い不況を乗り越えて、20年ぶりの進水式を行なうなど、息を吹き返しつつあった。 因島の南端の町、土生にある「内海造船因島工場」。工場は、いくつもの変遷を経て続けられてきた。平均年齢50歳という、いびつな年齢構成が、好不況の激しい波を物語っている。
 そして、今、技術伝承の問題を抱えていた。島にある造船関連の企業と合同で、新人や若手職人に対して、造船技術の実習も行なっている。船は、鋼鉄の板を何百枚も張り合わせて造られている。波の抵抗を考えて、その一枚一枚が、実に複雑な流線型。中には、芸術品のような、3次元に曲がった鉄板もある。それらはすべて、一枚の平らな鉄板から生み出される。その鉄板を曲げるのが撓鉄の職人たち。道具は、火と水だけ。鉄は高温で熱すると膨張し、急激に水で冷やすとわずかにたわむ。ただその性質だけを利用して、滑らかに曲げていくのだ。ほとんど同じ型の鉄板はない。すべて手作業で進められていく。船首の部分など、一枚を曲げるのに10日近くも焼き続けなければならない鉄板もある。
 鉄板の上に置いた小さな椅子に腰掛け、一日焼き続ける。片手にはガスバーナー。もう一方の手には水道のホース。勢いよく噴き出す1000度近い炎でじっくりと鉄板を熱し、水をかけて冷ましていく。轟音が鳴り響く職場。ただ個人の仕事に没頭する職人の世界。ほとんど会話もない。焼く場所、焼く温度などにマニュアルはない。それを熟知し、自在に鉄板を操るには30年、40年の年期が必要という。気の遠くなるような仕事。
 その職場で作業している、撓鉄歴40年の熟練工と、10年の若手。熟練工の体に染み込んだ匠の技の伝承が、ここでも行なわれようとしていた。だが、それは一筋縄ではいかない。格闘の末、若手職人は長い階段をまた一つ、かけ上がっていった。
 多くの工員がそうであるように、その二人も因島に生まれ、因島に育った。彼らは、朝8時からの作業時間、日々淡々と鉄板に向かう。そして、造船の仕事が終わる夕方5時、大切な家族のもとへと帰って行く。週末は子どもと、そして夫婦で、変わらぬ休日を過ごしている。そしてまた、撓鉄の職場へ。造船の島で、ただ繰り返される彼らの日常。それを取り巻くのは、その静かな生活とはかけ離れた、激動の造船業界。しかし、彼らは、時代のうねりに背を向けるように、日々鉄板に向かう。その日常が、世界をめぐる大きな船の一部となり、造船大国日本を支えている。とてつもなく大きな力を生み出しているのだ。

<ディレクター・前田典郎のコメント>
 広島県・因島といえば造船。そう、広島の人間が想像する以上に、因島に生まれたものにしか解らない、造船の島の空気が流れています。彼らは当たり前のように造船の仕事を夢見て、そこに就職します。けっして環境のよくない職場であると知りながら。そして、何年も何十年も、一見、同じようにみえる作業を続けています。彼らが、「辛気くさい」という、その作業です。長い不況の間も、家族は決して仕事に口を出しません。そして、当たり前のように、その暮らしは、静かで幸せそうです。生きていく上で大切なもの。それは、「続ける」というシンプルなものだと教わりました。彼らは今日も鉄板に向かっています。その目の前の小さな一つの作業が、大きな力の一部になっているという誇りを、心の片隅に持って。


<番組概要>

 ◆番組タイトル 第16回FNSドキュメンタリー大賞
『因島造船物語 撓鉄と生きる人々』
 ◆放送日時 2007年9月10日(月)深夜1時10分〜2時5分放送
(関東ローカル)
 ◆スタッフ
  プロデューサー 山下雄三(テレビ新広島)
川口修治(TSSプロダクション)
  ディレクター 前田典郎(TSSプロダクション)
  企画 田中浩樹(テレビ新広島)
  音響 田町浩一(TSSプロダクション)
  構成 岩井田洋光
  ナレーター 棚田 徹(テレビ新広島)
  制作 テレビ新広島

2007年9月7日発行「パブペパNo.07-272」 フジテレビ広報部