FNSドキュメンタリー大賞
秋田県の小さな町で、
住職のコーヒーサロン開設という
自殺者減少に向けた活動を追うドキュメンタリー

第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品

『よってたもれ〜命をつなぐ一杯のコーヒー〜』

(制作・秋田テレビ)

<2007年5月26日(土)深夜4時5分〜5時放送>

 5月26日(土)深夜4時5分〜5時放送の第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『よってたもれ〜命をつなぐ一杯のコーヒー〜』(制作:秋田テレビ)は、住職のコーヒーサロン開設という自殺者減少に向けた活動を追う。

<企画概要>
 人口わずか4300人余りの秋田県藤里町では、この10年で30人もの人が自ら命を絶った。地元の住職が、悩みを気軽に話せるコーヒーサロン「よってたもれ」を開設し、自殺者減少に向けた活動を始める。その取り組みは、経営者を対象にした自殺予防のNPO法人や自殺遺族同士が心のケアを行う団体などに広がっていく。自殺予防の最前線を追った。

<番組内容>
 11年連続自殺率全国ワースト1。秋田県が1995年から持つ不名誉な記録。中でも世界遺産“白神山地”のふもとに位置する人口わずか4300人の藤里町では、この10年間に30人もの人が自ら命を絶った。「少しでも自殺者を減らしたい…」そんな思いから地元の住職、袴田俊英さんが、7年前に自殺予防に取り組む団体「心といのちを考える会」を立ち上げた。しかし、顔なじみの多いこの小さな町では、自殺は身内の恥であり、触れてはいけないタブーだった。それでも袴田さんは、講演会や会員同士の勉強会などを通して住民に“命の大切さ”を訴える…。
 そして4年前、袴田さんは、町の人が気軽に集まって話ができるコーヒーサロン「よってたもれ」を開設した。「よっていってください」という意味のとおり「よってたもれ」には、買い物帰りの主婦や一人暮らしのお年寄りなどさまざまな人たちが訪れ、袴田さんや会員と一緒にコーヒーを飲みながら世間話に花を咲かせた。時には、職場や家庭での悩みなど深刻な相談を持って訪れる人もいるという。「悩んでもいい。その代わり悩みを全て打ち明けてほしい。」袴田さんは、「悩みは人に話すことによって解決されていく」と言う。コーヒーの香りが漂う中、エプロン姿の住職は、人生の苦味をじっくりと受け止める。
 「心といのちを考える会」の立ち上げから4年後、藤里町では17年ぶりに自殺者がゼロになった。人のつながりが薄れている現在、住民が気軽に立ち寄って世間話ができる「よってたもれ」は、徐々に藤里の町の人たちの心の支えになっていった。袴田さんは「町の雰囲気がどこか変わってきた」と安堵の表情を浮かべる。
 そんな中、町に衝撃が走った。2006年春、連続児童殺害事件が発生した。幼いわが子を、そして近所に住む子供まで…。小さな町は騒然となった。袴田さんも町の教育委員長としてこの事件に巻き込まれていく。
 一方、袴田さんが信頼する仲間の一人、佐藤久男さんは、経営者を対象にした自殺予防に取り組んでいる。佐藤さんは不動産会社を経営していたが、販売不振が響き、2000年に倒産。財産もプライドも失い、うつ病となり、自殺を意識するようになった。そんな中、友人の経営者が倒産を苦に自殺。この出来事が 佐藤さんを大きく変えた。「倒産ごときで経営者を死なせてたまるか!」倒産から2年後、佐藤さんは、経営者の破産、倒産後の相談を専門に受けるNPO法人「蜘蛛の糸」を立ち上げた。「蜘蛛の糸」には、これまでに200社の経営者が相談に訪れた。そのほとんどが死を覚悟した人ばかり。きょう、あすにも自ら命を絶ち、生命保険金を借金返済に充てようとしている。まさに今そこにある危機を止めなければならない。佐藤さんは、自らの倒産経験を生かした独自のアイディアで人生再出発の道へと誘導する。
 ある日、住職、袴田さんのもとに、宮城県仙台市に住む、田中幸子さんという女性から手紙が届いた。34歳の息子が仕事のストレスで自殺、母親として息子の苦しみに気づいてあげられなかったと後追い自殺を考えているという。袴田さんはすぐに返事を書いた。「供養は誰がするのか、息子が生きてきた34年間しっかり供養してあげなさい。」亡くなった息子の供養は、家族として、親として当たり前のこと。手紙を受け取った田中さんは目が覚めたという。そして、同じように苦しんでいる自殺遺族を救いたいと「藍の会」を立ち上げた。「藍の会」では、月に1度、自殺遺族同士が分かち合い、支え合う会を開いている。これまでにおよそ60人の遺族が訪れ、ともに泣き、笑って、心の痛みを分かち合ってきた。「藍の会」を訪れ、ようやく元の生活が送れるまでになったある遺族はこう話す。「自殺遺族であることを隠すのは、死んでいった人の人生まで否定することになる…」。死に差別はない。決してふさぎこまないで前向きに堂々と生きていってほしい。「藍の会」が発する遺族による遺族のためのメッセージだ。
 秋田県では、年間2000万円もの予算を投じて自殺者減少に向けた取り組みを行っている。しかし、地域に密着し、きめ細かに活動できる民間団体の力は行政以上に大きい。袴田さんが始めた自殺予防への取り組みは、佐藤さんの「蜘蛛の糸」、田中さんの「藍の会」と着実に広がっている。“命をつなぐ一杯のコーヒー“。人生の苦味をしっかりと受け止めるため、きょうも彼らの活動は続く。

<ディレクター:菊池誉啓コメント>

 自殺予防に取り組む人たちは、真面目でどこか硬いイメージがありましたが、笑顔が印象的な方ばかりでした。「生きている限り人の悩みを聞き続けます。」そのパワーには脱帽です。秋田県は自殺予防のモデル県、先進県と言われていて、活動する人も増えています。自殺者数は減少傾向にありますが、それでも毎年400人を超える人が亡くなっています。「心に悩みを抱えている人には、まず誰かに話をしてみる勇気を持ってもらいたい。真剣に話を聞いてくれる人が必ずいる。あなたは一人ではない。」これが自殺予防の最前線の声です。番組を通して人のつながりについて、あらためて考えるきっかけとなったらと思います。


<番組概要>

◆番組タイトル 第16回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『よってたもれ〜命をつなぐ一杯のコーヒー〜』(制作・秋田テレビ)
◆放送日時 2007年5月26日(土)4時5分〜5時 放送
◆スタッフ
  プロデューサー 京野仁彦
  ディレクター・撮影・編集 菊池誉啓
  撮影 斎藤清孝
  音響効果 加藤彦次郎
  構成 関 盛秀
  ナレーター 野島昭生

2007年5月25日発行「パブペパNo.07-145」 フジテレビ広報部